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ふたりで辿る足跡
瑞貴とチェリー、初デートで…!?2
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やがてゆっくり離れた唇が綺麗な弧を描き、嬉しそうに微笑んだ瑞貴に手を差し出される。
「残念、信号変わっちゃったな。俺たちも行くか」
「……は、いっ……!」
(い、いまのって……いまのって……っっ!! えぇええええっっ!?)
触れた唇は、ほろ苦く冷えていたけれど、その奥にある愛しい人の体温や感触はそんなものではかき消されない。そしてしっかりと繋がれた手は実に二十年ぶりといったところだが、手の平から伝わる熱が互いの想いを風化させていなかったことを物語っている。
(……キスしたってことは、そういうことだよね? 期待していいんだよね? 瑞貴先輩……)
天にも昇る気持ちで横断歩道を駆けるが、気持ちを打ち明けられたわけではないちえりはまだ手放しで喜ぶわけにはいかなかった。
「――これなんてどう?」
レンタルショップで目的の洋画ドラマをシリーズで借りてきたふたりは茶碗を購入したあの可愛らしい雑貨店へやってきていた。
店内を一周し、ようやく探し物を見つけたらしい瑞貴がキラキラした笑顔で何かを差し出す。
「わぁっ! 可愛い葉っぱ! この小さいのって花ですかね?」
観葉植物と言えば、大きめの一枚葉が特徴だと思い込んでいたちえりは両手を合わせて食いつき気味に瑞貴の手元を覗き込んだ。
真っ白な鉢にその身を置くのは星型を五つに分けたような独立した五枚葉をツルのところどころに輝かせている緑色の愛らしい植物だ。美味しい実を付けるサクランボの木や林檎の木は見慣れているが、インテリアとして飾るおしゃれなものにはあまり興味を示さなかったちえり。よって、その名称すら思い浮かばない彼女はいそいそと名前の刻まれたプレートを探す。
「うん。ちょうどこの時期あたりまで咲いてるみたいだ。シュガーバインって言うんだってさ。この前来たときから気になってたんだけど時間も遅かったからな」
「そうだったんですね。えっと……しゅがーパイン? なんか美味しそうな名前……」
「ははっバインな。ツルって意味らしいぜ。寒さにも耐えられるって書いてあるし、もし俺たちが地元に戻っても一緒に育てていける」
「……地元、一緒に……」
「ちえりはなんか欲しい物ある? 家庭菜園用に種とプランターでも買ってく? あ、でも……まだまだ行くとこあるから……うーん」
「……菜園いいですね……お肉も育てられたらいいのに、なんて……」
ひとつ前の仰天発言から思考回路が停止してしまったちえりは瑞貴の言葉をぼんやりとしか受け止められずにいる。
「家で肉育てるって、それ牧場かよ! それともチェリー腹減ってきた? ってもうすぐ昼だし、そろそろランチにするか!」
なんとなく瑞貴の口数が多い。一緒に居ることを楽しんでくれているのなら嬉しいが、反応がイマイチな自分の返事を待っているのが億劫でそうさせてしまっているとしたら……
「いいですねっ! 牧場と言えば北海道!! 中学の修学旅行で行った限りです私っっ! 食べ物も美味しいし、なんと言っても空気が違うんですよね!!」
「お、そういえばチェリーたちは北海道だったよな。土産にもらった牛の木彫りキーホルダー、実家で大切にしまってるぜ」
「……本当に!? 先輩全然つけてくれないから捨てられたと思ってました」
「ばーか。キーホルダーって結構劣化するんだぜ? 当時のまま取って置きたいんだよ。チェリーこそ、俺があげた”ちんすこう”大事にとってあるか?」
「え……っ!?」
その当時、瑞貴にもらった沖縄の写真と”ちんすこう”。貝殻を翳して笑顔を見せる瑞貴を見られただけで満足だったが、何枚かの写真に見切れてる同じ女子生徒が写っていたのに強いショックを受けた覚えがある。そしてさらに言うなれば……
「チェリー、”ちんすこう”って聞いて真っ赤な顔してたよな! 俺もその反応が見たくてわざと買ってったんだけど……」
「あ、あはっ……あれは初めて聞いて誤解したっていうか……じゃなくて!! いまも大事にとっておいたら”ちんすこう”大惨事ですからっ!!」
「ぶっ……また真っ赤になってる」
「そんなに”ちんすこう”の話題で笑わないでくださいよっ!!」
『……あの子は誰? 私の知らない瑞貴センパイが居る……』
顔では笑っているちえりだが、当時の想いと言えば……この切ない胸の締め付けだった。
腹を抱えて笑う瑞貴は共通の話題が見つかって楽しいとばかりに頬を緩ませ、ふたりでレジへと向かいながら空白だった互いの足跡を少しずつ辿っては新しく記憶に刻みつけていく。
(ううん……昔の苦い思い出も、瑞貴センパイの今の笑顔が安心させてくれる……)
夢見心地のまま店を出て瑞貴が下調べしていたという人気のパスタ店へと向かう。
そしてその道中で見つけた真新しい巨大な建物。一階は見通しのよいガラスと大理石から成り、目の前には噴水を兼ねた水辺がどこまでも広がっている神殿のような創りだった。
「あっ……もうすぐここオープンするんですねっ! カフェテラスもあるなんて素敵なホテル!」
「ん、仕事が落ち着く頃にはやってそうだな。今度ディナー兼ねて泊まってみるか?」
今後の予定が記されている看板を見上げながら隣に佇む瑞貴の甘い言葉に眩暈がしそうだ。
「……っそ、そそそそんなに甘やかさないでくださいよセンパイ!」
(……本当にどうしたんだべっっ!? こんな甘々じゃお天道様にも溶かせない若葉ちえりもドロッドロだべッッ!!)
「チェリーがこの手に落ちてきてくれたらもっともっと甘やかしたいって俺は思ってるよ」
「……っあ、サクランボですねっ!? もうすぐ収獲の時期だし、送ってくれるよう頼まなくちゃですねっ!!?」
「ぶはっ!」
ちえりの顔にかかる髪を指先で撫でた瑞貴がたまらず噴出す。当のちえりは瑞貴の言葉に翻弄されながらも、目の前の彼が笑ってくれることに心からの幸せを感じた――。
「残念、信号変わっちゃったな。俺たちも行くか」
「……は、いっ……!」
(い、いまのって……いまのって……っっ!! えぇええええっっ!?)
触れた唇は、ほろ苦く冷えていたけれど、その奥にある愛しい人の体温や感触はそんなものではかき消されない。そしてしっかりと繋がれた手は実に二十年ぶりといったところだが、手の平から伝わる熱が互いの想いを風化させていなかったことを物語っている。
(……キスしたってことは、そういうことだよね? 期待していいんだよね? 瑞貴先輩……)
天にも昇る気持ちで横断歩道を駆けるが、気持ちを打ち明けられたわけではないちえりはまだ手放しで喜ぶわけにはいかなかった。
「――これなんてどう?」
レンタルショップで目的の洋画ドラマをシリーズで借りてきたふたりは茶碗を購入したあの可愛らしい雑貨店へやってきていた。
店内を一周し、ようやく探し物を見つけたらしい瑞貴がキラキラした笑顔で何かを差し出す。
「わぁっ! 可愛い葉っぱ! この小さいのって花ですかね?」
観葉植物と言えば、大きめの一枚葉が特徴だと思い込んでいたちえりは両手を合わせて食いつき気味に瑞貴の手元を覗き込んだ。
真っ白な鉢にその身を置くのは星型を五つに分けたような独立した五枚葉をツルのところどころに輝かせている緑色の愛らしい植物だ。美味しい実を付けるサクランボの木や林檎の木は見慣れているが、インテリアとして飾るおしゃれなものにはあまり興味を示さなかったちえり。よって、その名称すら思い浮かばない彼女はいそいそと名前の刻まれたプレートを探す。
「うん。ちょうどこの時期あたりまで咲いてるみたいだ。シュガーバインって言うんだってさ。この前来たときから気になってたんだけど時間も遅かったからな」
「そうだったんですね。えっと……しゅがーパイン? なんか美味しそうな名前……」
「ははっバインな。ツルって意味らしいぜ。寒さにも耐えられるって書いてあるし、もし俺たちが地元に戻っても一緒に育てていける」
「……地元、一緒に……」
「ちえりはなんか欲しい物ある? 家庭菜園用に種とプランターでも買ってく? あ、でも……まだまだ行くとこあるから……うーん」
「……菜園いいですね……お肉も育てられたらいいのに、なんて……」
ひとつ前の仰天発言から思考回路が停止してしまったちえりは瑞貴の言葉をぼんやりとしか受け止められずにいる。
「家で肉育てるって、それ牧場かよ! それともチェリー腹減ってきた? ってもうすぐ昼だし、そろそろランチにするか!」
なんとなく瑞貴の口数が多い。一緒に居ることを楽しんでくれているのなら嬉しいが、反応がイマイチな自分の返事を待っているのが億劫でそうさせてしまっているとしたら……
「いいですねっ! 牧場と言えば北海道!! 中学の修学旅行で行った限りです私っっ! 食べ物も美味しいし、なんと言っても空気が違うんですよね!!」
「お、そういえばチェリーたちは北海道だったよな。土産にもらった牛の木彫りキーホルダー、実家で大切にしまってるぜ」
「……本当に!? 先輩全然つけてくれないから捨てられたと思ってました」
「ばーか。キーホルダーって結構劣化するんだぜ? 当時のまま取って置きたいんだよ。チェリーこそ、俺があげた”ちんすこう”大事にとってあるか?」
「え……っ!?」
その当時、瑞貴にもらった沖縄の写真と”ちんすこう”。貝殻を翳して笑顔を見せる瑞貴を見られただけで満足だったが、何枚かの写真に見切れてる同じ女子生徒が写っていたのに強いショックを受けた覚えがある。そしてさらに言うなれば……
「チェリー、”ちんすこう”って聞いて真っ赤な顔してたよな! 俺もその反応が見たくてわざと買ってったんだけど……」
「あ、あはっ……あれは初めて聞いて誤解したっていうか……じゃなくて!! いまも大事にとっておいたら”ちんすこう”大惨事ですからっ!!」
「ぶっ……また真っ赤になってる」
「そんなに”ちんすこう”の話題で笑わないでくださいよっ!!」
『……あの子は誰? 私の知らない瑞貴センパイが居る……』
顔では笑っているちえりだが、当時の想いと言えば……この切ない胸の締め付けだった。
腹を抱えて笑う瑞貴は共通の話題が見つかって楽しいとばかりに頬を緩ませ、ふたりでレジへと向かいながら空白だった互いの足跡を少しずつ辿っては新しく記憶に刻みつけていく。
(ううん……昔の苦い思い出も、瑞貴センパイの今の笑顔が安心させてくれる……)
夢見心地のまま店を出て瑞貴が下調べしていたという人気のパスタ店へと向かう。
そしてその道中で見つけた真新しい巨大な建物。一階は見通しのよいガラスと大理石から成り、目の前には噴水を兼ねた水辺がどこまでも広がっている神殿のような創りだった。
「あっ……もうすぐここオープンするんですねっ! カフェテラスもあるなんて素敵なホテル!」
「ん、仕事が落ち着く頃にはやってそうだな。今度ディナー兼ねて泊まってみるか?」
今後の予定が記されている看板を見上げながら隣に佇む瑞貴の甘い言葉に眩暈がしそうだ。
「……っそ、そそそそんなに甘やかさないでくださいよセンパイ!」
(……本当にどうしたんだべっっ!? こんな甘々じゃお天道様にも溶かせない若葉ちえりもドロッドロだべッッ!!)
「チェリーがこの手に落ちてきてくれたらもっともっと甘やかしたいって俺は思ってるよ」
「……っあ、サクランボですねっ!? もうすぐ収獲の時期だし、送ってくれるよう頼まなくちゃですねっ!!?」
「ぶはっ!」
ちえりの顔にかかる髪を指先で撫でた瑞貴がたまらず噴出す。当のちえりは瑞貴の言葉に翻弄されながらも、目の前の彼が笑ってくれることに心からの幸せを感じた――。
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