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第四章:「新たなる大陸へ」

第55話 「魔王様に対する最弱の思い」

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 食事を終え、泊まる部屋に通された。
使っていない、部屋と言え施設の時の部屋とは比べ物にならない程、綺麗に掃除してある。

ベッドが1無いのが問題だが…
不安を覚えつつ、ベッドに立て掛ける様に鞄を置いた。

「ふふっ、1つしか無いのが、また

「バルバラも疲れただろう?早目に寝るといい」

これ以上に無い危機的状況だ。
どうしたらいいのか、必死で考える。

「ふふっ、もちろんサモンも一緒に寝るのだろう?ベッドは1つしか無いぞ」

満面の笑みで俺に微笑みかけたが、その微笑みが余計に不安を煽る。

だが、正直な所どうだ。

不安を感じる中に、惹かれているのもまた事実だ。

有耶無耶な感情のままでは…上手くいかないだろう。
それは自分の為でもあり、バルバラの為だ。

そして実際、バルバラの為に何かしてあげたいのも事実だ。

千思万考の末、俺はバルバラを呼んだ。

「バルバラ…?」

「ふふっ、どうした?」

「その…」

言おうとすれば口篭り、上手く伝える事が出来ない。
その様子を黙って見ているバルバラは、真剣な表情だ。

「その…俺は本当にバルバラに相応しいのだろうか…」

必死に考え出た言葉だ。

「ふふっ、大丈夫だ。共に歩もう」

そう言ってバルバラは俺を抱き寄せた。

「それに…私に何かあればくれるだろう?」

助けて貰ってる俺がバルバラを守る…?
今はそんな実力まで持ち合わせていない。

言葉に返事をしかねているとバルバラが先に口を開いた。

「大丈夫だ。サモンは魔王の夫になり、になる人だ。実際、共に歩みゆく中で着実に成長しているでは無いか?」

―――将来の楽しみの中には、サモンの成長を見るのも入っている―――

俺はその言葉を聞き、薄々気付いていた感情を認めた。

「ありがとう…俺は…バルバラを

あの時の悔しさはもう味わいたくはない。
守る為にはまず、自分を守れる様に。

俺はバルバラに好意を抱いている。
共に冒険する内に、バルバラの為になれるなら。
そんな思いを抱く内に、いつしか好意を抱いていた。

「その…これからもよろしくな?」

そうは言ったもののやはり、改めて言うと恥ずかしさを隠し切れない。
俺はバルバラを離してしまった。

「ふふっ、こちらこそ…あなたサモン?」

微笑み掛けながら言われた言葉に、今まで以上に照れてしまった。

「な、なにを言ってるんだ!?」

「ふふっ、将来の為にのも良いではないか?」

流石に恥ずかしさに耐えれそうにない為、バルバラの提案は遠慮した。

「ふふっ、分かった。ならこれからも、『サモン』と呼ぼう」

俺はその返事に安堵した。

――――――――――――――

翌朝、鳥のさえずりと共に目が覚めた。
窓からは朝日が差し込み、天気も良い。

バルバラはと言うと、ベットでは無く同じく床で寝ていた。

(ベッドで寝れば良いのに…)

そんなバルバラは寝息をスヤスヤとたて、寝顔は少し笑っている。
昨日の事が嬉しかったのだろうか。
それとも、何か良い夢でも見ているのだろうか。

そんな事を考えて、思わず笑みが零れた。

(さて、そろそろ起きようか)

俺はバルバラの肩を揺すった。

「んー…ふふっ、おはよう」

「おはよう」

重い瞼を擦り、挨拶をした。

「さて、部屋を出るか」

「ふふっ、そうだな」

俺は鞄を取り、 支度をした。
そして、少しだけ片付けて、部屋を出た。

扉を開けると、カミラが立っていた。

「おはようございます。丁度朝ごはんが出来たので、呼ぼうかと」

「わざわざありがとうございます」

テーブルの上には既に料理が並べられている。

そして、俺達は椅子に掛け、食べ始めた。

「いっぱい食べて下さいね」

「ふふっ、ありがとう」

奥さんの言葉もあり、バルバラは凄い勢いでかき込んで行く。

「そ、そんなに慌てなくてもお代わりはありますから…」

「……バルバラはこれが普通なんです…」

「あら……そうなの?」

「えぇ」

そんな俺達の会話など、意に介さず幸せそうな表情で、料理を口に入れていく。

噛み、そして飲み込む速さが、かき込む量と比べあまりにも少ないのが、少し不安になった。

「バ、バルバラ…ちゃんと噛んでいるか?」

「ふふっ、大丈夫だ。私は『魔――ゴホッゴホッ」

そんな俺の言葉を返そうとした時に、俺の心配は当たった。

案の定、バルバラはむせてしまった。

「大丈夫か?」

「ふふっ、大丈夫だ…」

少し懲りたのか、先程と比べ口にかき込む量を減らした。
そんな姿を見て、奥さんは苦笑いしている。

無理も無い。

俺も思わず笑ってしまった。

そう言えば、カールは何処だろうか。
バルバラの背中をさすりつつ、カミラに聞いてみた。

「そう言えば、旦那さんはどこですか?」

「あの方なら船の準備をしているわ」

そうだったのか。
そんな言葉を聞き、何だか朝早くから作業させてしまった事を申し訳なく思った。

「ふふっ、サモン?相変わらず美味しいな?」 

「あぁ、そうだな。美味しい」

そんな事を言ってきたバルバラは既に普段通りにいる。

また、むせないだろうか。

バルバラの皿が綺麗になり、奥さんが聞いてきた。

「お代わりは入りますか?」

「ふふっ、頂こう」

その返事を聞き、奥さんはキッチンの方へ皿を運んで行った。

「ふふっ、サモン?」

「ん?どうした?」

バルバラは口を開けて、を待っている。
どうやら食べさせて欲しいのだろう。

だが、人前もあるのだぞ。

しばらく考えたが相変わらず、口を開け続けているバルバラに、仕方なく料理をバルバラに食べさせてあげた。

「ふふっ、ありがとう。料理も美味しいが、サモンに食べさせて貰うと余計に美味しいな」

俺はその言葉に相変わらず照れてしまった。
誤魔化す様に、俺も料理をかき込んだ。

―――――
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