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【にゃんにゃんにゃんの日】ちょっとした小話

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 前略。
 ツェツィーリアに猫耳と猫尻尾が生えました。

 仕事をきっちり定時で終わらせた日の夜。
 いつものように、と言うとなんだか気恥ずかしいが、いつものようにツェツィーリアの元に行ったジークハルトだったが、今日はなんだか彼の様子がおかしい。
 足元まである大きなローブに身を包み、目深にフードをかぶって、どこかおどおどとしながら周囲を見回していた。

「ツェツィーリア?」

「っ!……ヴェルト……」

 太陽の橋にいた様子のおかしいツェツィーリアに声をかけると、ツェツィーリアは猫のように肩を跳ねさせてこちらを見上げてきた。

 と、ジークハルトの顔を見た途端、ツェツィーリアの大きな瞳に水膜が張る。

「え?」

「ヴェルトぉ……たすけて……」

 そんなことを言われてしまっては、ジークハルトは頑張るしかなかった。
 頑なにフードを取りたがらないツェツィーリアを抱き上げて、すぐに場所を変えた。

 とりあえずホテルはまずいだろう、と考えはして、ジークハルトはツェツィーリアを抱えたまま無人タクシーに乗り込むと自宅の住所を打ち込む。
 それに突っ込む元気もないようで、ツェツィーリアはジークハルトの膝の上でしゅんと小さくなっていた。

「何があったの?」

 タクシーが出発してしばらく。
 まだ膝上から退こうとしないツェツィーリアの顔を覗き込んで問うてみるものの、ツェツィーリアはフードを掴んでフルフル首を横に振るばかりだ。

 一体全体どうしたというのだろうか。

 ローブの下で何かが動いているようにも感じて、ますます頭にはてなが浮かぶ。

 そうこうしているうちに自宅に着いたので、ジークハルトはツェツィーリアを寝室まで抱き上げて連れて行った。

 そっと、ベッドの上に下ろして、ジークハルトは彼の横に腰を落ち着ける。

「さてと。ここなら安全だよ、ツェツィーリア」

「………」

 本当か?と疑惑の目を向けられるが、ホテルよりは安全である。

「いったい何があったの?」

「……笑わない?」

「笑わないよ」

 そんなに何か変な様子は無さそうだ。いつも勝気なツェツィーリアがおどおどしているのはいささか不気味ではあるが。

 ジークハルトがしっかり頷いて見せると、ツェツィーリアはおそるおそるローブを脱いだ。

「……ん?」

「……」

 ぴょこんと、飛び出てきたのは、可愛らしい猫耳だった。何かのコスプレなのかと思ったが、彼の本来耳がある部分は髪で隠れてしまっているし、何より大量のピアスが猫耳についていて、疑問が疑問を呼んだ。

 そして、ローブを完全に取り去った先。

 彼のちょうど尾てい骨のあたりから、ゆらりと猫の尻尾が現れたのだ。
 猫耳も猫尻尾も、どちらもツェツィーリアの髪色と同じ濃紺色で、猫尻尾はいわゆる鍵尻尾になっていた。

 いったい、何が起きたのか、わからなかった。

 理解が追いつかなかったものの、気づけばジークハルトの手はツェツィーリアの頭に伸びていて、優しくゆっくりと耳を撫でていた。

「んにゃ?! ちょ、ヴェルト、触らないで……!」

「え、あ、ごめん」

 完全に無意識だった。
 ジークハルトの手からバッと距離を取って逃げたツェツィーリアだったが、得体の知れない事態に心細さは感じているようで、そっと元の位置に戻ってきた。
 そして、なにやらうにゃうにゃ言いながらジークハルトの膝上に乗ると、大きな溜め息と共にジークハルトの肩に頭を乗せてくる。

 あちこちに動く猫耳がくすぐったい。

「昼に起きたら、もうこんな状態になってて……他のメンツには爆笑されるし、こんな状態じゃ病院なんて行けないし……ほんとに、大変だったんだ……」

「そう……それは大変だったね」

 ツェツィーリアの頭を撫で、そのまま彼のズボンまで手を下ろす。
 尻尾は尾てい骨から伸びてるせいで、彼の小さく丸い尻が少し見えてしまっていた。
 本当に尻尾なのだろうか、と、あっちにこっちにと揺れる尻尾の根元を撫でる。

 と、またツェツィーリアの身体が跳ねた。

「にゃ!? ちょ、ほんとに、触らないでよ、ヴェルト!」

「ごめん。本当に尻尾が生えているんだね、これ」

「だからそう言って……んにゃぁ……耳元で喋るなぁ……!」

 どうやら、聴力も猫を踏襲しているようだ。
 それが、どうも、楽しい。

 ツェツィーリアの身体を空いた手で抱きしめて、またゆっくりと尻尾を撫でる。
 たしか、猫は尻尾の根元を撫でると気持ちよく感じるらしい。

 うにゃうにゃ言いながら腕から逃れようとするツェツィーリアだったが、可哀想なことに、腕力でジークハルトに適うはずもなく。

「ふにゃ、んっ、まって、それ、やだ……っ、」

「気持ちいい?」

 この、「気持ちいい」という言葉は、とても便利だと思う。
 性的に気持ちいいのか、マッサージを受けているような気持ちよさなのか、どちらとも取れてしまう。

 猫が尻尾の根元を撫でられて「気持ちいい」と感じるのは、マッサージを受けた時の気持ちよさだと思っていたのだが、ツェツィーリアの反応からしてどうも違ったようだった。

 こすこす撫であげて、その周囲の肌も撫でてやると、まるで前戯を受けている時のようにツェツィーリアは声を上げた。

「やっ、やぁ……! ん、ぁ、だめ、だめぇ……」

「気持ちよさそうだけど」

「ふにゃ、に、にゃあ……やら、んんっ!」

 嫌だと言われた猫耳に口を寄せて、そっと低く囁く。
 すると、ツェツィーリアの身体はまた跳ねて、ジークハルトの腰あたりに何やら熱いものが当たってきた。

「あっ、やめ、あぁ……っ」

「気持ちいいね、ツェツィーリア」

 ぺたんと耳を倒してしまったツェツィーリアだったが、囁く声はちゃんと届いているようで、身体を捻って逃げたがる。
 それをやすやすと封じ込めて、トントンとジークハルトは尻尾の付け根を指で撫で叩いた。

 ビクビクとツェツィーリアの腰が跳ねる。

 ジークハルトの腕から逃げようと突っ張っていた彼の腕は既に陥落し、今はジークハルトの服を掴んで耐える方へとシフトチェンジしてしまっていた。

「やら、やっ、ぁっ、あ、ふ、ぅ……ぅ……にゃ、」

「気持ちいいね」

「んんっ、ぁっ、きもちいい……っ! にゃぁあっ」

 ツェツィーリアの身体が弛緩して、もはや反論する元気もなくなってきたようだ。

 本当に、まるで前戯をしているようだった。
 こちらにされるがままに、ツェツィーリアは腰を跳ねさせて、面白いほどに鳴いた。

「やめ、いく、いっちゃ……! だめ、だめ、にゃ、ぁ゛っ」

「ん。イッていいよ。気持ちいいもんね」

「だから! 耳元で話すなって言って……! ふにゃ、にゃあ、~~~ッ、ぁあアッ!」

 ビクビクと、彼の身体が一際大きく跳ねて、じわりと熱い液体が垂れてくるのを膝上で感じる。
 くたりとジークハルトに身体を預けたツェツィーリアだったが、眼光だけは鋭かった。

「やめてって、言ったのに……」

「……ごめん」

 これは仕方がない。
 と、心の中で言い訳してみる。

 可愛らしい鍵尻尾に、猫耳。
 撫でれば撫でるだけ、可愛らしい反応が返ってくるのだ。
 調子に乗ってしまった部分はあるが、ツェツィーリアにだって原因の一端はある。

 機嫌を損ねてしまったか、と考えを巡らせていると、膝上でもぞりとツェツィーリアが動いた。
 下りたいのかもしれない、と思い彼の顔を見ると、何やらうにゃうにゃ言っている。

「どうしたの? ツェツィーリア」

「………えっと……」

 チラチラと、こちらを見るツェツィーリアは大変可愛らしい。
 しゅんと垂れた猫尻尾が、ゆっくりとジークハルトの手に絡んだ。

「あの、ね、ヴェルト……」

「うん」

「お、奥が、」

「ん?」

「奥が、さみしい……」

「奥」

「だから、あの、……シよ? ヴェルト」

 そう言われてしまっては、頑張るしかない。
 ジークハルトはすぐさまツェツィーリアの後頭部を支えてキスをした。

 いつもは感じない、ざらりとした感触に少し興奮してしまったのは、秘密である。

 おわり。
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