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退院
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退院後、悠一と真白の〝恋人ごっこ〟が始まった。
とはいえ〝ごっこ〟だと思っているのは悠一だけで真白は本気らしい。
「悠一君どこ?悠一君!」
悠一の姿が見えなくなると泣きなから家中を探し回る、まるで母親を探す幼児の様になっていた。
「落ち着いてクソもできんなぁ」
手を洗う悠一の背中に抱きついて離れようとしない。
「僕の傍にいてって言ったよね!」
普段の彼からは考えられないくらい、あからさまに悠一にだけ甘える真白。
「あ…あの…悠一君ご、ごめんなさい、ね」
見たことのない息子の姿に衝撃を受けた両親は、今まで真白がどれ程のストレスを抱えていたのかを思い知ることになった。
自分の性的指向やそれによる学校でのいじめと怪我…その全てから逃げる為に自ら記憶を失ったのかもしれない。
そんな真白の思いを一心に受けているのは同い年の悠一なのだ。
「全然!問題ないっすよ」
あまりの無力さに罪悪感に苛まれていた両親は、嫌な顔ひとつせず無邪気に笑う悠一に救われていた。
しかし、まだ高校生の悠一。
いつまでも東京で真白の側に居る、というわけにはいかない。
そのことに真白以外、誰もが気付いていた。
「あのおじさん、おばさん。ちょっといいですか?」
いつになく真剣な悠一の顔つきに両親は返事を躊躇った。
悠一の言いたいことは分かる。
既に1週間も学校を休んで真白の側にいてくれたのだ。
これ以上彼に負担をかけるわけにはいかないが、いざ悠一がいなくなったら真白は一体どうなってしまうのか?
想像するだけで恐ろしい。
とはいえ…
「真白君をオレ、いや、僕にください!」
「!?」
深々と頭を下げた悠一の前で両親が金縛りにあっている。
「夏休みの時みたいにばあちゃん家で療養するんはダメですか?」
「あ、あぁ…そういう…意味…か」
「び、びっくりしたわね」
苦笑いで誤魔化す父と母。
「記憶が戻ったらその後のことは真白が決めたらええと思いますし」
「お願い…します」
悠一のシャツの裾を握りしめていた真白も同じように頭を下げた。
「なんか…真白を嫁にやるみたいだな」
「ちよっと!あなた!悠一君に失礼よ!」
「あははっ!さすがにそれは考え過ぎっすよ!」
豪快に笑う悠一を見つめる真白が恥ずかしそうに微笑んだ。
真白が薬を飲んで深い眠りについた後に入浴する。
それが悠一のルーティンになっている。
「悠一君、ちよっといいかな?」
真白の部屋のドアが静かに開き、うん…と背中を伸ばしながら出てきた悠一に父親が声をかけた。
息子とその友人は明日の夕方東京を発つ予定になっている。
おそらく暫く会えなくなる。
「悠一君は真白のこと、どう思ってるのか教えてほしい」
父親として、同じ男として…悠一にどうしても聞きたかったのだ。
もし悠一がノンケだったら…
真白は悠一に対し明らかな好意を持って接している。
同性愛者ではない悠一にそんな真白を押しつけてしまっていいのだろうか?
「真白と違って…君は多分…ゲイじゃないよね?」
「はい」
きっぱりと答えた真っ直ぐな眼差しに僅かの望みが粉々に崩れていく。
「やっぱりそうか…真白が悠一君のことを好きだから君は…すまない…本当にすまない」
彼の優しさに甘えて…私はなんて残酷なことを悠一君にしているんだ。
私が彼の立場なら苦痛でしかない。
自分に好意を寄せる男を無理矢理押しつけられるなんて…。
悠一君に対する罪悪感で押し潰されそうだ。
「何で謝るんです?」
「だって私は君に真白を…」
声を震わせる父親が眼鏡を外し、右手で目元を覆った。
「今の記憶のない真白は前の真白とは別人なんです。オレが知っとる真白はオレにあんなこと言わんかったし、してこんかった。多分…オレを誰か…〝別の人〟と間違えとるんです」
敢えて〝元カレ〟という言葉を避けたのは父親に対する配慮なのか、それとも〝元カレ〟に対する嫉妬からなのか。
「やけん…記憶が戻ったら…真白は多分オレから離れると思います」
オレから離れて〝元カレ〟に…。
「そうなのかな…私にはそうは見えないけど…じゃあもし、記憶が戻っても真白が今のままだったら悠一君はどうするんだい?」
「その時は…改めて挨拶にきます」
「え?」
「真白君を僕にください!って…あっ!え…と、じゃあ失礼します」
頬を染め、慌てて頭を下げた悠一がバスルームへ向かう。
「どうか…お願いします」
悠一の後ろ姿を見つめる父親の眼鏡が再び曇った。
とはいえ〝ごっこ〟だと思っているのは悠一だけで真白は本気らしい。
「悠一君どこ?悠一君!」
悠一の姿が見えなくなると泣きなから家中を探し回る、まるで母親を探す幼児の様になっていた。
「落ち着いてクソもできんなぁ」
手を洗う悠一の背中に抱きついて離れようとしない。
「僕の傍にいてって言ったよね!」
普段の彼からは考えられないくらい、あからさまに悠一にだけ甘える真白。
「あ…あの…悠一君ご、ごめんなさい、ね」
見たことのない息子の姿に衝撃を受けた両親は、今まで真白がどれ程のストレスを抱えていたのかを思い知ることになった。
自分の性的指向やそれによる学校でのいじめと怪我…その全てから逃げる為に自ら記憶を失ったのかもしれない。
そんな真白の思いを一心に受けているのは同い年の悠一なのだ。
「全然!問題ないっすよ」
あまりの無力さに罪悪感に苛まれていた両親は、嫌な顔ひとつせず無邪気に笑う悠一に救われていた。
しかし、まだ高校生の悠一。
いつまでも東京で真白の側に居る、というわけにはいかない。
そのことに真白以外、誰もが気付いていた。
「あのおじさん、おばさん。ちょっといいですか?」
いつになく真剣な悠一の顔つきに両親は返事を躊躇った。
悠一の言いたいことは分かる。
既に1週間も学校を休んで真白の側にいてくれたのだ。
これ以上彼に負担をかけるわけにはいかないが、いざ悠一がいなくなったら真白は一体どうなってしまうのか?
想像するだけで恐ろしい。
とはいえ…
「真白君をオレ、いや、僕にください!」
「!?」
深々と頭を下げた悠一の前で両親が金縛りにあっている。
「夏休みの時みたいにばあちゃん家で療養するんはダメですか?」
「あ、あぁ…そういう…意味…か」
「び、びっくりしたわね」
苦笑いで誤魔化す父と母。
「記憶が戻ったらその後のことは真白が決めたらええと思いますし」
「お願い…します」
悠一のシャツの裾を握りしめていた真白も同じように頭を下げた。
「なんか…真白を嫁にやるみたいだな」
「ちよっと!あなた!悠一君に失礼よ!」
「あははっ!さすがにそれは考え過ぎっすよ!」
豪快に笑う悠一を見つめる真白が恥ずかしそうに微笑んだ。
真白が薬を飲んで深い眠りについた後に入浴する。
それが悠一のルーティンになっている。
「悠一君、ちよっといいかな?」
真白の部屋のドアが静かに開き、うん…と背中を伸ばしながら出てきた悠一に父親が声をかけた。
息子とその友人は明日の夕方東京を発つ予定になっている。
おそらく暫く会えなくなる。
「悠一君は真白のこと、どう思ってるのか教えてほしい」
父親として、同じ男として…悠一にどうしても聞きたかったのだ。
もし悠一がノンケだったら…
真白は悠一に対し明らかな好意を持って接している。
同性愛者ではない悠一にそんな真白を押しつけてしまっていいのだろうか?
「真白と違って…君は多分…ゲイじゃないよね?」
「はい」
きっぱりと答えた真っ直ぐな眼差しに僅かの望みが粉々に崩れていく。
「やっぱりそうか…真白が悠一君のことを好きだから君は…すまない…本当にすまない」
彼の優しさに甘えて…私はなんて残酷なことを悠一君にしているんだ。
私が彼の立場なら苦痛でしかない。
自分に好意を寄せる男を無理矢理押しつけられるなんて…。
悠一君に対する罪悪感で押し潰されそうだ。
「何で謝るんです?」
「だって私は君に真白を…」
声を震わせる父親が眼鏡を外し、右手で目元を覆った。
「今の記憶のない真白は前の真白とは別人なんです。オレが知っとる真白はオレにあんなこと言わんかったし、してこんかった。多分…オレを誰か…〝別の人〟と間違えとるんです」
敢えて〝元カレ〟という言葉を避けたのは父親に対する配慮なのか、それとも〝元カレ〟に対する嫉妬からなのか。
「やけん…記憶が戻ったら…真白は多分オレから離れると思います」
オレから離れて〝元カレ〟に…。
「そうなのかな…私にはそうは見えないけど…じゃあもし、記憶が戻っても真白が今のままだったら悠一君はどうするんだい?」
「その時は…改めて挨拶にきます」
「え?」
「真白君を僕にください!って…あっ!え…と、じゃあ失礼します」
頬を染め、慌てて頭を下げた悠一がバスルームへ向かう。
「どうか…お願いします」
悠一の後ろ姿を見つめる父親の眼鏡が再び曇った。
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