ヒナちゃんねる。

文字の大きさ
3 / 24

幼馴染。

しおりを挟む
3:多喜田友佑



 「はよパス出せや!」



 「ちょっ、わかってるって!」



 推し活は楽しいけど、現実は辛さがつきものだ。



 体育の授業では出席番号でペアをつくりバスケのパス練習があった。



 僕は出席番号だと都筑勝浬とペアになる。勝ちゃんは不機嫌そうに赤みのある瞳を細め、僕を怒鳴りつける。



 小学低学年の頃は何故彼と張り合えていたのか不思議でならないほどに、僕はあのドッヂボール以降運動が全然できなかった。それまでの競技がたまたまできていたに過ぎなくて、どうやら僕は運動音痴らしい。特に、球技は全くボールを制御できなくて駄目だった。



 僕が勝ちゃんに向けて放ったつもりのボールは彼のいない見当違いの方向に飛んでいく。勝ちゃんは盛大な舌打ちをして、それをキャッチする。多分、彼じゃなかったらボールは吹っ飛んでいただろう。



 「こンの下手くそが!」



 「仕方ないだろー! 誰もが君みたいにできるわけじゃないんだから!」



 「うるせぇ! お前ができねぇと一生テスト受かんねぇんだぞ! もっと危機感持てよ!!」



 「危機感はあるけどできないものはできないんですー!」



 ギャアギャアと言い合いながら、僕はパステストに受かるために額に青筋が浮かび上がっている勝ちゃんにパスのやり方を教わる。手の使い方、狙う場所、教えてくれるのはいいが終始怒鳴るようなガナリ声を上げられる。



 その声にげんなりするけど、ふと昨日のヒナちゃんを思い浮かんだ。



 「……ヒナちゃんだったら受け入れてくれるんだろーなぁ」



 「ハァ? ヒナチャン?」



 僕がボソッと呟いたのが聞こえたようで、勝ちゃんは眉間のシワを深くしながらその名前を繰り返した。



 「何だお前。一丁前に女いるのかよ」



 「女って……言い方やめなよ。てか別に彼女じゃないよ」



 「彼女じゃねぇのに受け入れてもらう気満々なのかよ。キッショ」



 「い、いいだろ、別に……」



 僕が反抗すると、勝ちゃんは僕に引いて口元を引き攣らせていた。



 「ろくに女と話せねぇのにまた顔で好きになってんだろ、お前」



 「……そのうち話せるようになるし」



 てか男だし。



 思わず呟いた僕が悪いのだが引かれた挙句馬鹿にされて、僕は内心もうここまま勝ちゃんもパス合格しなくていいかななんて思いながら、それでも結局はちゃんと彼の指導通りに動く自分に呆れた。



 彼の指導のおかげで、僕はパステストを合格できた。勝ちゃんはテストが受かったことでもう僕の元から遠ざかる気満々である。かつて仲良かった頃の面影は、一切ない。もしかして、彼は覚えていないのではないだろうか。



 「お疲れー! 都筑! 多喜田!」



 無言で僕から離れようとした勝ちゃんにクラスメイトの男鹿大夢が駆けつける。彼は愛想よく笑いながら平然と勝ちゃんの肩をポンポンと叩く。



 勝ちゃんは自分と連名で僕が呼ばれたことが納得いかなかったのか口をこれでもかというくらいひん曲げて男鹿くんを睨んだ。



 「いやぁ、ヒヤヒヤするパス回しだったけど一発で受かってよかったな!」



 「うん。勝ちゃんが僕のへなちょこパス拾ってくれたからだね」



 「はっ! 俺と組んで落ちるなんてありえねーんだよ!」



 「その割には都筑、ちょっと焦ってたと思うけどな?」



 「焦ってねーし!」



 ずっとフンフンと怒っている勝ちゃんを男鹿くんが宥めながら、彼はようやく僕の前から離れた。勝ちゃんは高校に入ってからは男鹿くんといることが多い。小学まではスポーツ万能で周りの人が彼に惹かれついて行っていたが、中学からはあまりに強く勝敗に拘る様子や何でも卒なくこなす隙のなさ、そして決して褒められた性格ではないところから、どんどんと周りの人は離れていった。中学では不良っぽい子とつるんでいたけど、高校は離れたので今では男鹿くんのような珍しいタイプの人しか関わりに行かない。



 それにしても男鹿大夢くんは大らかな人で、勝ちゃんのような偏屈な人から僕のような日陰の人間でも、笑顔で話してくれる。それこそ、ヒナちゃんの言う何でも受け入れてくれる人のようだった。男鹿くんの穏やかな様子は、話し方とかは違えどどこかヒナちゃんの雰囲気を感じることがある。



 なんて、クラスメイトのことどんな目で見てるんだ……。

 僕は深い溜息を吐いて、他のクラスメイトテストをぼんやりと眺めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...