3lads 〜19世紀後半ロンドンが舞台、ちょっとした日常ミステリー

センリリリ

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株式仲買人の恋

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 その日からのモリスは、なにをするにも上の空だった。

 株を売り損ないかけ、食事はろくに咽喉を通らず、睡眠は浅い。同居している母親はうろたえるばかり。

 日に日にげっそりやつれた姿に、ライアンさえもが同情する始末だった。

 そんなある日、急に訪ねて来た人間がいた。

「こちら、モリス・モリソンさんのお宅で間違いないでしょうか」

 高級な仕立ての服を着て、モリソン夫人に丁寧な礼をした若い青年は、どう見てもどこかのやんごとない貴族の令息に見えた。

 まだ少年っぽさが残っているが、整った顔立ちと優雅な物腰に、夫人はうっとりしている。

 しかしモリスはといえば、そんな人間に尋ねられる覚えはなく、居間へと降りて来て対面したはいいが、内心とまどうしかない。

「やあ、突然失礼した。僕はレイモンド・ウィンバック。よろしく」

 相手は爽やかに言った。

 ウィンバック家といえば、裕福さで有名な男爵家だ。物腰から見て、そこの血族の誰かに間違いないだろう。

 ますます心当たりがない。

「実は、君が入居したいと言っている下宿の、ホッブス夫人に頼まれてね。どんな人物なのか、確かめてきて欲しいというんだ。正直、モリス・モリソンなんてふざけた名前、偽名かと思ったよ」

 モリスは受け流した。子供の頃から名前でからかわれるのは慣れている。母親がモリソンモリスの息子という姓の男と再婚したのは、自分のせいではない。

 ただ、正直驚いた。

 貴族でもなんでもないホッブス夫人の便宜のために、上流階級の人間がわざわざ出向いてくるとは。

「そういうことでしたか」

 たしかに、モリスは近々家を出て下宿暮らしをする予定でいた。今の実家だと、職場がすこし遠いのだ。

 探してみたところ近い場所に最適な下宿があるというので、先週申し込みに行って、返事を待っているところだった。

「さて、どうだい。散歩がてら、話でもしようじゃないか」

 そう言われ、渋々ながらも従うことにした。

 悪印象を持たれてあることないこと吹き込まれては、まとまる話もまとまらなくなる。
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