深淵の星々

Semper Supra

文字の大きさ
3 / 28
第3章

目覚め

しおりを挟む
リサとジョナサンは、異常の中心地から施設へと戻る道中、言葉を交わさずにいた。二人は、目の前に広がる現実が信じられないような感覚に陥っていた。彼らが目撃した影、それに伴う無数の目は、彼らの心に消えない恐怖を刻みつけていた。

施設に戻った彼らは、即座に会議を招集し、これまでの調査結果と自分たちの体験を報告した。会議室には、施設の指揮官であるキャプテン・マクレーンや、他の主要な科学者たちが集まっていた。彼らはリサとジョナサンの話を真剣に聞いていたが、誰もがその話の真実性に懐疑的であった。

キャプテン・マクレーンは、がっしりとした体格の中年男性であり、長年にわたる軍歴で鍛え上げられた冷静さを持っていた。彼はリサの報告を聞き終えると、深く息をつきながら口を開いた。

「科学的には理解できない話だが、あなたたちが見たものが現実であると仮定するならば、それは非常に危険な兆候だ」 マクレーンは腕を組み、しばし考え込んだ。「我々がここで何に直面しているのか、もっと確実な情報が必要だ。」

リサは頷きつつも、その場での議論に満足できない部分があった。彼女は直感的に、この問題が単なる「調査」や「研究」では解決できないことを感じ取っていた。しかし、科学者としての彼女はそれを証明する手段を持たなかった。

ジョナサンは重苦しい空気を打ち破るように発言した。「我々は、あの異常の中心で次の調査を行う必要があります。そして、これ以上は単独行動ではなく、チーム全体で協力しなければなりません。これが人類の未来に関わる問題であるならば、私たちは全力を尽くすべきです。」

マクレーンはしばらくジョナサンを見つめた後、重々しく頷いた。「分かった。私はあなたたちの調査を全力でサポートする。だが、その前に我々の防衛能力を強化しなければならない。未知の力に対抗する準備を進めよう。」

数日後、施設は非常事態宣言が発令された。全ての非必要人員は惑星から退避させられ、残ったのは科学者と防衛部隊のみとなった。彼らはこれから行う調査が、ただならぬ事態に発展する可能性が高いことを理解していた。

リサとジョナサンは、新たに開発された探査機器や防御システムを携えて、再び異常の中心地へと向かった。今回は、防衛部隊が同行し、彼らの安全を確保するために周囲を警戒していた。異常が拡大していることは明らかであり、地表の歪みや空間の不安定さは前回よりも増していた。

異常の中心地に再び到達した時、リサは息を呑んだ。そこには、前回と同じく蠢く地表が広がっていたが、今度はさらに異質な変化が現れていた。地表からは奇妙な黒い霧が立ち昇り、その中に無数の小さな光が瞬いていた。まるで星々が地面から浮かび上がっているかのようだった。

「何かが目覚めつつある…」 ジョナサンが声を潜めて言った。

リサはその言葉に深く同意した。彼女は直感的に、この異常が単なる物理的な現象ではなく、何か知的な存在によって引き起こされていることを感じ取っていた。彼女たちは再び、あの影が現れることを予感していた。

その時、地面が大きく震えた。彼らの足元が揺れ、異常の中心から突如として巨大な光の柱が立ち昇った。柱は空高く伸び、まるで天と地を繋ぐかのようだった。リサとジョナサン、そして防衛部隊は、その場で立ち尽くし、目の前の光景に釘付けになった。

「全員、後退しろ!」 マクレーンの命令が通信機を通じて響いた。だが、その声が届く前に、光の柱から無数の黒い影が飛び出し、周囲に広がり始めた。それらはまるで生物のように動き、兵士たちに襲いかかってきた。防衛部隊は応戦しようとしたが、通常の武器では影に対抗できなかった。

リサとジョナサンは、必死にその場を逃れようとした。しかし、影の一つが彼らに近づき、リサの体に触れた瞬間、彼女の視界が再び暗転した。彼女は再びあの異次元的な空間に引き込まれ、無数の目に囲まれたまま、動くことができなかった。

その時、あの影の声が再び聞こえた。「お前たちは禁断の領域に踏み込んだ。我々は目覚めた。これが終わりの始まりだ…」

その言葉と共に、リサは強烈な痛みを感じ、その場に倒れ込んだ。彼女が目を開けた時、彼女は再び現実の世界に戻っていたが、全身が凍りつくような恐怖に包まれていた。ジョナサンが彼女の側に駆け寄り、彼女を支えたが、リサは言葉を発することができなかった。

ケイロン-7で何かが確実に目覚めた。そして、それは銀河全体に影響を及ぼす脅威であった。リサとジョナサンは、これがただの調査や防衛で解決できる問題ではなく、宇宙の根本を揺るがす事態であることを悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...