【完結】最近、婚約破棄が流行っている ~ 格差婚約+婚約破棄、間に合わせ婚約者が幸せになる方法 ~

瀬里@SMARTOON8/31公開予定

文字の大きさ
5 / 13

第5話 キスと暴かれる心

しおりを挟む

 あれから数か月。
 私は、こっそりクアッド様から頂いた贈り物を売り払い、探偵を雇ってレンを探している。
 もう遅いのかもしれない。そんなことを考えそうになる心に必死に蓋をする。

 そんな中、探偵がレンの魔術の師匠らしき人を見つけた。
 でも、レンの消息は何も得られなかった。守秘義務があるため言えないのかもしれない。
 私は直接会いに行って、壮年の魔術師に、一方的に伝言を頼んだ。
 誤解があるので、レンと話したいのだと。連絡が欲しいと。
 レンに伝わることを祈って。

 でも、レンから連絡はなかった。



 クアッド様はだんだん、私の前ではあの胡散臭い笑顔をしなくなってきた。
 前より信頼関係は築けていると思う。いろいろ話ができるようになってきた。

 安定の無表情。言葉も飾らなくなってきた。
 でも、気持ち悪さはなくなったけれど、その表情はレンを思い出させる。

 私は時々クアッド様との時間に心地よさを感じている自分に愕然とし、同時にクアッド様のそばにいるのがどんどんつらくなってきた。


 なのに、クアッド様からの呼び出しが増える。
 あちこち連れ出されるようになった。



------------------------

 今日は、城の庭園の薔薇を見に連れ出された。
 薔薇の庭園は、さすがに女性連れでないときついだろう。
 紫の薔薇、赤い薔薇、ラティスに沿って咲き誇る薔薇と甘い香りが落ち込んでいた私の気持ちを少し上向かせた。

「レイア。この薔薇は、ベネディッティの先代がプロポーズに使った薔薇なんだ。
 私も、いつか好きな人ができたら、この薔薇を渡そうと思っていた」

 そのセリフを聞けば、なぜクアッド様がなぜここに私を連れてきたのかわかってしまった。

 私は、クアッド様のとの関係の心地よさにいつか、甘えていた。

 なんでクアッド様とお役目の話をしっかりとしなかったんだろう?
 初めから、話し合っておくべきだった。
 破棄の条件や破棄までの期間。
 決めておかなければならないことはたくさんあった。

 少なくとも、信頼関係が築けていると感じた時点で、私がもっとちゃんとしていたら。

「レイア。私はレイアが好きだよ」

 言わせちゃいけなかった。

 彼は、私の胸に、紫の薔薇を指す。
 そして、顔を傾けて、私にキスを……。

 いやだった。
 レンからの宝物のようなキスが汚されてしまう。

 私は、クアッド様の胸を押しやった。
 首を振る。

「ごめんなさい。ごめんなさい、クアッド様。ごめんなさい」

 私は、その場に崩れ落ちた。



---------------------

 本当は気づいていた。
 クアッド様が私を見る目に。

 レンと同じような目で私を見ていた。
 愛されるのは心地いいから、甘えてしまった。

 本当はもっと早く、こうなる前に婚約破棄すべきだったのだ。
 なのに、レンは、見つからない。

 見つかっても、レンにもいらないって言われたらどうすればいい?
 クアッド様に婚約破棄されて、レンからももういらないって言われたら?

 保身の気持ちが私を迷わせていた。汚い打算が、私を迷わせてた。

 でも、今、甘えて曖昧にしてた気持ちがさらされてしまった。

 私はレンじゃないとダメ。

 わかってよかった。
 クアッド様もレンの気持ちも関係なく、私が、ダメだったのだ。



 わかったらもう無理だった。





 お飾りの婚約者。
 どちらか一方にでも、本気の気持ちが混じったら続けられない。

 クアッド様が婚約破棄してくれないなら、私が破棄しなくちゃいけない。


------------------------


 その日、私はお父様に許しをもらって侯爵邸を訪れた。
 お父様も私が限界なのを感じていて一緒についてきてくれた。

 ベネデッティ侯爵家の方は、婚約者として接するうちに大変良い方達だとわかっていた。
 誠心誠意お話をすれば、きっとわかってくださる。

 でも、私を好きだと言ってくれたクアッド様。彼を傷つけることは避けられない。


 思えば、間に合わせ婚約者だとは侯爵家の方達には一言も告げられなかった。
 勘違いするな、いずれこの話はなくなるといった遠回しな否定すらもなかった。

 爵位の差が大きく、何の面識もない私を婚約者にするのだから、これはお役目なのだと疑いすらしなかったが、もしかしたら違ったのかもしれない。
 だとしたら、私はなんて失礼なことをしていたのだろう。お詫びしてもお詫びしきれない。

 お父様と一緒に応接室に通された私は、跪いた。
 立っていられなかった。

「申し訳ありません。申し訳ありません。クアッド様。
 婚約を解消していただきたいのです。私・・・私には、好きな人がいるのです。
 こんな不実なわたくしは、クアッド様にふさわしくありません。どうか、どうかお聞き届けください」

 クアッド様が向けてくれる気持ちには、私はふさわしくないのだ。

 声が震える。
 でも、泣いてはいけない。

 私が、傷つけてるんだから。私が泣くのは違う。

 クアッド様は呆然としたようだった。

「好きな……人」

 すべて言う必要はないのだと、わかっていたけれど、レンへの私の気持ちを偽りたくなかった。

「平民の方です。
 私、そ、その方と一緒になりたくて。
 無事にクアッド様の婚約者のお役目を果たし終えたら、婚約破棄していただけたら、貴族の私でもその方との結婚を父に許してもらえるのではないかと、打算的なことを考えていたのです」

 でも、父との約束のことだけは告げない。
 すべて私が考えたことにしたい。私は父の手をぎゅっと握った。

「お役目って、何? レイアは、私との婚約をそう思ってたの?」

 近づいてくるクアッド様。
 お怒りかもしれない。
 足元しか見えないが、顔を上げる勇気はなかった。

「上位貴族の、か、方達の間では、婚約破棄前提の婚約者を、爵位の低いものからたてるのが普通だと伺っております。私、私はずっと間に合わせの婚約者だって、お、思っていて」

  間に合わせって、何だよそれ、とクアッド様は小さく呟く。
 いつもの彼らしからぬ乱暴な物言いに、私は、びくっと体を縮めた。
 やっぱり傷つけてしまった。

「レイア」

 クアッド様が跪いて私の肩に手をかける。
 やさしい、苦しそうな、懇願するようなその声。

 私はそれにこたえることはできない。

「もう無理です。ごめんなさい。ごめんなさい」

 嗚咽がこぼれる。口に手を当てて抑えるが、抑えきれない。

 「っ……ふっ……レン……」

 思わず漏らしてしまったその名を聞いて彼が息を飲むのがわかった。

 もう、どうしていいかわからない。


 助けて、レン。会いたいよ、レン。





 そんな中、応接室に咳払いが響いた。

「……もしかして、話していないのか?」

 侯爵様の戸惑ったような声にクアッド様が小さくつぶやく。

「……はい」

 沈黙。

「かわいそうに……」

 私には、そんなことを言ってもらえる価値はない。私は小さく首を振った。

「レイア、顔をあげなさい」
「っ、はい」

 侯爵様の声に私は嗚咽を飲み込んで顔を上げた。
 お二人は意外な表情をしていた。
 奥様は涙ぐんではいるが、ほおを紅潮させて目をキラキラさせているし、侯爵様は、あきれたような表情を隠さない。

「二人でよく話し合いなさいね」

 侯爵夫人はキラキラした目で見つめて私の手をぎゅっと握ると、男性二人を連れて部屋を出て行った。

 そして私たち二人は、部屋に取り残された。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

処理中です...