118 / 211
悠久の王・キュリオ編2
突如やってきた異変3
しおりを挟む
昼食の時間になるとちゃんと戻ってきた子供たち。それでも共に食事を取ることが許されていないため、アレスとカイは別室へと下がっていった。
アオイは花々に囲まれた中庭の一角へと用意された子供用の小高い椅子へと座らせられると、父親であるキュリオを待つまで侍女らが話し相手になっていた。
「まあ美しい花冠に腕輪! 姫様によくお似合いですわっ」
「へへっ」
嬉しそうに笑ったアオイは侍女らがよく見えるように腕を差し出している。
「よい香りがすると思ったらアオイが居たのだな。冒険は楽しかったかい?」
「おとうちゃまっ」
アオイの瞳がキュリオを捉えると、嬉しそうに両手を広げたアオイを一度愛おしそうに抱きしめてから向かい合わせに用意された自身の椅子を手繰り寄せ、アオイの隣へ移動させたキュリオは人目も憚(はばか)らず娘の頬へと唇を押し当てる。
よい香りのことを彼女の頂きや手首を飾る花のこととは言わず、アオイ自身を示したのはキュリオらしいと言えようか。
アオイは頭上の花冠と手首の腕輪を指さしながらアレスとカイが作ってくれたのだと眩しいばかりの笑顔で教えてくれる。
「そうか。だが、食事中にそれらを纏っていては食べにくいだろう?」
優しく諭しながら、それらをそっとテーブルの端へと追いやったキュリオたちの前には次々と食事が運ばれてくる。
「…………」
侍女らと違って、キュリオはそれほど褒めてくれないことにアオイは少し疑問に思いながら、手の届かないところに置かれてしまった花の飾りを静かに見つめる。
「さあアオイ。お腹がすいただろう」
短めの握りやすい子供用のフォークを女官に手渡されたアオイが目の前のフルーツに手を伸ばすと、行く手を阻むようにキュリオの手がフルーツに伸びてアオイの唇の前に差し出した。
「……」
ここからどうすればよいかはもうわかっている。
花びらのような可愛らしい唇が小さく開かれると、スムーズに入ってきたフルーツは甘く蕩けるようにアオイの口内へと広がった。
瑞々しい果実の密がアオイの口の端から一筋流れると、親指でそれを拭ったキュリオはその指先を己の唇へ運ぶ。
「ふふっ、お前が私のもとに来てからこの一帯に成る果実たちがとても甘くなった」
それは悠久の王たるキュリオの心が甘くなった影響だろうと、その場に待機している女官や侍女らは思った。
大地に降り注ぐ王の力は至る所に影響し、特に王宮の庭で育てられた花々や果実は彼の間近に生息しているため恩恵を受けやすい。
「これほど大きな愛に当てられては果実たちも甘くなりましょう」
女官の薄く紅をひいた艶やかな唇が優し気に弧を描く。言われたキュリオはアオイから目を離さず「そうだな」と自嘲気味に笑った。
「……?」
キュリオが食事を始めると、今度こそ自分で食べようとフォークを伸ばすと再び遮られてしまう。
何でもひとりでやってみたいお年頃のアオイには少しの不満があったが、娘の小さな心の変化に気づかないほどキュリオの愛情は浅くない。
「まだまだお前を甘やかしたい私の心に免じて許しておくれ」
本当は膝にのせて食事したいほどの気持ちがキュリオにはあるが、万が一自分が同じ席につけない場合、アオイが食事を受け付けなくなっては大変だと憂慮したのだ。
だが、その心を周りに聞かせれば、「それは今やっていることも同じことだろう」と言われたに違いない。そのあたりは疎いキュリオであった。
アオイは花々に囲まれた中庭の一角へと用意された子供用の小高い椅子へと座らせられると、父親であるキュリオを待つまで侍女らが話し相手になっていた。
「まあ美しい花冠に腕輪! 姫様によくお似合いですわっ」
「へへっ」
嬉しそうに笑ったアオイは侍女らがよく見えるように腕を差し出している。
「よい香りがすると思ったらアオイが居たのだな。冒険は楽しかったかい?」
「おとうちゃまっ」
アオイの瞳がキュリオを捉えると、嬉しそうに両手を広げたアオイを一度愛おしそうに抱きしめてから向かい合わせに用意された自身の椅子を手繰り寄せ、アオイの隣へ移動させたキュリオは人目も憚(はばか)らず娘の頬へと唇を押し当てる。
よい香りのことを彼女の頂きや手首を飾る花のこととは言わず、アオイ自身を示したのはキュリオらしいと言えようか。
アオイは頭上の花冠と手首の腕輪を指さしながらアレスとカイが作ってくれたのだと眩しいばかりの笑顔で教えてくれる。
「そうか。だが、食事中にそれらを纏っていては食べにくいだろう?」
優しく諭しながら、それらをそっとテーブルの端へと追いやったキュリオたちの前には次々と食事が運ばれてくる。
「…………」
侍女らと違って、キュリオはそれほど褒めてくれないことにアオイは少し疑問に思いながら、手の届かないところに置かれてしまった花の飾りを静かに見つめる。
「さあアオイ。お腹がすいただろう」
短めの握りやすい子供用のフォークを女官に手渡されたアオイが目の前のフルーツに手を伸ばすと、行く手を阻むようにキュリオの手がフルーツに伸びてアオイの唇の前に差し出した。
「……」
ここからどうすればよいかはもうわかっている。
花びらのような可愛らしい唇が小さく開かれると、スムーズに入ってきたフルーツは甘く蕩けるようにアオイの口内へと広がった。
瑞々しい果実の密がアオイの口の端から一筋流れると、親指でそれを拭ったキュリオはその指先を己の唇へ運ぶ。
「ふふっ、お前が私のもとに来てからこの一帯に成る果実たちがとても甘くなった」
それは悠久の王たるキュリオの心が甘くなった影響だろうと、その場に待機している女官や侍女らは思った。
大地に降り注ぐ王の力は至る所に影響し、特に王宮の庭で育てられた花々や果実は彼の間近に生息しているため恩恵を受けやすい。
「これほど大きな愛に当てられては果実たちも甘くなりましょう」
女官の薄く紅をひいた艶やかな唇が優し気に弧を描く。言われたキュリオはアオイから目を離さず「そうだな」と自嘲気味に笑った。
「……?」
キュリオが食事を始めると、今度こそ自分で食べようとフォークを伸ばすと再び遮られてしまう。
何でもひとりでやってみたいお年頃のアオイには少しの不満があったが、娘の小さな心の変化に気づかないほどキュリオの愛情は浅くない。
「まだまだお前を甘やかしたい私の心に免じて許しておくれ」
本当は膝にのせて食事したいほどの気持ちがキュリオにはあるが、万が一自分が同じ席につけない場合、アオイが食事を受け付けなくなっては大変だと憂慮したのだ。
だが、その心を周りに聞かせれば、「それは今やっていることも同じことだろう」と言われたに違いない。そのあたりは疎いキュリオであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる