3lads 〜19世紀後半ロンドンが舞台、ちょっとした日常ミステリー

センリリリ

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花はどこへ

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 ビリーはといえば、急にみんなの意気が下がったことに戸惑っているようだった。

「ひどいよ、そりゃああんたたちみたいな人たちには、ちっちゃな鉢植えひとつ、たいしたもんじゃないんだろうけどさ……」

 またべそをかきそうになっているので、レイモンドが慌てて言った。

「代わりに、新しい鉢を僕が買おうか」

 しかしビリーは首をふる。

「自分で育てたから、意味があるんですよ」

 モリスはこっそりと助言する。たしかに、とレイモンドは頷いた。

「周りに聞き込みしてみるか。盗んだところを見たヤツがいるかもしれない」

「無理だよ、旦那。その手のことに関しちゃ、みんな口が固い。ましてやあんたたちみたいなよそ者相手じゃ」

 ライアンが諦めたように言うのにも構わず、レイモンドは颯爽とした足取りで家を出た。階段を駆け下り、建物の外へ出ると、誰かいないか、身体を回転させるようにして、さあっと周囲を見回した。

 しかし、ひと気はない。

 だが、後から追いついたモリスは、とある窓から覗いている人影に気づいた。

「あそこ、誰かいるようですよ」

 その窓は、ちょうどビリーの家と同じ位置にある、一階の部屋だった。違うのは、ちいさな前庭がついていることぐらいだ。

 また建物に入り、該当する部屋のドアを叩く。しかし、答はなかった。出るつもりはないらしい。

 するとレイモンドはノックをやめ、また建物の外へと飛び出していった。

 簡単に諦めたのを意外に思いながらモリスも続くと、今度は道路と庭を区切っている鉄の柵に両手をかけ、なかを覗き見ていた。

「なにを見ているんですか」

 訊くと、庭の中心あたりを指さした。しかしそこには土の地面があるだけだ。

「わかりませんね。どういうことです」

「あそこ。土の色が違っている。それに、小さなかけらがいくつも落ちてないか」

 そう言われて注意深く見てみると、たしかにレイモンドの言う通りだった。白っぽい色の地面の一部分だけに、茶色い柔らかそうな土が円に近い形で広がっている。そしてまわりにちらばっているのは、赤茶けた細かいかけら。

 しばらくそれを見つめていると、また窓の内側に人の気配がした。レイモンドは無言で建物にまた入ると、さっきのドアを叩きながら大声で言った。

「僕は警察じゃない、ただ話を聞きたいだけだ。つきあってくれたら、1シリング払うよ!」

 すると、ちょっとの間のあと、ドアがそっと開いた。

 なかから顔をのぞかせたのは、ライアンよりちょっと年上ぐらいの少女だった。

「なんの話さ」

 ぶっきらぼうな口調だったが、レイモンドがにっこり笑ってみせると、すこしだけ赤くなった。汚いなり・・をしていても、ハンサムなのはわかるらしい。

「君、クレマチスの鉢植えの行方、知らないかい?」

 レイモンドはなにか当てがあるようだった。しかも少女にとっては図星だったらしい。追及されないように、慌ててドアを閉めようとした。

「君を責めるわけじゃないんだ。ただ、返してくれればいい。約束のお金も払うよ」

 レイモンドは言いながら、ドアを閉め切られないように、隙間に靴を挟んだ。

 それで、少女はついに諦めたらしい。渋々頷くと、部屋のなかへと招き入れた。

 部屋の間取りはビリーのところと一緒だった。しかしこちらは物が乱雑に置かれ、同じ広さのはずなのに、かなり狭く見えた。しかも少女の頬にはできたての青あざがあり、荒れた生活を送っていることが見るだけで感じ取れる。

 しかしそんななかでただひとつ、窓際に置かれた瑞々しい植物だけが、浮いていた。

 ありあわせらしい貧相な木箱に植えられ、今にも開きそうな蕾がたくさんついている。

 その周りにも、似たような木箱に植えられているものが並んではいたが、それらはどう見ても道端から採ってきた野草で、中央に置かれたひとつだけが、まるでゴミ溜めに宝石が落ちているような存在感があった。

「おいらの花だ!」

 ビリーが叫びながら駆け寄り、根本の土を指先で掘る。

「ほら!」

 そこには、一度土に埋めて隠していた、結んだリボンを蝋で留めたものが見えた。出品を登録した印だ。

「あんたが盗んだんだな!スージー!」

 ビリーが殴りかからんばかりの勢いで問い詰めようとするのを、モリスが慌てて間に入った。

「暴力はよくない。君も、盗みはいけないよ」

「盗んでなんかいないよ!」

 そう叫ぶと、今度はスージーと呼ばれた少女が泣き出した。
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