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幼少期編「理不尽をまだ知らなかった頃」
笑って語られる"昔話"
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母は笑いながら話していた。
「赤ん坊のお前を小学生の姉と兄に預けて出掛けたら、2人とも泣きながらあやしてたのよ」
きっと、その話は微笑ましいエピソードとして伝えたつもりなのだろう。
でも、私はそこで笑えない。
それは育児放棄であり、無責任であり――母親としてやってはいけないことだった。
どこへ出掛けていたのか、たぶんパチンコだろう。
思い出すたび、母の語る“昔話”は、母がどれほど「母親」ではなかったかを再確認させられる。
私がハイハイを始めた頃のことも語られた。
その日も夫婦喧嘩があり、いつものように食器を叩き割ったらしい。
片付けきれなかった破片を、私は床の上で這いながら踏み、右手の親指を大きく切った。
今もその傷跡は残っていて、冬になると乾燥でひび割れ、痛む。
母は仕事の間、私を知人に預けていたらしい。
その人は子宝に恵まれなかったそうで、もしかしたら“育児体験”のような意味合いもあったのかもしれない。
でも私をあやしてくれたのは、そこにいた犬だった。
迎えに来る時間になると、私はその犬と一緒に眠っていたそうだ。
記憶の中の私は、ただ静かに、環境に順応していっただけだった。
守られるはずの時期に、誰にも守られていなかったという事実を、母は今も理解していない。
「赤ん坊のお前を小学生の姉と兄に預けて出掛けたら、2人とも泣きながらあやしてたのよ」
きっと、その話は微笑ましいエピソードとして伝えたつもりなのだろう。
でも、私はそこで笑えない。
それは育児放棄であり、無責任であり――母親としてやってはいけないことだった。
どこへ出掛けていたのか、たぶんパチンコだろう。
思い出すたび、母の語る“昔話”は、母がどれほど「母親」ではなかったかを再確認させられる。
私がハイハイを始めた頃のことも語られた。
その日も夫婦喧嘩があり、いつものように食器を叩き割ったらしい。
片付けきれなかった破片を、私は床の上で這いながら踏み、右手の親指を大きく切った。
今もその傷跡は残っていて、冬になると乾燥でひび割れ、痛む。
母は仕事の間、私を知人に預けていたらしい。
その人は子宝に恵まれなかったそうで、もしかしたら“育児体験”のような意味合いもあったのかもしれない。
でも私をあやしてくれたのは、そこにいた犬だった。
迎えに来る時間になると、私はその犬と一緒に眠っていたそうだ。
記憶の中の私は、ただ静かに、環境に順応していっただけだった。
守られるはずの時期に、誰にも守られていなかったという事実を、母は今も理解していない。
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