ファンタジーな世界に猫が一匹、仲間を集めて旅をする

翠雲花

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14.魔物と幻獣

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 ジンカは本当に言いたくないのか、なんと言えばいいかと考えており、僕は心臓をバクバクさせながらジンカの胸に顔を押し付けた。
 するとそこで、クロノアが僕の純粋な脳に変態的な内容をぶち込んできた。


『発情だよ。あいつ、いい歳してヌイに発情してるんだよ』

「ンニニニニ(アババババ)」

「ヌイ!? 大丈夫?」


 クロノアの声が聞こえないジンカは、僕の様子に慌てる。
 そんなジンカにはドリュアから説明し、ジンカは僕を抱きしめて「大丈夫だよ」と繰り返した。
 まさか、猫である自分がそんな目で見られるなどと、考えた事すらなかったため混乱してしまったのだ。
 おかげで、僕の毛はシオシオになってしまい、ジンカの脇の下から顔を出せないでいる。


『ヌイは可愛いから仕方ないけど、さすがのボクも引いたよね。ただまあ、先祖返りに恋をするのは珍しい事じゃないんだよ』

「進化する前は、皆動物だったからな。何度も繰り返した魂……要は短命な種族に生まれる者は、魂に刻まれた動物だった頃の記憶が薄い」

『ドリュアの言う通り。それで言うと、もう何百年も生きてるエルフなんかは、動物だった頃の記憶が魂に色濃く残っている場合が多いね。特にその傾向があるのは、精霊や幻獣や聖獣の霊獣種に多く見られるけど、ヒト種もエルフや竜人なんかは、魂の記憶に無意識に引っ張られる者がいる』

「それと獣人も獣の血が濃い分、魂の記憶に関係なく先祖返りに惹かれやすい」


 クロノアとドリュアが、不思議な事など一切ないと言いたげに、詳しく説明してくれる。
 それを聞いてしまえば、納得せざるを得ない。
 なにしろ、この世界はファンタジーな世界なのだ。
 何があってもおかしくない。
 そもそも、僕の感覚では毛を集める行為など問題ないが、それすらも駄目なのだから、これもファンタジークオリティという事だろう。


 もはや、ファンタジーと異世界が合わさったら、なんでも許されるのでは?
 まあ、なんにせよ、今の僕は可愛いただの猫だから仕方ないね。
 ルキウスに関しては、僕が起きないのも悪いし、聞かなかった事にしよう。
 うんうん、それが一番だ!記憶から抹消してしまえ!


 僕の毛が復活し、ジンカの肩に乗って、一生懸命スリスリする。
 ジンカへのスリスリ攻撃をする事で、僕は綺麗な猫のままになる。
 僕はまだ穢されていないのだ。


 その後、僕達は元の場所に戻され、漸く街を出る事ができた。


 王都に繋がる森は、魔物が少ないように思う。
 ジンカがいても、たまに木の上に登れば、魔物の動きが見えるのだが、この森は異常に少ない。


「にゃー?(王都の森、魔物いない。どうして?)」

「ここは父上も含め、私達兄弟も行き来する時についでに見回っているのと、冒険者にも協力してもらって、王都周辺だけでも魔物を減らしているからだね」


 なるほど。
 この国は他にも森があるし、この森に拘らなくても暮らせるんだね。


「それにしても、ヌイは魔物ばかり気にするけれど、幻獣と魔物の違いは知ってる?聖獣は精霊王と同等の存在だから、会う事がほぼないけれど、幻獣はわりといるんだよ」
 
「ニー(知らない。幻獣は漆黒の刃でしょ?)」

「なら、私の肩に乗って。少し話しながら行こう。ヌイが遊んでるのは可愛いけれど、全然進まないからね」


 森の中は、猫にとって魅力的なもので溢れているため、どうしても足が止まってしまう。
 それをどうにかしたいジンカは、魔物と幻獣の違いについて話してくれるようだ。
 知らない事を知るのは楽しいため、僕は大人しくジンカの肩に乗る。


「魔物と幻獣の違いは、肉体を持ってるか持ってないかの差が一番分かりやすい。魔物は肉体を持ち、体内に魔力を有している。一方、幻獣は肉体を持たず、周囲の魔力を使って姿を現す」

「にゃー?(漆黒の刃に触れないのも魔力だから?)」

「そうだね。ただ、幻獣が触れるようにした場合は、問題なく触れる」


 ふむふむ、幻獣は自然現象に似てるね。
 漆黒の刃は影みたいな霧だった。


「強さは、階級ごとに違うから、魔物も幻獣もあまり変わらないよ。ただ、人を襲うのは圧倒的に魔物の方が多いかな。幻獣は隠れている事が多くて、自分のテリトリーが侵されない限りは、目にする事がないかもね」


 あんまり見れないのかぁ。
 なら、図鑑みたいなものもないのかな。
 旅をするなら、やっぱり魔物とか幻獣の把握はしておきたい。
 あとは、薬草とか食べ物も気になる。
 いろんな図鑑が欲しいな。


「にゃにゃー(図鑑ある?魔物とか幻獣とか薬草とか、いろんなものが載ってる本)」

「それなら王都の書店に行こうか。どの書店にも売っているけれど、種類が多いのはやっぱり王都だからね」


 王都での楽しみが増えたところで、ジンカが歩く揺れと心地良い天気、それから森の癒される音が合わさって眠くなる。
 肩からずり落ちれば、ジンカが僕を抱えてくれたため、僕は安心して眠りについた。



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