新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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神と人間の違い

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「大丈夫よ」

 小さな身体で全力で拒否を示すジェイスの娘のリゼットに、リアは声をかけた。

 しゃがんで目線を合わせると、精一杯の敵意で睨み付けて来る。
 知らないとはいえ女神に敵意を剥き出しにするなんて、普通の国なら相応の罰を、好戦的な神なら国ごと潰されても可笑しくない。
 だからみんな、小さな少女を宥めようと必死になっている。

「不安にさせて、ごめんなさいね。あなた達のお父様だと知らなかったの。
 でも大丈夫よ。知ったからには、あなたのお父様をとったりしないわ」

 言葉の意味を理解したジェイスが慌てている。ほんの少し前までは、そんなジェイスを可愛いく感じて、抱きしめたく思っただろうけど、今は違う。

「……ジェイス」

「リア様! 子供のことを隠していた訳ではありません! 話す機会がなかったことは謝罪します。ですから、どうか……」

「ジェイス。大丈夫と言ったでしょう。罰するなんてしないわ」

「そうではなく! いえ、それもありますが、私は本気でリア様を」

「ジェイス。父親なら、子供を不安にさせたらいけないわ。
 私の運命は、あなたとは繋がらなかったのよ」

 受け入れ続けて来たリアからの、初めての拒絶を感じて、ジェイスは何度も首をふる。
 彼はリアの名を呼ぶけれど、もう答えるつもりはない。

 代わりにニコリと微笑んだ。

「さようなら、ジェイス。楽しかったわ。子供達に祝福をーーーー」

 一輪のクチナシの花と甘い香りだけを残して、リアの姿はジェイスの前から消えてしまった。



※※※※※※※※※※※※※※※※



 静かな白亜の神殿の中で、リアは冷たい床に座り込んだ。
 胸のモヤモヤは晴れそうにない。

「大地の女神」

 呼びかけられた声にすぐに反応出来たのは、自分でも意外だった。
 目の前に黒髪の美女がいる。フワリと香る、シナモンの香り。
 初めて見る姿でも、リアはすぐに分かった。

「……知性の女神、ティス様」

 人見知りだというティスが会いに来てくれたということに、少し気持ちが上がる。甘く爽やかなシナモンの香りの効果かもしれない。

「お初にお目にかかります。大地の神、リアと申します」

 ティスは先代と仲が良かった神だ。初対面で情けない姿を見られたくないと、急いで立ち上がり礼を尽くす。

「……ごめんね」 

「なぜ、ティス様が謝られるのですか?」

 たぶん、ティスは全て知っている。リアがジェイスの前から逃げて来たことも。

 そういえば、ジェイスは白亜の神殿に自由に出入りできる身分のようだし、人見知りが激しいティスとも顔見知りだったはず。彼を心配して、姿を現したのかもしれない。

「ティス様。私は幼子を罰するつもりはありませんし、ジェイスに対しても同じです」

「では……何を、思っているの?」

 知性の神とはいえ、他者気持ちは読み取れないらしい。

「……私は薄情者なのでしょうか」

 拒絶を示したリアにジェイスは酷く傷付いた顔をした。
 優しく微笑んで、「全て問題ない。子供がいても、反対されても、あなたの側にいるわ」と言ったら、丸く収まっていたかもしれない。リゼットとも時間をかけて接すれば、仲良くなれたかもしれない。分かっていながら、それを選ばなかった。

「私、あんなにジェイスにドキドキしていたのに、小さな障害一つで、一瞬で気持ちが引いてしまったんです。
 ……自分がこんなに薄情だったなんて……。誰かを愛することなんて出来るでしょうか」

 今の自分がどんなに醜い顔をしているか知られたくなくて、ティスの黒い瞳から目線を外す。

「それは、当たり前」

「え?」

 視線を戻すと、ティスの黒い瞳とかち合う。今度はリアではなく、ティスの方があからさまに視線を反らした。

「神と人間は違う。……人間は執着する生物。神にはない感情だから。
 そもそも、そんなことを気にする神は、愛の女神くらいしかいない……ああ、この子は……愛の女神の影響を受けているから」

 視線を反らしながら、まるで独り言のようにブツブツと呟く。モゴモゴと小声で話す声を聞き逃さないように、耳に髪をかけた。

「人間から見た神は、とても魅力的に見えるから……花に群がる蜂のように、人間は神に惹かれる。容姿も力も。
 それは欲望の神デシルの領域だし、デシルは人間を糧にしてるから、煽るだろうね」

 欲望を膨らませて、何人の人間の男が寄ってこようと、選ぶのはリアだ。リアが少しでも嫌だと感じたら、赤い糸は繋がらない。

「それなら、私が子を生むのは、まだまだ先になりそうですね」

「……そうでも、ないよ。人間は時々、面白いヤツもいるから。
 ジェイスも、面白いヤツだよ。舞い上がりすぎて、大事なことを伝えなかったのは、ヤツの失態だ。……ヤツのことを、嫌わないで欲しいな」

「ふふ、もちろんです。私も取り乱してしまって、お恥ずかしいです」

 ティスの目は決してこちらを見ない。人見知りかもしれないけれど、ティスの優しさを感じて、いつの間にか胸のモヤモヤが消えていた。

「リア。この国を出るの?」

「そうですね。もともとティス様にお会いしたくて来たので、そろそろ別の国に行きます」

 別の国と行っても、リアが知るのは先代の知識のみ。引き継いだ知識の中で、ずっと気になっている神殿があった。

「森の神殿に行って見ようと思います」

 少しだけ眉を寄せたティスは小さく頷いた。
 森の神殿にあまりいい印象はないらしい。それも仕方がないかもしれない。森の神殿がある国は、先代の大地の神が伴侶を選んだ国だから。
 
「あ」

 ティスがチラチラと扉を見る。つられて見たリアは頷いた。
 白亜の神殿にティスの知らない人が来る。

「それじゃ、私は行く」

「はい。お世話になりました。またお会いしてくれますか?」

 少しだけ微笑んで、ティスは消えた。

 それからすぐに、扉がノックされた。

「女神にお目通り願いたい」

 正式に手続きをした上でここに来たのなら、リアが拒否する理由はない。すでに知性の女神ティスの姿はないけれど。

 リアの合図で白亜の神殿を扉はゆっくりと開かれた。

 そこには白金色の髪をした、見知った男がいた。







ーーーーーーーーーー


何だか不定期更新になってしまったわ(^_^;)
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