異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

10-ステラの決意

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その日の夜。
ステラと向かい合って横になった。凄く恥ずかしいんだが……。
ルナとクレアは、気を遣って少し離れて寝るようだ。
「今日は、ルナさんと寝るはずだったのにごめんね。明日にしようかと思ったんだけど、どうしても今日話しがしたくて……。」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「昨日の話しを聞いて、ずっと考えてたんだけど……。」
昨日の話しというと、加護のことだろう。
「アタシは加護の影響を受けてるかどうかは、自分ではわからない。いえ、最初に合った瞬間は、恐らく影響を受けてたと思う。」
「……。」
「でも、ユウマはアタシを恐れず接してくれて、人の温かさを教えてくれた。そして……アタシをひとりぼっちから救ってくれた。」
涙を浮かべるステラ。
「だから……加護とかスキルとか関係なく、アタシはユウマのことが好き。だから、ずっと一緒にいたい!」
「ステラ……。」
僕はステラを抱き寄せた。僕の肩で泣いているステラ。僕の頬にも涙が伝わる。
ステラは少し落ち着いたようで、顔を離した。
「ユウマ、結婚して欲しいの。」
「えっ!?あ、ありがとう。でも、急に言われても、心の準備が……。」
「そうよね。アタシは突っ張ってたし、牝馬おんならしくないし……。ユウマには、ルナさんっていう美しい奥さんもいるしね。」
「い、いや。ステラは可愛いし、毛並みも素晴らしいし……。ステラはこれまで自分を否定して生きてきたんだろうけど、本来のステラはもっと素敵だと思うよ。」
うーん。恋愛経験のない僕には、こんな時なんて言えば良いのかわからない。
「無理しなくて良いのよ?アタシは、想いを伝えられることが出来て良かったと思ってるわ。」
「無理なんかしてないよ。結婚も心の準備が出来ていないだけで……そうだ!この依頼が終わって、元の街に戻ったら結婚しよう!」
「良いの?」
「もちろん!」
その夜はステラと抱き合って眠った。
眠りにつきながら『あれ?これフラグじゃね?』と、場違いなことを思ったのは内緒だ。

~~~
次の朝、目を覚ますと、クレアだけ側にいた。
ちょうど、ステラはライアさんの所に向かったところらしい。通訳役のルナも着いて行っている。
変なこと言わないか気になって、耳を傾けた。
「昨日の夜はごめんなさい」
「ステラが、昨日の夜はごめんなさいと言ってるわ。」
「気にしなくて良いわよ。ステラちゃん、今日は元気そうね。良いことでもあった?」
「気にしなくて良いって。良いことでもあったって聞いてるわよ。」
ルナも大変だな……。
「そうなの、ユウマが結婚してくれるって!」
「ユウマが結婚してくれるから嬉しいらしいわ。」
「えっ!?」
「ええっ!」
ライアさんも驚いているけど、僕も驚いた。
間違ってはないけど、色々と端折り過ぎじゃない?
ルナも、今のそのまま伝えるのはどうなの?通訳としては、間違ってないけど。あ、ルナがこっちをチラッと見た。
「一応私から補足すると、ステラがユウマに結婚したいと伝えたんだけど、ユウマが心の準備が出来ていないということで、依頼終わって前の街に戻ったら結婚するということになったらしいわ。」
あれ?ルナいつの間に、その情報仕入れたんだろう?
「そ、そうなの?ステラ、おめでとう。って、ルナさんの前であれだけど……。」
「私は気にしてないわよ。ステラ、ライアさんがおめでとうって。」
「ライアさん、ありがとう。」
ステラが、ライアさんに頭を擦り付けている。ライアさんも喜んでいるし、ルナも今のは通訳は必要ないと思ったようだ。
「実は、ライアもこの依頼終わったらルコルと結婚するんだ!」
「そうなの?おめでとう!」
「ありがとう!」
ま、まさかの、ダブルフラグ!このまま、依頼が無事に終わる気がしない。
「クレア、フラグへし折ってね。」
「一体何の話よ。」

結論からいうと、昼前には、無事目的地に到着した。
実は、途中、怪しげな団体さんがこちらを伺っていたのだが……。
「フラグ回収かな?」
「あれが、とかいうものなの?任せて!」
いつの間にか近くにいたクレアが、そう言うと小さい光の玉をいくつか出して、団体さんを吹っ飛ばしてしまった。
クレアの感知に引っ掛かったんだから、こっちを狙ってたのは確かだろうけど、ちょっと心配になる。
その後、ギザールさんたちが団体さんを拘束して、名の知れた盗賊であることが判明。
ギザールさん、お手数お掛けしました。
ちょっとやり過ぎ感は有るけど、大怪我した人はいないし、クレアも大分手加減したようだ。クレア、このところ暴れてないし、元気余ってるんだろうな。
団体さんは、ちょうど巡回に来た街道警備の人に引き渡せたので、ラッキーだった。

馬たちの所に行き、お礼を言いながら今朝掛けた馬たちの身体強化を解いていく。牡馬たちも、大分ルナに慣れたようだ。
しかし、この馬たちとも今日でお別れだな。ハルさんも心なしか残念そうだ。
「そう言えば、準備した水が無駄になったな。」
「ハルさんルートはなくなったわね。」
クレア、何その『ルート』って。そういうゲームじゃないから。
でも、緊急事態が起こらなかったのは何よりだ。

~~~
「皆さん、お疲れ様!」
「「お疲れ様でした!」」
「では、証明書にサインするから出してくれ。」
証明書を渡すと、ジョーンズさんは建物の中に入っていった。
「ギザールさん、ここがジョーンズさんのお店ですか?」
「そうですね。ジョーンズさんはこの店を管理している商会の会長なので、ジョーンズさんのお店と言っても間違いではないです。」
「そうなんですか!?」
そうこうしているうちに、ジョーンズさんが、建物から出て来て、ギザールさんたちに証明書を渡した。
「では僕たちはこれで。ユウマさん、今回はお世話になりました。またいつか、ご一緒できると良いですね。」
「こちらこそ、お世話になりました。」
「それじゃあな。」
「ステラちゃん!」
ライアさん、ステラと別れたくないのか、しがみついている。
「ライア、行くぞ!」
「あ、ちょっと待って……。」
あ、ルコルさんが、ライアさんを引き摺って行った。ルコルさん、苦労しそうだな……。

「ユウマ君、お疲れ様。」
「ありがとうございます。」
ギザールさんたちを見送って、ジョーンズさんからサインの入った証明書を受け取った。
「革職人については、紹介状を書いた。家は私が管理しているから問題ない。これから、使用人に案内させる。私が行けずにすまんが……。」
「いえいえ、こちらこそ、そこまでしていただいて、申し訳ないです。」
「例の件は、何かあったらギルドに伝言いれておく。もちろん、内容には触れないようにな。」
例の件というのは、ユニコーンの角のことだろう。
「はい、何から何まですみません。」
「いや、こちらにも利益になるだろうからな。今後ともよろしく頼む。」
「よろしくお願いします。では、失礼します。」
ちょうど使用人さんが来たようで、革職人の店に案内してもらった。

革職人は、寡黙で無愛想な人だった。使用人さんが言うには、紹介状がなかったら、すんなり受けてくれなかっただろうということだった。根っからの職人という感じだな。
出来上がりまで、5日位掛かるから、その頃来てくれと言われた。メモしとかないと……って、メモがない!後で、見つけたら買っておこう。

家は、街の外れに有り、とにかく大きかった。日本人の感覚では、家というレベルではない気がする。
庭が表にも裏にもあって、どちらも広い。表は植木が多いが、裏はがらんとしていてルナを軽く運動させられる感じだ。
風呂もかなり広い。湯槽も大きく、一頭ずづならルナたちと一緒に入れそうだ。深さはそんななにないので、ルナたちには浸かりにくそうだが、無理ではないかな?。
みんな、興味深そうに見ている。感想を聞きたいが、人の家は初めてだから、比較対象がないよな。
あ、クレアは人の家に住んだことあるのか。
「クレア、この家どう?」
「……。」
返事がない。ただの……いや、なんでもない。
クレアは考え込んでいる様子だった。
「クレア?」
「ここ来たことあるわ。」
「えっ?」
話を聞くと、ここはクレアの元主である勇者の別荘的な建物らしい。恐らく、継ぐ人がいなくて、売りに出された感じだろう。
しかし、別荘でこの大きさって、どういうことだろうか?

外に出ると、使用人さんが声を掛けて来た。
「いかがでしょうか?」
「いかがと言われても……。とにかく、広くてびっくりしました。借りるとしても高いでしょう?」
「私はそれについては聞いておりません。気に入られたようなら、しばらく使ってみてもらえと言われているだけです。」
「えっ!?」
本当に良いのかな?
「では、ありがたく使わせていただいて、5日後に伺うと伝えてもらえますか?」
「承知いたしました。では、こちらが鍵になります。」
「ところで、メモしたいのですが書くものとかお持ちではないですか?」
「そうでした。こちらをお渡しするように言われてました。」
受け取ってみると、カレンダー付の手帳のようなものだった。ペンも付いている。
「これは?」
「商会がお得意様に配っているもので、会長からユウマさんに渡すように言われていたのです。危うく、忘れるところでした。」
ジョーンズさん、気が利き過ぎて怖い。もしかすると、僕が異世界から来たことにも気付いているとか?
「では、ありがたく使わせていただきます。」

~~~
「ステラ、テレポートのポイントって、後で消せるの?」
「もちろん、消せるわよ。」
「じゃあ、この家の裏庭にポイント設定してもらえないかな?」
「わかったわ。」
裏庭に行き、ステラに良さそうな場所を探してもらった。
「ここが良さそうね。」
ステラがそう言ったとたん、魔方陣が広がった……と思ったら消えた。
「見えなくなっても、ちゃんと存在するしてるから大丈夫よ。」
「そうなの?ありがとう。」
「ここから、前の街に帰る?」
「前の街にもポイントあるの?」
「街というか、私のねぐらの近くだけど。」
「あ、それはそうか。じゃあ、後でお願いするよ。こっちのギルド寄ってから、戻って来よう。ちなみに、みんな一緒に移動出来る?」
「今見てた魔方陣の中に入ってれば大丈夫よ。」
何それすごい!

「こっちのギルドも同じような造りだな。」
「そうね。」
ここでも僕たちは当然のように目立ってしまうが、気にしたら負けだ。
そんなことを思ってたら、ギルド職員らしき人が声を掛けて来た。
「すみません、ユウマさんですね。」
「はい、そうです。」
「ギルドマスターが呼んでますので、お手数ですが一緒に来ていただけますか?」
「わかりました。」
うん、ある程度予想してた。

「初めまして。私はこの街でギルドマスターをしている、コリーと言います。」
「初めまして。ユウマです。よろしくお願いします。」
「ルナです。よろしくお願いします。」
「そっちのは、従魔のクレアとステラです。」
コリーさん、真面目な人だな。人というより、服着て二足歩行するボーダーコリーにしか見えない。名前と合いすぎ(汗)。
そして、モフモフだ。触りたい!牡馬は撫でないと言ったけど、モフモフには抗えないよね。
「あのー、触らないでくださいね。」
「うっ!」
なぜ、バレたし?ルナ、ジト目やめて!
「見た目がこんななんで、特に女の人とかやたらと触りたがるので、困るんですよ。」
「そうなんですか。大変ですね。しっぽだけでもダメですか?」
「さりげなく言ってもダメです!」
手でこちらを制してくるコリーさん。あ、手は人の手に近い。まあ、犬の前足じゃ事務仕事無理そうだし。
長ズボンと靴履いているけど、下半身がどうなっているか気になる。もちろん、変な意味でじゃないよ!
しかし、触りたがる気持ちはよくわかる。コリーさん、そういう反応に敏感になってるんだろうな。

「オホン。わざわざ来てもらってすみません。ユウマさんのことは、セラネスのボルムから聞いています。かなり変わってる……失礼、個性的な方だということですので、会ってみたいと思いました。」
「やっぱり、触らせてせて下さい。」
「じょ、冗談なので、やめてください!……実は滞ってる依頼を受けていただけないかと思いまして。」
矢張り、そうか。取り敢えず、聞いてみるか。
「どんな依頼ですか?」
「薬用水仙の採取依頼なんですが、採取可能な場所が限られてまして。その場所が厄介なんです。セラネスの東に森がありますが、その森を抜けると広大な湿原になっています。水仙はその湿原に何ヵ所か群生しています。」
「森を抜けるだけでも大変という訳ですか。」
「そうなのですが、更に湿原にはリザードマンが住んでいて、遭遇すると向かって来ます。リザードマンは、好戦的な種族なので……。」
「なるほど、わかりました。みんなはどう思う?」
「湿原の向こうに、私の故郷があるの。良い思い出がなくて行きたくなかったけど、ユウマと一緒なら行けるかも知れない。結婚したら、母にも伝えたいし。ちなみに、一応テレポートポイントも残してあるわ。」
僕の問いかけにステラがそう答えてくれた。
「そうなんだ。それなら、ステラの故郷経由で行こうか。」
「私は構わないわ。」
「私はユウマが行くところなら、どこへでも行くわ。」
クレアとルナも問題ないようだ。
ルナの言葉は嬉しいけど、もう少し自分の意見を言ってくれても良いと思う。
「受けてくれるんですね?ありがとうございます。それにしても、仲が良いですね。ユニコーンとバイコーンが何を言ってるのかはわかりませんが、ユウマさんを慕っているのはわかります。」
さすがモフモフ……じゃなくて、ギルドマスターだけあって鋭いな。
あ、そういえば、やることがあったんだった。
「その前に、一旦セラネスに依頼達成の報告して来て良いですか?」
「大丈夫ですが、出来れば早めにお願いします。」
「なるべく早くはするつもりです。そう言えば、報酬なんかを聞いてないですが。」
「失礼しました。詳細は受付で聞いて下さい。」
「わかりました。ということで、モフモフを……。」
「仕方ないですね。依頼達成したら、考えても良いです 。」
よし!粘り勝ちだな。
ん?もしかして、「考えたけどやっぱりダメです。」というオチなのかな?
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