帝都の影の下で~若いノンケの軍人さんが、年上のえっちな男娼さんに捕まってしまったようです~

真田火澄

文字の大きさ
17 / 34

【ポッキープリッツの日】ちょっとした小話

しおりを挟む
 巷には「ポッキーゲーム」なるものがあるらしい。

 若者たちには特に浸透しているゲームだそうで、だが若者枠であるはずのジークハルトはピンときていなかった。

 学生時代はフェリックスの役に立てるよう邁進していたし、軍に入隊してからもそういったことをする人間と関わってこなかったからだ。

「ポッキーゲームぅ?」

「はい」

 そんなジークハルトがポッキーゲームの存在を知ったのは本当に偶然だった。

 たまたま士官学校の学生が元帥府に来ていて、彼らが雑談の中でそんな単語を発していたのだ。残念なことに、ジークハルトが近くを通ったせいで雑談が止んでしまい、中途半端な情報だけがジークハルトに残ってしまった。

 ポッキーは知っているので、はて、あの菓子がなぜゲームなんかになるのだろう、という疑問が湧いた。
 疑問が湧いたら、解決しないと気が済まない。
 ただ、なぜかフェリックスに聞くのは違うとよぎってしまい、事務仕事中のダニエルを捕まえてバーに腰を落ち着けたのが、さっきだ。

 いつの間にかジークハルトの奢りになっていたウィスキー瓶から手酌で注ぐダニエルが、素っ頓狂な声を出した。そんなに驚くようなことなのだろうか。

「なんでまた?」

「たまたま、そういう会話を耳にしてしまって……どのようなものか分からなかったので、先輩に聞くことにしました」

「聞くことにしましたって……お前な……」

 まぁ、ビューロウ大将に聞かないだけマシか、なんて続けられた。

「で、そんなことを聞くためにおれはわざわざ残業を中断させてまでここに来たってわけか」

「すみません」

 氷がカランとグラスを叩く。
 つまみのナッツを口に放り込みながらダニエルは唸り、そうしてしばらく後に「あのな」と言い出した。

「ポッキーゲームっていうのは、ただの宴会芸だ」

「宴会芸?」

「そう。気になるあの子と軽い既成事実を作りたい輩が作り出した、ちょっとドキドキするような、酒の場でしかできない宴会芸」

「はぁ……なるほど……」

「そんな話になっていたのはたぶん、今日が十一月十一日だからだろ。単なる語呂合わせにかこつけて、ってやつだ」

「はぁ」

 いまいち、ピンと来ない。
 あのようなチョコ菓子で、いったい何をしようと言うのだろう。

 ジークハルトがキョトンと首を傾げていることに呆れたダニエルは、グラスを傾けながら眉間に皺を寄せた。

「そんなもんはな、おれより適任がいるだろう?」

「適任、ですか?」

「そう」

 誰のことだろう。
 まさかフェリックスに聞けとでも言うのだろうか。

 だが、ダニエルから出た名前は、意外な人物だった。

*****

「ポッキーゲームぅ?」

 先程と同じテンションで聞き返され、ジークハルトは居た堪れない。

 ダニエルがどこかに連絡して、そうして現れたのはツェツィーリアだった。
 ツェツィーリアがバーに到着した途端、彼に金を渡したダニエルが「さっさと行け」と手を振った。金を受け取れるなら誰でもいいのか、ツェツィーリアはポカンと立ち尽くすジークハルトの手を引いて、いつも行くホテルに連れて行かれた。

 ワインを頼んで、一息ついてからダニエルにした質問をすると、先程の返事である。今日のルームサービスにポッキーがついていたのが、なんだか気恥ずかしい。

 ポリポリとポッキーを食べていたツェツィーリアは、うーんと考えたあと苦笑した。

「あいつには何て言われたの?」

「先輩は、宴会芸だって……」

 宴会芸。
 そもそも、宴会芸というのもピンと来ていない。自分の中での「宴会芸」は、結果的に周囲に迷惑をかけるもの、という認識だった。
 つくづく周りに恵まれていたのだな、と思う。

 とん、とツェツィーリアがこちらの肩を突いた。なんだろう、とそちらを見ると、ツェツィーリアがポッキーの端を咥えてこちらを見上げていた。

「え?」

「ポッキーゲームっていうのは、こうやってポッキーの端と端をお互いに食べていって、キスできたら成功。途中、恥ずかしくなってポッキーを折っちゃったら、折った方が負け」

「な、なるほど?」

 気になるあの子と軽い既成事実。
 ダニエルの言葉が蘇る。

 好きな相手なら、確かに途中で恥ずかしくなって顔を背けてしまい、ポッキーは呆気なく折れてしまうだろう。

 確かにこれは宴会芸だ。
 酒の入った場でしかできない、宴会芸。

 あー……と小さく納得していると、だんだん頬が熱くなってきたように感じる。
 手の甲で頬を撫でていると、ツェツィーリアがポッキーを咥えたままクツクツ笑う。普段タバコを吸っているツェツィーリアからしたら、ポッキー程度なんてことはないのだろう。

「ん」

「え?」

「ポッキーゲーム。やらないの?」

「えっ」

 ツェツィーリアが、クイクイと口先でポッキーを遊ばせる。たかがポッキーを咥えているだけだというのに、やたらに色っぽく見えるのは惚れた弱味だろうか。

「で、でも、ど、どうやって?」

「どうやってって、さっきも言ったじゃん。ほら、こっち咥えてみな?」

 一人で食べるには長いのに、二人でこうして見合って咥えると非常に短く感じる。鼻息が荒くなっていないだろうか、と変な心配が頭をよぎりつつも、ジークハルトはツェツィーリアの咥えるポッキーの反対側を咥えた。

「折ったらヴェルトの負けね」

「うん」

「じゃあ、スタート」

 ポリポリと、ツェツィーリアがポッキーを食べていく。

 どうしても恥ずかしくて、ジークハルトが食べられずにいると、数秒もしないうちにツェツィーリアの唇がふに、とジークハルトに触れた。

 固まっていると、ツェツィーリアが離れてクスクス笑いながらポッキーを飲み込んでいた。

「これがポッキーゲーム。わかった?」

「……うん。わかった、けど……」

 これは、相当恥ずかしい。

 宴会芸というくらいなのだから、これを他の人間が見ている前でやるのか。

 うわっ、無理だ。
 絶対に指名されないようにしなければ。

「えーっと……これ、もしかして好きではない人とやることもある?」

「まぁ、宴会中の罰ゲームの一種だからね。むしろそっちの方が多いんじゃない?」

「そ、そうか……」

 それは、嫌だな。
 たとえ相手がフェリックスだろうと、絶対にできない。

「それで?」

「え?」

「はじめてのポッキーゲーム、どうだった?」

 ワインを飲みながら、ツェツィーリアがのんびり聞いてくる。
 どう、と聞かれましても。
 わからない。

 わからない、が、

「……ぼくは、普通のキスの方がいいかな」

 絞り出すように呟くと、ツェツィーリアが途端にケラケラ笑い出した。

 ああ、恥ずかしい。

 恥ずかしいので、力でねじ伏せることにする。

「ツェツィーリア」

「ん? なぁに?」

 彼の後頭部に手を回して少し引き寄せると、察したツェツィーリアが余裕の笑みでこちらを見上げてきた。見上げて数秒、こちらの顔を見てツェツィーリアは吹き出してしまう。

「ぷっ、ふふっ……あははは」

「ちょ、ツェツィーリア、まじめに……」

「ごめ、ごめんって。いやだって、見たことないくらい顔が真っ赤だから」

 そう言って笑われるのは心外だ。
 だがもう今日は、ずっとこの調子なのかもしれない。
 あぁ、自分にもう少し大人としての余裕があれば……と無いものねだりをしてしまう。

「ごめんって、ヴェルト。ほら、おいで。キスしよ」

「……うん」

 うん、ではないぞ、ジークハルト・ワーグナー!と心の中の自分が叫ぶが、もう抗える空気ではなかった。



 今日は自分が上になれる場面はほとんどなく。ツェツィーリアの攻め手と騎乗位ばかりで、終わった後も思い出し笑いをされてしまう始末であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

処理中です...