1 / 9
紳士は独白する
しおりを挟む
アユミは学生時代、陸上部だったという。
最近はめっきり運動不足だと言っていたが、それでも体型は野生動物の様にしなやかで美しかった。
だから甘辛くスペアリブにした。
ユカリは少々肉付きが良くて、コロコロとしていた。髪もふわりとした亜麻色で地毛だという。ピノ・ノワールという赤ワインが好きでよく飲んでいた。
だからボルシチにした。
エリは中肉中背でコレといった特徴のない娘だったが、体臭がとても芳しく常に良い香りがした。どうやら自分でブレンドしたハーブティーを欠かさず飲んでいるらしく、体臭もそれによってある程度コントロールしているらしい。
だから調味料は使わず、塩焼きにしてハーブを添えた。
どの女の子たちもご多聞に漏れず、えも言われぬ程に美味かった。
アユミは上等な地鶏のような食感だったし、ユカリは程よく脂がのっていて、彼女の好きだったワインとの相性は抜群だった。エリと言えば、噛めば噛むほどに彼女自慢の芳香が口一杯に広がって私を幸せな気持ちにさせてくれた。
私は例外なく彼女たちを愛した。ただし、一般の男たちがする愛し方とはいささか違ったやり方で。
私は彼女たちを喰ったのだ。
私は、世間で言うところのサイコキラーである。自分でも異常なのは解っている。いや正確に述べるのであれば自分が他者とは少し違う考え方だと理解している。
しかしそれが、人の道理に反しているだとか非人道的だとかは思ったことは一度もない。ただ単に「こういうことすると何でか皆が怒るんだよなあ」くらいに感じていた。
自分が反社会的で異常な人間であると言及してくれたのは産まれて初めて付き合った女性、真希だった。
真希は大学の同級生で、聡明な美しい娘だった。彼女はカウンセラーの勉強をしていて、よく私を相手にカウンセリングの練習をしていた。
そして彼女が受ける授業の項目が「精神病質者」、俗に言う「サイコパス」についての内容になった時だった。
優秀な彼女は見習いの身でありながらも私の心の奥深く、深淵の部分に到達してしまった。彼女は言った。
「病院に行きましょう」
と。
こうも言った。
「本当に可哀想なヒト。アナタは悪くないのよ」
と。
涙を流しながら抱きしめてくれたっけ。私は生まれて初めて、他者からの深い愛を感じた。自分へと一心に注がれる慈しみを感じた。嬉しかった。
だから私もその気持ちに応えることにした。
最愛の彼女には余計な手を一切加えず、そのまま生でいただいた。
彼女を頬張った瞬間、恍惚にこの身は打ち痺れ溢れ出る幸福感と共に感涙が頬を伝っていった。これこそが究極の愛の形であると、その時確信した。舌先が彼女との思い出を蘇らせてくれる。
澄ました顔。
怒った顔。
泣いた顔。
そして一番美しい、微笑んだ顔。
彼女との思い出は最高の調味料であり、最高のスパイスであり、最高の付け合わせであった。
この時は経験が浅かった故まるで気が付かなかったことなのだが、私が対象を深く愛すれば愛するほど、同時に対象が私を愛すれば愛するほどに私がその肉を口にした時の味わいに深みが増すことが解った。これは、性交時に得られる快感が意中の相手とそうでない相手の場合で大きく異なる事に非常に似通っている。私にとって相手を食す行為は意中の相手との初めての性交渉のそれに等しい。
あるいは、それ以上の快感かもしれない。
誰にとっても「初めて」が一度きりしかないのと同じ様に。私の快感も同じ相手に二度目は無い。何せ相手は肉片になってしまうから。だからこそ、その一回が貴重でありその有限の中に至福に感じる。その儚さが、より愛おしさを感じさせてくれる。
私は人でなしの化け物なのかもしれない。
非常に受け入れ難くはあるのだが、この社会で生きていくにはそう思わざる得ない。だが私自身はこの行為に何ら恥じるところはなく、あくまでも自分にだけ与えられた他者を愛する崇高な行為だと確信している。食事と性行為を混合させた、究極の愛情表現。
世間は私を喰男などと名付け食人鬼呼ばわりしている。鬼と言われるのは心外だ。正直、上っ面では社会に合わせてやっているが私は自分の生き方を変えるつもりは毛頭ない。
そんな私の前に今、初恋の相手、真希以上に心を掴まれる相手が現れたのは、春のことだった。
ツヅク
最近はめっきり運動不足だと言っていたが、それでも体型は野生動物の様にしなやかで美しかった。
だから甘辛くスペアリブにした。
ユカリは少々肉付きが良くて、コロコロとしていた。髪もふわりとした亜麻色で地毛だという。ピノ・ノワールという赤ワインが好きでよく飲んでいた。
だからボルシチにした。
エリは中肉中背でコレといった特徴のない娘だったが、体臭がとても芳しく常に良い香りがした。どうやら自分でブレンドしたハーブティーを欠かさず飲んでいるらしく、体臭もそれによってある程度コントロールしているらしい。
だから調味料は使わず、塩焼きにしてハーブを添えた。
どの女の子たちもご多聞に漏れず、えも言われぬ程に美味かった。
アユミは上等な地鶏のような食感だったし、ユカリは程よく脂がのっていて、彼女の好きだったワインとの相性は抜群だった。エリと言えば、噛めば噛むほどに彼女自慢の芳香が口一杯に広がって私を幸せな気持ちにさせてくれた。
私は例外なく彼女たちを愛した。ただし、一般の男たちがする愛し方とはいささか違ったやり方で。
私は彼女たちを喰ったのだ。
私は、世間で言うところのサイコキラーである。自分でも異常なのは解っている。いや正確に述べるのであれば自分が他者とは少し違う考え方だと理解している。
しかしそれが、人の道理に反しているだとか非人道的だとかは思ったことは一度もない。ただ単に「こういうことすると何でか皆が怒るんだよなあ」くらいに感じていた。
自分が反社会的で異常な人間であると言及してくれたのは産まれて初めて付き合った女性、真希だった。
真希は大学の同級生で、聡明な美しい娘だった。彼女はカウンセラーの勉強をしていて、よく私を相手にカウンセリングの練習をしていた。
そして彼女が受ける授業の項目が「精神病質者」、俗に言う「サイコパス」についての内容になった時だった。
優秀な彼女は見習いの身でありながらも私の心の奥深く、深淵の部分に到達してしまった。彼女は言った。
「病院に行きましょう」
と。
こうも言った。
「本当に可哀想なヒト。アナタは悪くないのよ」
と。
涙を流しながら抱きしめてくれたっけ。私は生まれて初めて、他者からの深い愛を感じた。自分へと一心に注がれる慈しみを感じた。嬉しかった。
だから私もその気持ちに応えることにした。
最愛の彼女には余計な手を一切加えず、そのまま生でいただいた。
彼女を頬張った瞬間、恍惚にこの身は打ち痺れ溢れ出る幸福感と共に感涙が頬を伝っていった。これこそが究極の愛の形であると、その時確信した。舌先が彼女との思い出を蘇らせてくれる。
澄ました顔。
怒った顔。
泣いた顔。
そして一番美しい、微笑んだ顔。
彼女との思い出は最高の調味料であり、最高のスパイスであり、最高の付け合わせであった。
この時は経験が浅かった故まるで気が付かなかったことなのだが、私が対象を深く愛すれば愛するほど、同時に対象が私を愛すれば愛するほどに私がその肉を口にした時の味わいに深みが増すことが解った。これは、性交時に得られる快感が意中の相手とそうでない相手の場合で大きく異なる事に非常に似通っている。私にとって相手を食す行為は意中の相手との初めての性交渉のそれに等しい。
あるいは、それ以上の快感かもしれない。
誰にとっても「初めて」が一度きりしかないのと同じ様に。私の快感も同じ相手に二度目は無い。何せ相手は肉片になってしまうから。だからこそ、その一回が貴重でありその有限の中に至福に感じる。その儚さが、より愛おしさを感じさせてくれる。
私は人でなしの化け物なのかもしれない。
非常に受け入れ難くはあるのだが、この社会で生きていくにはそう思わざる得ない。だが私自身はこの行為に何ら恥じるところはなく、あくまでも自分にだけ与えられた他者を愛する崇高な行為だと確信している。食事と性行為を混合させた、究極の愛情表現。
世間は私を喰男などと名付け食人鬼呼ばわりしている。鬼と言われるのは心外だ。正直、上っ面では社会に合わせてやっているが私は自分の生き方を変えるつもりは毛頭ない。
そんな私の前に今、初恋の相手、真希以上に心を掴まれる相手が現れたのは、春のことだった。
ツヅク
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる