その香り。その瞳。

京 みやこ

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(76)SIDE:奏太

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 それきり黙ってしまうと、斗輝がやや鋭い声で僕の名前を呼んだ。
「奏太」
 僕はピクリと肩を跳ね上げ、ドキドキしながら次の言葉を待つ。
 どうやって誤魔化そうかと考えているうちに、斗輝の黒い瞳が正面から僕を捉えた。
「そんな寂しそうな顔をしていて、なんでもない訳がないだろ。ちゃんと話してくれ」
 僕の言葉を信用していないというよりも、僕が心配だからこそ、斗輝は僕の胸の内を探ろうとしてくるのだろう。
 だけど、正直に言っていいものだろうかという迷いが、どうしたって僕の中から消えない。
 斗輝が大好きだからこそ、嫌われたくなくて言えない。
 こんなくだらないわがままで、彼を心配させたくない。
 気に掛けてくれる彼には悪いと思ったけれど、僕はフルフルと首を横に振った。
「本当に、なんでもない」
 できる限り何気なさを装い、僕は小さく笑って見せる。
 そして怠い足になんとか力を入れて、彼の膝の上から下りようとした。
 いつまでもこのままでいたら、うっかり続きを催促してしまいそうだ。
 少しだけ腰を浮かした次の瞬間、斗輝が大きく腰を突き上げた。
 ナカに収まっていた彼のペニスが、グンと僕の前立腺を抉る。
「やっ、あぁっ!」
 思わず、甲高い嬌声が僕の口から零れた。
 ガクリと足から力が抜け、元の体勢に戻ってしまう。
 ふたたび深い部分で彼のペニスを感じながら、斗輝を見つめ返した。
「な……、なに?」
 驚きに目を見開いて問いかけると、彼はジッと僕を見つめたまま、また大きく腰を突き上げる。 
 僕たちが使っているベッドは頑丈な造りをしているけれど、二人分の体重がかかってギシリと鈍い音を立てた。
 とはいえ、壊れる気配はまったくない。
 スプリングが軋む音は、連続して僕の耳に届く。
「ま、待って……、んっ、ふ……」
 絶頂を迎えた直後であり、斗輝の存在を体の奥で感じたかった僕は、即座に快感を拾ってしまう。
 僕のわがままから早く彼を解放してあげたいと思うのに、気持ちいいポイントに刺激を与えられてしまうと、その意思が簡単に覆されそうになっていた。
「あ、あ……、斗輝、動かな、い、で……、んんっ」
 これでは、続きを催促してしまうのも時間の問題である。 
 二度の絶頂を与えてもらえて、もう十分すぎるほどだ。これ以上欲張ったら、いくら優しい彼でも呆れてしまうはず。
「は、あ……、斗、輝……、ダメ……。気持ちよく、なっちゃうから……」
 彼のペニスで抉られる前立腺も、連続してノックされる最奥も、さらなる刺激を求め始めていた。
 一刻も早く彼から離れないと、僕は自分のことを制御できなくなる。
 発情期ではなくても、快感が理性を呑み込もうとしていた。
 なのに、斗輝は連続して腰を突き上げ、ズンズンと勢いよく僕のナカを刺激し続けた。
「奏太、気持ちよくなっていいんだぞ。遠慮することはないんだ」
 そう言って、彼はひときわ大きく腰を突き上げる。
 優しくて僕をなによりも大事にしてくれる彼のことだから、僕の心の奥に潜めた感情を読み取り、わがままな僕に付き合ってくれているのだろう。
 先ほど放たれた彼の精液と僕の体から滲む分泌液が、グジュッという低く湿った音を立てた。
 それに重なり、甘く蕩けそうな僕の嬌声が寝室に響く。
「やぁ……、あんっ!」
 僕は彼の肩にギュッとしがみつき、快感を逃がそうとして首をブンブンと横に振った。
 だけど、斗輝が与えてくれる快感は、そんなものでは消えてくれない。
 突き上げられるたび、ただひたすら、揺さぶられるままに嬌声を上げ続けた。
「あ、あ……、ん……」
 鼻にかかった小さな嬌声は、自分で聞いても甘ったるい。
 つまり、僕の理性がさらに薄れていることを示していた。

――このままじゃ、ダメだ……。

 僕は下唇を噛むことで、痛みにより理性を取り戻そうとする。
 ところが、そんな僕の唇に斗輝は強引に自身の舌を捻じ込んできた。
 受け入れてはいけないと思うのに、アルファを求めるオメガの本能なのか、オズオズと唇を薄く開いてしまう。
 肉厚な舌が僕の口内を舐り始めると、僕は歯を食いしめることができない。
 突き上げられる衝撃で彼の舌を噛んではいけないと思い、力を抜いて口を半開きにした。
 すぐさま彼の舌が、いやらしい動きを見せてくる。

――やわらかい、あったかい、気持ちいい……

 心の中でうっとりと呟く僕だが、このままではいけないことを思い出した。
 斗輝とのキスは頭の芯を加速度的に蕩けさせてしまうから、今の僕にはとても危険だ。
 ハッと我に返った僕は必死になって彼の舌を追い出そうを自分の舌を動かすものの、斗輝はそれ以上に器用に舌を操り、僕の舌を絡めとって吸い上げる。
 キスを受ける時間が長くなるほど、僕の理性はホロホロと崩れていく。
「は、ふ……」
 おかげで彼の唇が離れた瞬間、甘さを増した呼気が声と共に漏れた。
 斗輝は満足そうに口角を上げると、改めて僕の体を強く抱き締める。
「少し掠れた奏太の声も、可愛くていつまでも聞いていたい」
 クスッと笑った斗輝が、今度は小刻みに前立腺だけを突いてきた。
 これまで激しく抉られていたソコを一転して優しく攻められると、もどかしさが募って泣きたくなる。
 思わず、「もっと、強く突いて」とねだってしまいそうだ。
 僕はそれだけは言わないようにと、必死に堪える。
「斗、輝……。お願い、止まって……」
 ところが、そんな僕の頑張りは、彼のちょっぴり意地悪な注挿によって簡単に崩されてしまう。
 ベッドのスプリングの反動をうまく活かし、斗輝の腰の動きがますます早くリズミカルになった。 
「なにを我慢するんだ? いくらでも気持ちよくなっていいんだぞ」
 斗輝は僕を抱き締めることでペニスの先端が当たる位置を絶妙に調節し、より正確に僕の前立腺を攻めている。
 僕はハァハァと忙しない呼吸を繰り返し、なんとか快感に流されないように抵抗していた。
「奏太、声を聞かせてくれ。ココは、気持ちよくないのか?」
 そう言って、彼はこれまでよりも腰の動きを小さなものに変える。しかも、わざと当てるポイントをずらしてきた。
 おかげで、前立腺に与えられる刺激が急激に物足りなくなり、僕の唇が物を言いたげに開き始める。

――お願い、強く突いて……。もっと、もっと……

「あぅ……、もっと……」
 僕の理性が快感に負け、とうとう斗輝にねだってしまった。
 頭の片隅で『しまった』と思うものの、出てしまった言葉は戻せないし、僕の体と心が限界を迎えていて、これ以上の我慢ができない状態だ。
 複雑な感情を抱えて彼を見ると、幸せそうに微笑んでいる彼と目が合った。
 その笑顔に見惚れていたら、ふいに激しい突き上げが始まる。
「ああっ!」
 歓喜に満ちた嬌声が、勢いよく僕の口から飛び出した。
 頭の先から足の先まで、それと心の奥まで気持ちよかった。
 彼の腰の動きに合わせて喘いでいたら、斗輝がフフッと声を出さずに笑う。
「奏太は、意外と強情なんだな。だが、必死に我慢している奏太の表情は、可愛くて色っぽいから、いくらでも見ていられる」
「ん、ん……。斗輝……、嫌じゃない?」
 喘ぎつつ問いかけたら、彼は微笑みながら軽く首を傾げる。
「なにが?」
「……僕、わがままで。二回もイッたのに、まだ、斗輝が足りなくて……、は、あ……」
 それを聞いて、切れ長の瞳が僅かに大きく開かれた。
「そうか、奏太が気にしていたのは、そのことだったのか」
 少しだけ突き上げる力を弱め、斗輝が僕の唇にチュッと小さなキスをした。
「奏太に求められると、俺はすごく嬉しくて幸せな気分になる。長いこと待ち望んだ番にこうして求められて、嬉しくない訳がないんだ。だから、奏太は遠慮なく俺に抱かれてほしい」
 黒曜石の瞳の奥には、優しさと甘さと情欲が入り混じり、とても魅力的な光を放っている。
 快感に溺れている僕が見ても、嘘だとは感じられなかった。
 それでも、思わず訊いてしまう。
「……いいの?」
 斗輝はすかさず口を開く。
「もちろん。何度も言っているだろ、俺は奏太を愛してやまないって。こうして、奏太と一番深いところで繋がっているのは、最上の幸せだ。むしろ、俺のほうが止められそうにないぞ」
 もう一度僕の唇にキスをした彼の瞳が、ギラリと輝く。
「なら、お互い遠慮はなしだ」
 そう言い終えると同時に、猛烈な勢いで抽挿が再開した。
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