青いチェリーは熟れることを知らない①

逢生ありす

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チェリーの見る夢

チェリーと瑞貴と失礼なアイツ1

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 という、まぁ謎の配置にも馴染のよしみで何とかなるものだ(?)。
 せっかくの空いている部屋には取り敢えず、ちえりの物を置かせてもらうことにした。

(さすがに着替えもリビングでってわけにはいかないもん。
って、あれ? でも瑞貴センパイはどこで着替えてるんだろ……)

 汗だくになっていたちえりは先にシャワーを浴びさせてもらい、真新しいスウェットに袖を通し、濡れた髪をタオルで包みながら食事を作っていてくれるはずの瑞貴のもとへ急いだ。

「あ、いい匂い……」

 香ばしい鰹節と醤油の香りが妖艶にその身を揺らしながらちえりを待ち構えているようだった。

「お、出てきたなー! 焼うどんで大丈夫だっけか?」

 "大丈夫じゃなくても食えよ?" と瑞貴は笑いながら手早く盛り付けている。

「うん大好き! シャワーありがとう、お風呂も広くて綺麗で……」

 すると、なぜか盛り付けた皿を手に持ったまま動きを止めてこちらを凝視している瑞貴。

「…………」

「……? 瑞貴センパイ?」

「俺……やっぱベッドで食っていい?」

「……そんなにテーブルにつくのが億劫ですか?」

「……うん」

(わ、私……嫌われてるのかな、もしかして……
顔合わせたくないとか……、、、)

 結局テレビの方向に向かってちえりが床に腰をおろし、テーブルにつく。
 そしてその斜め後方で瑞貴がベッドに座るという家庭内別居のような距離感となってしまった。声をかけようにも振り返る必要があるため、その拍子に口に運んだうどんがどこかに飛んで行ってしまいそうで怖い。

「……」

「……」

 沈黙の中『切れ過ぎて大クレーム間違いなし! な包丁!!』という片腹痛いネーミングに、わざとらしい客席の相槌が耳にうるさい。
 さらに木のまな板を切る演出まであり、まな板も合わせて売るつもりか!? と内心突っ込みを入れずにはいられないちえり。

 すると――……


 ――ピンポーン


「……?」

 最新の社宅ながらも懐かしい音が妙に心地良い。
 ふたり、心当たりのない客人の訪問にうどんを口からぶら下げたまま顔を見合わせた。

「チェリーの実家から荷物が届いたにしちゃ……早すぎるよな……」

 きちんと口に収めてから言葉を発した瑞貴。

「……な、ないへ。私ひゃないと思ふ……」

(まだメールしてなかった……寝る前にお母ちゃんさメールしておかねぇと……)

 ちえりはぶら下げたまましゃべったため、顎にうどんが張り付いてしまった。

「はっ!! なんて顔してんだよっ! ほら……」

 ちえりにティッシュ箱を手渡した瑞貴が玄関に向かって歩く。

「あ、ありがとう……」

 瑞貴の姿が見えなくなってすぐ、聞き覚えのある声が玄関のほうから聞こえてきた。

「どーも。瑞貴先輩と……痴女でマグロのチェリーサン」

「……っ!?」

 出迎えた家主の瑞貴をさしおいて先に顔を見せたのはなんと……

「……? どちら様ですか?」

「さっき下で会っただろ」

「下で……」


"痴女発見"


 手のふさがった瑞貴の胸ポケットからカードキーを取り出そうとしたときのシーンが脳裏に浮かぶ。そして初対面にも関わらず不躾な言葉を投げつけた男であると合点がいった。

「あ、あのね……あれは誤解なんです!
だいたいなによ!! マグロのチェリーって。生ハムにメロンじゃないんだから……」

「用件は?」

「ぶっ……」

 まだ何か言いたそうなちえりの言葉を遮り、ウルフカットの男の背後から瑞貴が問う。
 まさか瑞貴に遮られるとは思っていなかったちえりは、またもうどんを吐き出してしまった。

「大した用件ではありません。引っ越し蕎麦を渡しながら挨拶でもしておこうと思いまして……ね?」

 意味深な笑みを浮かべた男が瑞貴へ挑発的な笑みを向けた。

「ご丁寧にどうも。それと一応もう一度言うけど、彼女の名前は若葉ちえりさんだ」

 差し出された"引っ越し蕎麦"を受け取るとピシャリと言い放つ瑞貴に胸がキュンとしてしまう。

(瑞貴センパイ……私だってこんな年下男に好い様に言われる謂れもないっていうの!!
でも、ここに住んでるっていうことは……会社の人かもしれない。あまり強くいうと瑞貴センパイの立場が悪くなったりするのは嫌……)

(よしっ! ここは大人な態度で穏便に……)

立ち上がったちえりはきちんとお辞儀と自己紹介をしてみせた。
 目の前にある焼うどんをのせた皿がなんとなくこの場にそぐわないが、しかしここは瑞貴のリビングで、勝手に上り込んできた彼の態度が悪いため二人とうどんに罪はない。

「ああ、先に言っておきますが……別に自己紹介されなくてもこいつのこと、チェリーって呼びますから」

 男はこちらへ振り向きもせず、なぜか瑞貴に宣言していた。

(……へ?)

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