【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

サイドストーリー3

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 一行が街に差し掛かったのは日差しが最も高くなる昼頃だった。一際大きな街並みを馬車が音を立てて進むと、静かに目を閉じていたキュリオは数多の気配を近くに感じ瞼を開いた。

「街に入ったか」

「そのようでございますな」

 ガーラントが窓を遮るカーテンをわずかに開いて外の様子を窺うと、先ほどとは比べ物にならないほどの人だかりが視界に飛び込んできた。

「相当な数の民が出迎えておりますぞ! キュリオ様が民に慕われている証拠ございますな!!」

 溢れかえった群衆の中を行くキュリオを乗せた馬車。民の輝きに満ちた瞳はまだ王の姿を捉えることは叶わなかったが、我さきに一目見ようと集まった彼らの群れは馬車に導かれるようにともに移動していく。

「キュリオ様、間もなく館に到着するようです」

「ああ、時間通りだな」

 キュリオ一行が館の敷地へ入るなり、大きく開かれた門が閉ざされると忽ち群衆の声は遠のいていった。
 再び馬の蹄の音が響くと、やがて止まったそれは目的地への到着を意味していた。

「キュリオ様、長旅御疲れ様でございました」

 静かに開かれた馬車の扉を上質な衣に身を纏ったキュリオが流れる所作で降りた。
 
 城で感じる日差しとはまた違ったやや高めの熱に乾燥した風を頬に感じる。
 だがそれを不快と思うことはない。それはここもまた大切な悠久の地にあって愛すべき民が暮らす場所のひとつであるからなのだ。

「ようそこおいでくださいました! 心よりの感謝と歓迎を申し上げますキュリオ様っ!!」

 出迎えたのはキュリオよりも頭ふたつ分ほど背の低い初老の男だった。正装を纏い感極まったように目頭を熱くさせた男の目尻には涙が光る。

 キュリオが前にこの地を訪れたのは丁度五十年前のことだった。
 そしてこうして迎えに出た男のひとりが連れていた少年とそっくりな面差しにキュリオの記憶が蘇る。

「……君は確か、ウォルター家の――」

「はいっ!! ウォルター家の長男です! 父は亡くなりましたが……私のことを覚えていてくださったんですね……!」

 歓喜にむせび泣きながらキュリオに差し出された手へ縋りつくように両手で受け止めた男の髪には白髪が混じり、皺の刻まれた手や顔からは彼が生きた長い年月を物語っていた。
 ひとしきり泣いたところで我に返った彼は大慌てで後ずさりし、頭が地につくほどに深く下げて謝罪する。

「……も、申し訳ございませんっっ!! キュリオ様の御手に触れてしまうなど、なななんとっ……御無礼を!!」

「私が差し出した手だ。謝ることはない」

 年配者に対して敬意を示したキュリオが優しく微笑む。実年齢的に年上なのはキュリオだが、人を導き、その道の手本となってきた各地の長らにキュリオはいつも感謝している。

「この地や人が豊なのも君たちのお陰だ。感謝しているよ」

「……キュリオ、さま……」

 再び彼の瞳からは大粒の涙が滝のように溢れ、背後に控えていたこの地の要人と思しき者たちは様々な思惑を抱えて笑顔を貼り付けた人形のように笑みを浮かべていた――。

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