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白羽(しろう)聖(ひじり)
父親として…?
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「焔さんとなにかあった?」
「……っ!」
軽快にパスタを口へ運んでいた手が止まり、明らかな動揺を見せるのは年頃になった可愛い娘のまりあだ。
聖は自身のフォークを置き、水で口の中のものを流し込むと言葉を待った。
「なにかってわけじゃないけど……私のことが嫌いなのは間違いないみたい」
「嫌いって、焔さんがそう言ったの?」
「うん。別にあいつに嫌われたからって学園生活に支障があるわけじゃないんだけどさ」
麗の部屋にひとりで入るのを躊躇っていたまりあ。
おそらくそれは扉の向こうに焔がいるかもしれないという不安からに違いなかった。
そして目も合わせず、自分の影に隠れてしまった彼女は焔を怖がっているように見えた。
彼女の説明に”怯える理由はもっと他にある……”と、到底納得していない聖だったが、敢えて事の詳細を語ろうとしない娘を咎めるような真似はしない。
「……そっか。
そういえば、翼さんとルームシェアしているんだよね? 彼とはどう?」
「翼くん、とっても優しくて可愛くて……安心して一緒に居られる。だからつい甘えちゃって……お世話になってばかりなの」
「でも、翼さんだって男の子だろう? 僕は心配だな……」
「……」
まりあはふと、数年前のある日を思い出した。
――転校してきたばかりの少年と唯一親しくなった幼い自分。
変わり者のまりあは一行にクラスに馴染むことが出来ずいつも一人だった。そんな自分を見かねた転校生の少年が仲良くしてくれたのである。
(そういえばあの子、名前なんて言ったっけ……)
そして手を繋いで共に下校してきたあの日――……
『おかえり。まりあ』
いつものように”まりあちゃん”と呼ばない養父に首を傾げるが、クラスメイトにからかわれないようにと気を使ってくれているのかと思っていた。
『ただいま』
素っ気なく答えて近づいてきた幼い娘の肩を養父の大きな手が抱きしめる。
『……可愛いナイトくん、娘を守ってくれてありがとう。
ここからは僕が引き受けるから君も早くお帰り?』
半ばふたりを引き離すようにまりあの手を引く聖。
あまりに強引な父の登場にあっけにとられている少年に別れを告げ、手を振りながら父親の顔を覗き見る幼いまりあ。
『お父さん……?』
『仲の良い男の子ができたんだね。いつからだい?』
『少し前。転校してきたばかりなの』
『……そうなんだ。でもねまりあちゃん、彼は男の子だ。二人きりにさせるのはお父さん嫌だな……』
『……?』
まだ男女の違いをそれほど意識していない少女は言われている意味が理解できずにいた。
結局、その少年は再び転校してしまったため、養父の心配がそれ以上大きくなることはなかったのだが――……
(お父さんが昔言ってたこと、いまならわかる気がする)
身を以て体験した”男の恐ろしさ”に戸惑いもあれば後悔もある。
もしあの時、焔に襲われて取り返しのつかない事になっていたら……思うと、トラウマのような恐怖が蘇る。
「……でも、ひとりでいるのが……、怖いの」
(……いつまた焔が部屋に押しかけてくるかわからない……っ……)
悔しさと見えない不安とが入り乱れてフォークを持つ手がカタカタとなった。
「…………」
その様子をしっかりと見ていた聖の瞳が鋭くなり、彼は躊躇うことなくまりあに告げる。
「まりあちゃん。僕の部屋で一緒に暮らさないかい?」
「……え?」
顔を上げた先にいる養父は真剣な眼差しを向けており、冗談を言っているようには見えない。
長年寝食を共にしてきた彼と同じ部屋で暮らせるのなら、互いに安らぎの場所となるに違いなく……そしてなにより、翼の負担を減らせると感じたまりあは自然を首を縦に振っていたのだった――。
「……っ!」
軽快にパスタを口へ運んでいた手が止まり、明らかな動揺を見せるのは年頃になった可愛い娘のまりあだ。
聖は自身のフォークを置き、水で口の中のものを流し込むと言葉を待った。
「なにかってわけじゃないけど……私のことが嫌いなのは間違いないみたい」
「嫌いって、焔さんがそう言ったの?」
「うん。別にあいつに嫌われたからって学園生活に支障があるわけじゃないんだけどさ」
麗の部屋にひとりで入るのを躊躇っていたまりあ。
おそらくそれは扉の向こうに焔がいるかもしれないという不安からに違いなかった。
そして目も合わせず、自分の影に隠れてしまった彼女は焔を怖がっているように見えた。
彼女の説明に”怯える理由はもっと他にある……”と、到底納得していない聖だったが、敢えて事の詳細を語ろうとしない娘を咎めるような真似はしない。
「……そっか。
そういえば、翼さんとルームシェアしているんだよね? 彼とはどう?」
「翼くん、とっても優しくて可愛くて……安心して一緒に居られる。だからつい甘えちゃって……お世話になってばかりなの」
「でも、翼さんだって男の子だろう? 僕は心配だな……」
「……」
まりあはふと、数年前のある日を思い出した。
――転校してきたばかりの少年と唯一親しくなった幼い自分。
変わり者のまりあは一行にクラスに馴染むことが出来ずいつも一人だった。そんな自分を見かねた転校生の少年が仲良くしてくれたのである。
(そういえばあの子、名前なんて言ったっけ……)
そして手を繋いで共に下校してきたあの日――……
『おかえり。まりあ』
いつものように”まりあちゃん”と呼ばない養父に首を傾げるが、クラスメイトにからかわれないようにと気を使ってくれているのかと思っていた。
『ただいま』
素っ気なく答えて近づいてきた幼い娘の肩を養父の大きな手が抱きしめる。
『……可愛いナイトくん、娘を守ってくれてありがとう。
ここからは僕が引き受けるから君も早くお帰り?』
半ばふたりを引き離すようにまりあの手を引く聖。
あまりに強引な父の登場にあっけにとられている少年に別れを告げ、手を振りながら父親の顔を覗き見る幼いまりあ。
『お父さん……?』
『仲の良い男の子ができたんだね。いつからだい?』
『少し前。転校してきたばかりなの』
『……そうなんだ。でもねまりあちゃん、彼は男の子だ。二人きりにさせるのはお父さん嫌だな……』
『……?』
まだ男女の違いをそれほど意識していない少女は言われている意味が理解できずにいた。
結局、その少年は再び転校してしまったため、養父の心配がそれ以上大きくなることはなかったのだが――……
(お父さんが昔言ってたこと、いまならわかる気がする)
身を以て体験した”男の恐ろしさ”に戸惑いもあれば後悔もある。
もしあの時、焔に襲われて取り返しのつかない事になっていたら……思うと、トラウマのような恐怖が蘇る。
「……でも、ひとりでいるのが……、怖いの」
(……いつまた焔が部屋に押しかけてくるかわからない……っ……)
悔しさと見えない不安とが入り乱れてフォークを持つ手がカタカタとなった。
「…………」
その様子をしっかりと見ていた聖の瞳が鋭くなり、彼は躊躇うことなくまりあに告げる。
「まりあちゃん。僕の部屋で一緒に暮らさないかい?」
「……え?」
顔を上げた先にいる養父は真剣な眼差しを向けており、冗談を言っているようには見えない。
長年寝食を共にしてきた彼と同じ部屋で暮らせるのなら、互いに安らぎの場所となるに違いなく……そしてなにより、翼の負担を減らせると感じたまりあは自然を首を縦に振っていたのだった――。
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