異世界でも馬とともに

ひろうま

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第5章 新たな従魔探し

51-セルリアVSレッドドラゴン2

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しばらくすると、レッドドラゴンの動きが時々見える様になって来た。
『我の魔法が当たる様になって来たな。さて、奴はどうするか。』
動きが鈍くなり、魔法が当たる様になったため、更に動きが鈍くなって来たという訳か。
「レッドドラゴンは、後がない感じですね。」
僕がセルリアの解説を伝えると、カイトさんはそう呟いた。
その時、フィールド内の両者が戦闘開始時の様に向かい合って止まった。
『奴は、大技を使うみたいだな。』
『えっ?ブレスじゃあないよね?』
『ブレスは準備中無防備になるから、使うことはまずない。言ってみれば、最終手段だ。』
『あれ?でも、最初セルリアに会ったとき、僕にブレスを吐こうとしてなかった?』
『ナ、ナンノコトカナ?』
『……。』
『そ、それは兎も角、ブレスではないが強力なのは間違いない。実戦なら、準備ができるのを待っておくバカはいないが、今回は我も応えてやろう。』
『えっ?それって……。』
『イリディに、結界を一時的に強める様に言ってくれ。』
『わ、わかった。』
イリディに結界の更なる強化をお願いし、カイトさんにもその事を伝えた。
「かなり不安を感じるんですが……。」
カイトさんが青くなっている。
気持ちはわかるが、イリディを信じるしかない。
それより、戦闘の最後を見逃してはいけない。

突然、レッドドラゴンから炎の渦が放たれた。
あっという間に、目の前が炎で一杯になる。
熱い!
次の瞬間、目の前が白くなった。
冷たい!
と思ったら、衝撃で後ろに倒されていた。
何かが体に当たった様には思えなかったんだけど。
周りを見ると、カイトさんたちも倒れている。
何が起こったんだろうか。
立ち上がって、フィールドを見ると、セルリアだけが立っていた。
レッドドラゴンを探すと、端の方で倒れているのが見えた。
『セルリア、何が起こったの?』
『奴はファイアサイクロンを撃ってきたので、ブリザードで迎撃した。奴は耐えきれずに飛ばされ、結界にぶつかって落ちてきたのだ。』
なにそれ怖い。なんかもう、理解を越えている。
カイトさんにも、それを伝えた。
「無茶苦茶ですね。よく結界が持ちましたね。」
カイトさんによると、どうやらあの衝撃は、レッドドラゴンが物理結界に当たった時に発生した衝撃波によるものだったらしい。
魔法戦になるから、物理結界無くても良くないかなとか思ってたけど、無かったら大変な事になっていたと思う。

フィールドに目を戻すと、レッドドラゴンはセルリアに向かって歩いていた。
『奴が降参した。戦闘は終了するぞ。』
『わかった。』
「カイトさん、決着が付いたみたいです。」
「そうですか……。」
カイトさん、息を吐いた。
皆さん、同じ様に息を吐いている。ずっと、息を止めてたのだろうか。
『イリディ、終わったよ。』
『了解。』

僕とステラはイリディと合流し、フィールド内に入った。
レッドドラゴンは苦しそうにしている。
恐らく、HPもMPもかなり減っているのだろう。
クレアを連れて来れば良かったかな?
まあ、今日はもう他にスキル使う事もないだろうから、僕がヒールを掛けるか。

近付いてヒールを使うと、レッドドラゴンは驚いていた。
「すまない。回復魔法を使えるのか?」
「まあね。借りものだけど。」
「借りもの?」
「いや、何でもない。」
ちなみに、クレアは魔法名を口にするけど、必須ではないらしいので、僕はやらない。
何となく、恥ずかしいからだ。
MPを回復する手段はないが、僕が触れていると回復が早まるのがわかっているので、レッドドラゴンに手を当てた。
抱き着く方が効果あるだろうけど、男とベタベタしたくないからね。
「ん?お前に触れてもらうと気持ち良いな。」
「フフン!そうだろう。」
なぜか、セルリアが自慢げにしている。
「なるほど。お前たちが従魔になるのもわかる気がする。もしかして、お前が強くなったのは、この人間の従魔になったからなのか?」
「そうだ。お前もどうだ?」
「魅力的な誘いだな。……いや、強くなるということが魅力的なだけで、人間ごときに従うのが不本意には変わらないからな。勘違いするなよ。」
また、僕に向かってツンデレ発言してるし。
レッドドラゴンは、少し考えている様な素振りを見せた後に言った。。
「やめておこう。俺は、独りでいる方が向いているからな。だが……。」
「だが?」
セルリアが先を促す。
「俺に名を付ける栄誉を与えてやろう。」
「何を偉そうにしている!」
「あたっ!」
セルリアがゲンコツ(?)をレッドドラゴンの頭に落とした。

「バーン、またね。」
「うむ。あー、ユウマ、いずれまた会おう。」
レッドドラゴンには、燃えるイメージから『バーン』と付けてみた。
『レッド』は安易過ぎるし、『ファイア』も変だしね。
『バーン』も微妙だが、本人が気に入った様なので良しとしよう。
もちろん、契約関係はないので、仮の名前だ。
バーンにも、僕のことはユウマと呼んでもらう様に頼んだ。
そして、なぜか僕の名前を呼ぶ時、一々恥ずかしそうにする。乙女か!
レッドドラゴンは、動ける程度には魔力が戻って来たみたいなので、一旦僕の家に連れて帰った。
しばらく部屋で休むように言ったのだが、外で少し休んだら住み処に帰るというので、セルリアと一緒に近くまで送って来たのだ。

レッドドラゴンと別れて、セルリアに気になっていた事を聞いてみた。
「ねえ、セルリア。あのブリザードっていう魔法なんだけど……。」
「ん?あれがどうした?」
「あれって、氷魔法なの?氷と風の合わせ技みたいな感じに見えたけど。」
「我は風魔法を使えぬからな。単純に氷雪を力業で押し出してるだけで、風の制御をしている訳ではない。」
「力業って……。」
簡単に言ってるけど、誰にでもできる事ではないよね。
「ちなみに、主が言ってた様な属性魔法を組み合わせて使う奴も居る。例えば、氷魔法のアイスグラベルと風魔法のストームを組み合わせたりな。」
「なにそれ、凶悪じゃない?」
「ただ、それぞれの魔法に魔力を分ける訳だから、威力は低くなる。」
成る程。確かに、単属性で魔法を使う方が効率良いよね。
あれ?ということは……。
「複数がそれぞれの属性魔法を使ってそれを組み合わせれば、威力も高いということになるよね。」
「確かにそうだな。普通、複数の魔物が協力することはないから、そういう発想はなかった。」
「そういうものなの?」
あれ?セルリアの反応がない。
「他の属性魔法を使える魔物と協力か……。」
何かブツブツ呟いている。独りの世界に入った様だ。

~~~
「しかし、レッドドラゴンの奴、やけに素直だったな。やっぱり、主のことが気に入ったのだろう。」
「そうなの?」
セルリアは、いつのまにか独りの世界から戻って来ていたらしい。
「うむ。もっと無理を言う感じだったはずだ。」
「そうなんだ。昔から、セルリアとレッドドラゴンは仲が良かったの?」
「そんな訳ないだろう!というか、今も仲良くなんてないぞ!」
あ、地雷踏んだかな?
仲良さそうに見えたんだけどな。
そういえば、他の神獣にも対立候補的な種族とかいたんだろうか。
フェニックスは兎も角、アース・ヴィクセンにはいそうだな。
前の世界では、天狐という神獣がいたし(いたと言っても、実在してた訳ではないと思うが)。

家に戻ると、クレアが話をせがんで来た。
「アタシが話をしようか?」
「いえ。私はマスターから話が聞きたいのよ。」
ステラの折角の提案を、クレアは断った。
僕としては、ステラに話をしてもらう方がありがたかったのだが……。

「何か肝心な所がよくわからないわね。」
「ごめん。」
最初はクレアも喜んで聞いていたのだが、戦いが激しくなるにつれ、詰まらなそうにし始めた。
僕が見えてなくて、聞いていたセルリアの解説だけを元に話しているから、臨場感がないのだろう。
「だから、アタシが話をするって言ったのに。」
「そ、そうね。お願いするわ。」
結局、ステラにバトンタッチした。
ちょっと、悲しい。

クレアから解放されたので、レモンと話をしようと思って、部屋を見回した。
あれ、レモンはどこに……いた!
随分隅に居るな。
僕がレモンに近付くと、レモンは一瞬逃げる様な素振りを見せた。
野性のキツネが、人間に見付かった時みたいな反応だったな。
そういえば、最近レモンが側に来ないし、気付かないうちに僕が何かしたのだろうか。
「レモン、ちょっと良い?」
不安を感じつつ、レモンに声を掛けた。
「良いわよ。どうしたの?」
「天狐っているの?」
「へっ?」
あ、唐突過ぎたか。
「えーと。ブルードラゴンに対してレッドドラゴンがいるなら、地狐に対して天狐とかいるのかと思ったんだ。」
「そういうこと?いるわよ。」
「本当?」
天狐って、種族名はなんて出るんだろう。
ちょっと気になる。
「ええ。でも、天狐って元々戦闘向きじゃないし、戦ったことないけどね。」
「へー。」
「そうだ。前、魔力について研究してるのがいるって言ったわよね。」
「そんなこと言ってたね。え?もしかして、それが天狐なの?」
「そうなの。会ってみる?」
「うーん。会いたい気もするけど、僕とか実験台になったりしないかな。」
「あり得るわね。」
あり得るのか!?
半分冗談で言ったけど、本当になったら怖いな。
「ちなみに、どういう人(?)なの?」
「全身白くてふわふわしてて、私より大きな羽があるわ。」
「ふんふん。」
それは、ちょっと見てみたい。
「あと、二足歩行して、白衣を着ているわ。」
「なにそれ。」
急に怪しくなったぞ。
「元々四足歩行だけど、研究に不便だから二足歩行の練習をしたみたい。」
「どれだけ研究したいんだ。その人(?)ってオスなの?」
「メスだけど、しゃべり方とか雰囲気とかオスっぽいわね。」
前言撤回。やっぱり、会うのはやめておこう。

~~~
翌日は、午前中は予定通りプーラのレッスンをして、午後からは従魔候補探しをした。
レッドドラゴンの件も片付いたし、動物や魔物が戻って来るかも知れない。
と思ったのだが、結局収穫は無かった。
動物は僅かに見られたが、魔物は居なかった。
まだ、警戒してどこかに潜んでいる可能性が高い。
まあ、気長にやっていこう。

レモンとお風呂に入った時、気になっていたことを聞いてみた。
「レモン、僕何か嫌われるような事したかな?」
「えっ?そんな事されてないわよ。」
「そう?最近、僕を避けてるみたいだけど……。」
「そ、そんなことないわよ。」
「それなら良いけど……。」
絶対何か隠していると思うけど、言いたくないことを無理に言わせるのも違うと思う。

「あなた、ちょっと良い?」
お風呂から上がると、ルナが声を掛けてきた。
皆に聞かれないように、空いている部屋で話をしたいということだった。
何か重要なことだろうか?
「話っていうのは、何?」
「実はね……。」
ルナから聞いたのは、レモンが自分もメスとして見て欲しいと言っていたということだった。
レモンが僕を避けているようにしていたのは、そのことをルナに伝えたためだろう。
その後、ベッドに入るといつものようにレモンを抱いたが、やはり意識してしまった。
レモンの方も、変に意識しているように感じた。
これは、ちょっと寝られそうにないな。
僕は、余計なことを考えないよう、レモンを一段と強く抱き締めたのだった。
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