青いチェリーは熟れることを知らない①

逢生ありす

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ふたりで辿る足跡

ウェルカム…だけれど腹が立つ

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 不本意な鍋パーティーから解放された鳥居はふたりのチェリーを迎えに寝室のドアを開けた。

「チェリーごめんな、長い時間閉じ込めて」

 嬉しそうに自身の足元に纏わりつく愛犬を撫でながら一度寝室を出る。そしてリビングを開いてチェリーが自由に出入りできるようにしてやる。

「……チェリー?」

 いつもならば、どこへ行くにもついて来る可愛いストーカーな彼女の姿がない。
 もしやと思って寝室へ引き返すと――

「…………」

 もうひとりのチェリーの腕の中に再び潜ってまったりしている愛犬がいた。

「やっぱお前もこいつはウェルカムなんだな」

 と言っても、ちえり以外の人間に引き合わせることはほとんどないため、彼女が今夜の招かれざる客に懐いたかどうかはわからない。ただ、飼い主である自分が人間的に好きになれない相手に、愛犬を会わせたくないというのは誰にでも当てはまることではないだろうか。
 ベッドへ腰かけ、床で寝入っている人間のチェリーの寝顔を見つめていると、このままずっとここに置いておいても悪くはないという気がしてくるから不思議だ。

「……幼馴染か……」

 これほど短時間でこんなにも気を許せる相手に出会ったことがあっただろうか?
 他人に対して一線を引いて接する自分が、他人を家へ招き入れ、さらにそのまま居座られても構わないとさえ本気で思い始めている。そう思えば思うほど、瑞貴とちえりの関係がとても羨ましくもあり、同時に苛立ちも込み上げてくる。

(まぁ、こいつ色気ねーし。……でもそれが魅力なのかもな)

 女としての武器などどこの店へ売り飛ばしてきたのだろうかと思えるほど何も持たず戦う術もないちえり。なんならリサイクルショップで赤札の付いた売れ残りの武器を鳥居が買ってやってもいいくらいなのだが、彼女もそれは自覚しているようで、料理や掃除の腕を少しでも上げようと努力しているのも知っている。例えそれが桜田瑞貴のためであっても、甘やかされるだけではない若葉ちえりに感心するところがある。

(打算なんかない女なんていないと思ったが、こんなとこに転がってるなんて驚きだぜ)

 それが育った環境によるものなのか、ちえりの根本的な人間性であるかどうかも興味がある。
 こうして彼女についてあれこれ考えていると、知らず知らずのうちに口角を上げていることに鳥居自身も気づいていない。
 瑞貴には注意されるが、子供のまま大人になったようなちえりの一挙一動はとても面白く、ついついからかってしまいたくなる。だからと言ってキスしたいなどの欲求があるわけではなく、鳥居が望むちえりとの関係を現時点で言葉で表すならば……せいぜい"ルームシェアをしてやってもいい相手"どまりだが、聞く者によって"それは同棲したいの間違いじゃないのか?"と、苦笑されそうな話の内容だった。
 そこに居ても気兼ねなく普段通りの自分で居られ、言葉を交わせば"いい時間だった"と思えることに鳥居自身かつてない心地よさを感じており、瑞貴の警告さえ無視することも珍しくない。

「……チェリーさん、そろそろ起きてください。瑞貴先輩戻って――」

 わざと小声で話しかけてみる。その声量の裏では"まだここに居てほしい"と思惑が少なからずあったかもしれない。
 言いかけた次の瞬間――

「……っ!? 瑞貴センパイがなにっっっ!?!?」

 ガバッと飛び起きたちえりは状況が把握できていないらしく、目の前で優雅にベッドへ腰かけているイケメンとわんこチェリーを見比べて口をパクパクしている。
 そして何故か自分の衣服を確認した視線がこちらへ伸びてきて――


「……ま、間違いは起きて……」


「ねーよ」


    
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