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白羽(しろう)聖(ひじり)
養父とまりあ
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誰もいない教室から鞄をとり、寮へと向かったまりあ。
麗の部屋にいると思われる翼を追って寮内をうろつく。
「麗先生の部屋って、たしかあいつの部屋の近く……」
焔と絶対に会いたくないまりあは、今更ひとりで出歩いていることを深く後悔する。
恐怖心から震えそうになるのをどうにか踏みとどまると、唇を引き結んだ彼女はキッと顔を上げた。
(ううん、いまは迷ってる場合じゃない。翼くんと合流しなきゃ……!)
負の感情を体から追い出すように走りだしたまりあだが、言葉にできない焔への苦手意識がまだまだ根強く残っている。
『翼の部屋でヤったりするかよ……いまは確かめるだけだ』
『た、確かめるってなに、を……っ!?』
『お前のここに翼自身を突っ込んだかどうか……ってな?』
深く傷つけられた心と体の痛みが生々しくよみがえってくる。
「……っ」
すると、思わず足を止めてしまったまりあに優しい声が近づいてきた。
「そこにいるのは……まりあちゃん?」
「……? おとう、さん……」
「どうしたの? 大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど……」
「あ……」
(そうだ、お父さんのご飯……麗先生に持って行ってあげたら喜ぶかもしれない)
どうみても体調の優れない麗。
もしかしなくても、あの体で出歩くのは辛いに決まっている。
「……ね、ねぇお父さん! 麗先生のご飯作ってくれませんか?」
「麗さんの? もちろんいいけれど……」
手短に事情を話すと、慣れた手つきで早速用意してくれたのはホタテの貝柱で出汁をとった優しいお粥だった。
「あとでフルーツも持って行ってあげよう」
微笑みながら肩を並べて歩く養父に頷くまりあ。長年一緒に居たせいか、彼が傍にいるとここが住み慣れた場所だった気がしてくるから不思議なものだ。
「……お父さんは麗先生たちとは長い付き合いなの?」
「そうだね。……まりあちゃんは気になる人でもいるのかな?」
少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「うん、……悪い意味でだけどね」
「……悪い意味?」
意味深な言葉に養父が心配そうに顔を覗きこんでくるが、まさかここの住人に襲われかけただなどと言えるはずがない。いくつかの階段を上がり、麗の部屋まで連れてきてくれた義父が銀のトレイをまりあに手渡し立ち去ろうとする。
「それじゃあ、落ち着いたら皆と食堂においで」
「あ、あの……っ」
(……変態焔が居たらどうしようっ……)
「うん?」
「…………」
それっきり俯いてしまったまりあに養父の声はどこまでも優しい。
「あ、そうだ。僕も麗さんを見舞っておこうかな?」
「……お父さん……」
まりあの心細さが伝わったのか、彼は微笑んで扉をノックした。
麗の部屋にいると思われる翼を追って寮内をうろつく。
「麗先生の部屋って、たしかあいつの部屋の近く……」
焔と絶対に会いたくないまりあは、今更ひとりで出歩いていることを深く後悔する。
恐怖心から震えそうになるのをどうにか踏みとどまると、唇を引き結んだ彼女はキッと顔を上げた。
(ううん、いまは迷ってる場合じゃない。翼くんと合流しなきゃ……!)
負の感情を体から追い出すように走りだしたまりあだが、言葉にできない焔への苦手意識がまだまだ根強く残っている。
『翼の部屋でヤったりするかよ……いまは確かめるだけだ』
『た、確かめるってなに、を……っ!?』
『お前のここに翼自身を突っ込んだかどうか……ってな?』
深く傷つけられた心と体の痛みが生々しくよみがえってくる。
「……っ」
すると、思わず足を止めてしまったまりあに優しい声が近づいてきた。
「そこにいるのは……まりあちゃん?」
「……? おとう、さん……」
「どうしたの? 大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど……」
「あ……」
(そうだ、お父さんのご飯……麗先生に持って行ってあげたら喜ぶかもしれない)
どうみても体調の優れない麗。
もしかしなくても、あの体で出歩くのは辛いに決まっている。
「……ね、ねぇお父さん! 麗先生のご飯作ってくれませんか?」
「麗さんの? もちろんいいけれど……」
手短に事情を話すと、慣れた手つきで早速用意してくれたのはホタテの貝柱で出汁をとった優しいお粥だった。
「あとでフルーツも持って行ってあげよう」
微笑みながら肩を並べて歩く養父に頷くまりあ。長年一緒に居たせいか、彼が傍にいるとここが住み慣れた場所だった気がしてくるから不思議なものだ。
「……お父さんは麗先生たちとは長い付き合いなの?」
「そうだね。……まりあちゃんは気になる人でもいるのかな?」
少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「うん、……悪い意味でだけどね」
「……悪い意味?」
意味深な言葉に養父が心配そうに顔を覗きこんでくるが、まさかここの住人に襲われかけただなどと言えるはずがない。いくつかの階段を上がり、麗の部屋まで連れてきてくれた義父が銀のトレイをまりあに手渡し立ち去ろうとする。
「それじゃあ、落ち着いたら皆と食堂においで」
「あ、あの……っ」
(……変態焔が居たらどうしようっ……)
「うん?」
「…………」
それっきり俯いてしまったまりあに養父の声はどこまでも優しい。
「あ、そうだ。僕も麗さんを見舞っておこうかな?」
「……お父さん……」
まりあの心細さが伝わったのか、彼は微笑んで扉をノックした。
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