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神崎煉

小鳥のような少年

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校舎とは離れているこの宿舎はまるでその姿を表から隠すように、まわりには高い木が深く生い茂っている。
とにかくあの三人から離れたい一身で視界の悪い階段を駆け上がると、気づけば誰もいない屋上の扉をさらに進んでいたことに気づく。

「スケッチブック持って来ればよかったな……」

(闇色のキャンパス……それもまたいいかもね)

冷たい手摺にもたれながら外に目を向けるが、そこからは漆黒の闇と木の葉を揺らす木々のざわめきが不気味に聞こえるばかりだった。

「おひとりですか?」

ふと、聞き慣れない少年のように透き通った声が背後から発せられ、自分しかいないと思っていたまりあは慌てて振り返る。

「は、はいっ!」

そして振り返った先にいたのは、おそらく中等科の生徒と思しき可愛らしい男の子だった。

(……か、かわいい。女の子みたい……)

「もしかして、君も寮生?」

「そうなんです。あ、良かったらカフェラテ、一緒に飲みませんか?」

彼は”熱いので気を付けて下さいね”と付け加えると紙のカップをまりあに手渡す。

「へ? あ、ありがと……」

(そっか、ここカフェもあるんだもんね)

コンビニから買ってきたにしては随分熱が高く感じる。そう、まるで淹れたてのような……。

(ん? でもここからカフェも遠くない?)

そう考え直したまりあだが、小鳥のように小さな唇を尖らせてフーフーと息を吹きかけている少年に笑みが浮かぶ。

(ふふっ、ほんと可愛い……)

「私、今日高等科一年に編入してきた白羽まりあっていうの。よろしくね」

「白羽まりあさん? ……僕、中等科三年の鳥羽つばさって言います! ”羽”に”異なる”で翼です!」

そういうと彼はキラキラした丸い瞳で嬉しそうに飛び上がった。
まるで鳥のヒナのように柔らかな髪、そして好奇心と優しさに満ち溢れた瞳がまりあの警戒心を解いた。
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