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ホワイトデー編
伝えることの難しさ3
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「……お前たちの気持ちは嬉しいが、私の用件はそれだけではない。アオイに大事な話があるんだ」
立場をわきまえている彼らには、もっともらしく深刻な表情を浮かべ言葉少なめに伝えるだけで十分だ。
例え、その内容がホワイトデーの贈り物の話だとしても。
「大事なお話、……ですか?」
まさかの言葉に目を丸くしているアオイ。
そしてその後方で勢いよく頭を下げたのはアレスだった。
「……っ! も、申し訳ございません! 出過ぎた真似をっ……いくぞカイ!」
蒼白になりながら、呑気にアオイのノートをめくっている剣士の腕を掴んだ。
「痛ててっ! なんだよ!? 引っ張るなって! あっ……! アオイ姫様!」
ズルズルと引きずられながらニカッと笑顔を見せたカイが、謎の一言を放つ。
「本当に鉛筆でいいんですか?」
「う、うんっ!」
それに対し、力強く頷いたアオイ。恐らくキュリオが来る前の話の続きだと思われるが……
「……鉛筆? なんの話だい?」
扉が閉まったことを確認し、アオイに向き直ったキュリオはそれほど気に留めた様子もなく訪ねる。
「あ、えっと、欲しい物がないか聞かれたんです」
「…………」
(当然アレスにも聞かれたのだろうな……)
「お父様? 大事なお話って……?」
「ああ、取り敢えずそこへ座ろうか」
「はいっ」
「…………」
(無欲なアオイの事だ。"欲しい物"と聞かれて答えるのは恐らく"必要な物"なのだろう。その先を聞き出すには別の言い回しが必要か……)
「…………?」
急に考え込んでしまった父と向かい合わせに腰を下ろしたアオイ。
視線が交わらないことから、珍しく言いたいことがまとまっていないのだろうと静かに待つこと数分――。
「アオイ」
「……は、はい!」
突然名を呼ばれ、緊張が脳天を突き抜けるような錯覚を覚えて背筋を伸ばす。
「お前が"女性として"贈られたら嬉しいものを教えてほしい」
「女性として、ですか……?」
随分と具体的な問いかけに今度はアオイが口を噤んでしまう。
(……なんだろう、考えたことなかった……"学校以外でミキやシュウと過ごす時間"っていうのは"女性として"とはならないだろうし……)
自身の納得のいく答えが返ってくるよう、細部にこだわった質問を投げかけてきたキュリオ。
そのおかげでアオイの思考からは早くも幾つかの候補が崩れ落ちていく。
――コンコン
『キュリオ様、アオイ姫様。お飲物をお持ちいたしましたっ』
「ああ、入ってくれ」
質問で頭がいっぱいなアオイの代わりにキュリオが侍女へと指示を与え、目の前に出されたのは温かなハーブティだった。
"うーん、うーん"と唸る姫の姿に侍女はソワソワと表情を伺っているが、ふたりの間に流れる空気が険悪なものではないと判断すると、笑みを浮かべた彼女はそっと部屋をあとにする。
「……今すぐその答えを求めているわけではないんだ。近いうちで構わないよ」
(女性として、女性として…………うーん……)
あの後、キュリオに宿題を見てもらい、ミキやシュウに教えた通りで間違いないとお墨付きをもらったものの……
「うぅ、今日の授業内容全部忘れちゃいそう……」
早くもアオイの頭は許容量オーバー寸前で、その大部分をキュリオから出された難題を解くためにフル回転中だった。
(あ、そうだっ! お料理を上手に作れる腕! なんて……だめだよね、……努力しなきゃ意味
のないことだし……)
――疲弊した頭を休めようと本日二度目となる湯浴みを行ったアオイは、無意識に首元のチョーカーへ指を這わせると、ため息を零す。
(お父様はどういうつもりで言ったんだろう……明日ミキに相談してみようかな……)
結局湯殿では良い案が浮かばず、髪の水気を取り寝間着を纏ったアオイはトボトボと部屋へ続く通路を歩む。
――ガチャ
「あ……」
室内へ一歩入ったところでここがキュリオの部屋であることを思い出し、足早に父のもとへ向かう。
「ごめんなさいお父様っ……お待たせしました!」
(うっかり自分の部屋だと思い込んで長湯しちゃった……!)
この時間のキュリオの部屋はじきに来る眠気を妨げぬよう、灯りの数がだいぶ少なくなっている。それらの行動はすべてまだまだ成長段階にあるアオイのためであり、本来のキュリオはかなり遅い時間まで書物を広げていたりするのだ。
「あぁ、私のことは気にしなくていい。アオイが望むなら明日は薔薇の花びらでも浮かべておこうか?」
「……! お父様が差支えなければぜひっ」
「お前と香りを共有することに障りなどあるわけがないさ」
「は、はいっ……」
「決まりだな」
素直に喜ぶアオイに頷きながらこちらへ近づいてきたキュリオ。
ゆっくり伸ばされた手は血色良くしっとりと濡れたアオイの頬を撫で、とある違和感に笑みを零すと肩を抱いてソファへ誘う。
「……?」
てっきりそのまま湯殿へと向かうと思っていたが、今一度ソファへと座りなおしたキュリオへアオイは小首を傾げる。
「私の膝の上へおいで」
「……はい、……」
彼の意図することがわからず、畏まりながらちょこんと腰をおろす。
ただ指示されるがままにキュリオの左腿のあたりへ横向きに座り、見上げるように父の目を見つめていると……
立場をわきまえている彼らには、もっともらしく深刻な表情を浮かべ言葉少なめに伝えるだけで十分だ。
例え、その内容がホワイトデーの贈り物の話だとしても。
「大事なお話、……ですか?」
まさかの言葉に目を丸くしているアオイ。
そしてその後方で勢いよく頭を下げたのはアレスだった。
「……っ! も、申し訳ございません! 出過ぎた真似をっ……いくぞカイ!」
蒼白になりながら、呑気にアオイのノートをめくっている剣士の腕を掴んだ。
「痛ててっ! なんだよ!? 引っ張るなって! あっ……! アオイ姫様!」
ズルズルと引きずられながらニカッと笑顔を見せたカイが、謎の一言を放つ。
「本当に鉛筆でいいんですか?」
「う、うんっ!」
それに対し、力強く頷いたアオイ。恐らくキュリオが来る前の話の続きだと思われるが……
「……鉛筆? なんの話だい?」
扉が閉まったことを確認し、アオイに向き直ったキュリオはそれほど気に留めた様子もなく訪ねる。
「あ、えっと、欲しい物がないか聞かれたんです」
「…………」
(当然アレスにも聞かれたのだろうな……)
「お父様? 大事なお話って……?」
「ああ、取り敢えずそこへ座ろうか」
「はいっ」
「…………」
(無欲なアオイの事だ。"欲しい物"と聞かれて答えるのは恐らく"必要な物"なのだろう。その先を聞き出すには別の言い回しが必要か……)
「…………?」
急に考え込んでしまった父と向かい合わせに腰を下ろしたアオイ。
視線が交わらないことから、珍しく言いたいことがまとまっていないのだろうと静かに待つこと数分――。
「アオイ」
「……は、はい!」
突然名を呼ばれ、緊張が脳天を突き抜けるような錯覚を覚えて背筋を伸ばす。
「お前が"女性として"贈られたら嬉しいものを教えてほしい」
「女性として、ですか……?」
随分と具体的な問いかけに今度はアオイが口を噤んでしまう。
(……なんだろう、考えたことなかった……"学校以外でミキやシュウと過ごす時間"っていうのは"女性として"とはならないだろうし……)
自身の納得のいく答えが返ってくるよう、細部にこだわった質問を投げかけてきたキュリオ。
そのおかげでアオイの思考からは早くも幾つかの候補が崩れ落ちていく。
――コンコン
『キュリオ様、アオイ姫様。お飲物をお持ちいたしましたっ』
「ああ、入ってくれ」
質問で頭がいっぱいなアオイの代わりにキュリオが侍女へと指示を与え、目の前に出されたのは温かなハーブティだった。
"うーん、うーん"と唸る姫の姿に侍女はソワソワと表情を伺っているが、ふたりの間に流れる空気が険悪なものではないと判断すると、笑みを浮かべた彼女はそっと部屋をあとにする。
「……今すぐその答えを求めているわけではないんだ。近いうちで構わないよ」
(女性として、女性として…………うーん……)
あの後、キュリオに宿題を見てもらい、ミキやシュウに教えた通りで間違いないとお墨付きをもらったものの……
「うぅ、今日の授業内容全部忘れちゃいそう……」
早くもアオイの頭は許容量オーバー寸前で、その大部分をキュリオから出された難題を解くためにフル回転中だった。
(あ、そうだっ! お料理を上手に作れる腕! なんて……だめだよね、……努力しなきゃ意味
のないことだし……)
――疲弊した頭を休めようと本日二度目となる湯浴みを行ったアオイは、無意識に首元のチョーカーへ指を這わせると、ため息を零す。
(お父様はどういうつもりで言ったんだろう……明日ミキに相談してみようかな……)
結局湯殿では良い案が浮かばず、髪の水気を取り寝間着を纏ったアオイはトボトボと部屋へ続く通路を歩む。
――ガチャ
「あ……」
室内へ一歩入ったところでここがキュリオの部屋であることを思い出し、足早に父のもとへ向かう。
「ごめんなさいお父様っ……お待たせしました!」
(うっかり自分の部屋だと思い込んで長湯しちゃった……!)
この時間のキュリオの部屋はじきに来る眠気を妨げぬよう、灯りの数がだいぶ少なくなっている。それらの行動はすべてまだまだ成長段階にあるアオイのためであり、本来のキュリオはかなり遅い時間まで書物を広げていたりするのだ。
「あぁ、私のことは気にしなくていい。アオイが望むなら明日は薔薇の花びらでも浮かべておこうか?」
「……! お父様が差支えなければぜひっ」
「お前と香りを共有することに障りなどあるわけがないさ」
「は、はいっ……」
「決まりだな」
素直に喜ぶアオイに頷きながらこちらへ近づいてきたキュリオ。
ゆっくり伸ばされた手は血色良くしっとりと濡れたアオイの頬を撫で、とある違和感に笑みを零すと肩を抱いてソファへ誘う。
「……?」
てっきりそのまま湯殿へと向かうと思っていたが、今一度ソファへと座りなおしたキュリオへアオイは小首を傾げる。
「私の膝の上へおいで」
「……はい、……」
彼の意図することがわからず、畏まりながらちょこんと腰をおろす。
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