恋愛小説短編集

夢祭(ゆさ)

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全部ぜんぶ、熱のせい。

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「38.9℃………はぁ、完璧風邪だね」
「すみま、せん、せっかく、の、デートだっ、たのに」
「別に……」

あたまがわれるようにいたくて、からだが私なのにわたしじゃないみたいにうごかなくて、ねつをだすなんて、高校のとき勉強しすぎてちえねつを出したとき以来のことだった。
今日は三ヶ月ぶりに彼とデートする予定だった。オシャレして彼に「可愛い」って言ってもらいたくて、張り切りすぎちゃったみたいだ。普段は言ってくれない言葉。聞きたかっただけなのに。デート出来ないなら元も子もない。

「さ、むい……」
「当たり前でしょ風邪ひいてこんなに熱あるんだから。ほら、湯たんぽ」
「ありが、とう、ござい、ます。」
「ん」

けれどその湯たんぽは、湯たんぽなのになぜかあんまり暖かくなかった。ただ人工のものをだいてるきぶん。かれのぬくもりが恋しい。けれど、きっと、抱きしめてほしいなんてめいわくなんだろう。ただでさえ、風邪をひいていてうつしてしまうかもしれないのに………

「お粥、作ってくるね」
「え、あ、、」

ベットのそばから離れようとする彼、「やだ、いかないて」そんな言葉が言えたらいいのに。「さみしい」も「そばにいて」も、私のわがままだって分かってる。わかってるけど、言いたくてでも言えないくて、体は上手く動かないしもう、パニックだ。

「………その顔、やめて、俺にどうして欲しいの?」
「え。あ、えっと___」
「言わなきゃわかんないよ」
「__あの、だきしめ、て、ほしい………」
「っ、だから!その顔、反則だから、ばか」 

彼は私の布団へと入り、後ろから抱きしめた。
ふっと、かれの、あたたかさがして、なみだがあふれてく。なくつもりなんて、ないのに

「なんで、泣いてんの……嫌だった?」
「い、いやじゃ、ない、」
「じゃあなんで」
「う、うれしかった、か、ら」

はずかしい、かおから火がでそうだ、ねつがあるんだからあついのなんてあたりまえだけど

「あ、の、亜貴あきさん」
「ちょ、今こっち見ないで…!」
「え、なんで、ですか?」
「……」 
「いわれ、ないと、わかんな、いです」
「……その顔、俺の我慢か効かなくなりそう。」
「え、」
「あーーバカっだからこっち見んな」
「………私、亜貴さんになら、なにされても 、いいです……よ?」 
「っ!!ばかっ、これ以上煽んないで!」
「あおって、ない、です、」
「あーもう!顔が赤いのも!その涙目も、全部全部煽ってるでしょ!」 
「あおっ、てない、です!!」
「あーもう!分かったから、ちょっと黙ってて!!」

瞬間、私の唇に柔らかいものが触れた。やさしく、でも噛み付くようにどんどん深く深くなっていく。熱を帯びる頬。息が苦しくなる長い長いキス、どんどん彼に食べられていくみたいな感覚。



「かぜ、うっちゃいます、よ、」 
「煽ったくせに……別に、れいの風邪ならいい。」
「ふふ、」

赤ちゃんに触れるみたいに、彼の唇が真っ赤なりんごほっぺ、まぶた、あたま、そして唇に、雨のように降ってくる。 
くすぐったくて、けれど、あたたかくてきもちがいい。

「っ、かわいい」
「え、いま、っん」

また、唇に、熱いものが触れる。ふかい、ふかい、溺れてしまうような感覚。
彼の口付けかあついのも、私の顔があついのも


__きっと、全部ぜんぶ、熱のせい。
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