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ホワイトデー編
近づく時
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――闇と稲妻以外なにも映さぬ空を見上げていた青年の瞳には悲しみが満ちており、それがこの世界に向けられたものなのか、それとも……たったひとり愛する者へと向けられているものなのかはわからない。
青年は頭上に輝いていたはずの数多の星をその胸に刻むと、その憂いを秘めた瞳は荒れ果てた地上を見下ろす。
「……っ!」
しかしその瞳は突如大きく見開かれ、なにかを探すように背後を振り返った。
「…………」
視線の先に佇んでいたのは漆黒の髪に黒衣を纏った長身の男だった。
慌てた様子の青年をジッと見つめるその静かな瞳に、自身の感じたものが誤りだったと目を伏せる。
「……いいえ、なんでもありません」
動揺を隠しきれず俯いた青年の隣へと並んだ彼は独り言のように呟いた。
「ヤツの気配を感じたのならば、それはお前だけではない」
「え……」
まさかの言葉に動けないでいる青年の心臓がドクンと高鳴って。
濁流のように溢れ出る憎悪の感情が彼を突き動かすと、後方からはタタッと軽快な足音が響いた。
「……っおい! 仙水! 九条っ!! い、いまのって……!!」
年端もいかない少年が息を弾ませながら駆けてくるが、その表情はいつになく険しい。
「…………」
青年は戻らぬ時間を嘆いた自責の念や後悔が生んだいつもの勘違いだと思っていたが、気配を感じた者が他にもいるというならば、これは間違いなどではない。
血が滲みそうなほどに強く握りしめた拳へ力を込めた青年は気配を感じた方向へと一目散に駆けだした。
「……姿を見た者は?」
「……わかんねぇ。さっき大和が猛スピードで駆けてったけど……そのままどっかいっちまって……」
九条に問われた蒼牙は歯がゆそうに唇を噛んだ。
超人的な勘とスピードを誇る大和は誰よりも早く気配を察知し飛び出していった。
なにごとかと彼の背を見送った数秒後、まさかの人物の気配を察知した残り三人がこの場に出揃ったというわけである。
――その頃、彼らより先にその気配の主のもとへと辿りついた和服の青年。
「……待ってくれっ……!!」
ほんの一瞬だったが……幼い少女を手にかけることさえ躊躇わない彼の心を動かす、たったひとりの人物の姿が確かにそこにあった。
「……ッ!」
突如、脇腹を押さえて片膝をついた彼の瞳は激しく動揺を見せるように揺れ、呼吸を乱しながらも己の刀を杖がわりにようやく立ち上がる。
『おーい大和! どこだ!!』
遠くで馴染のある少年が自分を呼ぶ声がする。やがて自分を探す声は徐々に近づいてきて――……
「……大和!? お前、どうしたっ!?」
まるで戦いの後のように疲弊した彼を小柄な少年が支えると、玉のような汗を額に滲ませた大和が探るように口を開く。
「蒼牙っ……、仙水と九条はっ……なにか言っていたか?」
「なにかじゃねぇって!! お前もてっきり仙水んとこ行ってるかと思ったのによ! なんでこんなとこ居るんだ!?」
蒼牙がそういうのも無理はない。
大和が感じたわずかな気配は数秒後に現れた大きな気配にかき消され、他の三人は不運にも……求めて止まない、あの愛しい気配を感じ取ることができなかったからだ。
彼が立っていたのは中庭の長椅子が前方に見える位置……先ほど夢の中でアオイが現れた場所である。
青年は頭上に輝いていたはずの数多の星をその胸に刻むと、その憂いを秘めた瞳は荒れ果てた地上を見下ろす。
「……っ!」
しかしその瞳は突如大きく見開かれ、なにかを探すように背後を振り返った。
「…………」
視線の先に佇んでいたのは漆黒の髪に黒衣を纏った長身の男だった。
慌てた様子の青年をジッと見つめるその静かな瞳に、自身の感じたものが誤りだったと目を伏せる。
「……いいえ、なんでもありません」
動揺を隠しきれず俯いた青年の隣へと並んだ彼は独り言のように呟いた。
「ヤツの気配を感じたのならば、それはお前だけではない」
「え……」
まさかの言葉に動けないでいる青年の心臓がドクンと高鳴って。
濁流のように溢れ出る憎悪の感情が彼を突き動かすと、後方からはタタッと軽快な足音が響いた。
「……っおい! 仙水! 九条っ!! い、いまのって……!!」
年端もいかない少年が息を弾ませながら駆けてくるが、その表情はいつになく険しい。
「…………」
青年は戻らぬ時間を嘆いた自責の念や後悔が生んだいつもの勘違いだと思っていたが、気配を感じた者が他にもいるというならば、これは間違いなどではない。
血が滲みそうなほどに強く握りしめた拳へ力を込めた青年は気配を感じた方向へと一目散に駆けだした。
「……姿を見た者は?」
「……わかんねぇ。さっき大和が猛スピードで駆けてったけど……そのままどっかいっちまって……」
九条に問われた蒼牙は歯がゆそうに唇を噛んだ。
超人的な勘とスピードを誇る大和は誰よりも早く気配を察知し飛び出していった。
なにごとかと彼の背を見送った数秒後、まさかの人物の気配を察知した残り三人がこの場に出揃ったというわけである。
――その頃、彼らより先にその気配の主のもとへと辿りついた和服の青年。
「……待ってくれっ……!!」
ほんの一瞬だったが……幼い少女を手にかけることさえ躊躇わない彼の心を動かす、たったひとりの人物の姿が確かにそこにあった。
「……ッ!」
突如、脇腹を押さえて片膝をついた彼の瞳は激しく動揺を見せるように揺れ、呼吸を乱しながらも己の刀を杖がわりにようやく立ち上がる。
『おーい大和! どこだ!!』
遠くで馴染のある少年が自分を呼ぶ声がする。やがて自分を探す声は徐々に近づいてきて――……
「……大和!? お前、どうしたっ!?」
まるで戦いの後のように疲弊した彼を小柄な少年が支えると、玉のような汗を額に滲ませた大和が探るように口を開く。
「蒼牙っ……、仙水と九条はっ……なにか言っていたか?」
「なにかじゃねぇって!! お前もてっきり仙水んとこ行ってるかと思ったのによ! なんでこんなとこ居るんだ!?」
蒼牙がそういうのも無理はない。
大和が感じたわずかな気配は数秒後に現れた大きな気配にかき消され、他の三人は不運にも……求めて止まない、あの愛しい気配を感じ取ることができなかったからだ。
彼が立っていたのは中庭の長椅子が前方に見える位置……先ほど夢の中でアオイが現れた場所である。
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