異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴

文字の大きさ
51 / 162

先代の転移者

しおりを挟む
「ねぇ、みんな。移動扉って知ってる?」

 バート村から戻って、久しぶりにイシカワ邸恒例、全員で夕食の最中。私の一言にダイニングは一瞬、音を失った。

「えっ? な、何? 私、何か変なことを言った?」

 アルバンがスプーンを一度置く。

「お嬢様。移動扉をご存知なんですか?」

「もちろん。コチラとアチラを繋ぐ不思議な扉でしょう?」

 この世界ではテオから初めて聞いたけど、この世界の人より、私の方が詳しいと思うよ。なんと言っても原型の扉を知っているからね。

「この話は食事が終わってから、じっくりいたしましょう」

 ここで強引にアルバンがいったん話を切った。

 えっ? 軽い話題のつもりだったのに……。じっくり話すようなことなの?

 その後、食事を続けたけど、みんなの雰囲気は微妙だし、初めてフーゴのご飯の味が分からなかった。




 食後、みんなと一緒のリビングーーではなく、アルバンと二人きりで応接室にいた。
 とてもくつろぐ雰囲気ではない。

 私は余所の家の子みたいに身体を固くしながら、ソファーに座っていた。

「お嬢様。先程の話をしましょうか」

「う、うん」

「お嬢様は移動扉を欲しいとお考えですか?」

「もっちろん! 誰もが欲しがる夢のアイテムでしょう!」

 アルバンは一瞬黙る。
 なんで? 違うの? この世界でも世界からお金が足りなくなるほど、売れに売れたんでしょう?
 欲しい人がたくさんいるから売れたんでしょう?
 だから、私はここにいるんでしょう?

「便利で貴重な物は、争いの種になります」

 人から奪ってでも欲しいって人がいる。争えば争うほど移動扉は破壊され、現存数はどんどん減って、更に貴重な物になった。

「ケンゴ・シシドが製作した移動扉は1000個以上と言われていますが、現存数は500程度と言われています」

「ケンゴ・シシドですってぇ!?」

 思わず叫んでしまった。
 だって、先代の転移者の名前なんて初めて聞いたよ。思えば、その人がヤラカしたせいで私がここにいる訳なのに、なんで今まで名前すら知らなかったんだろう。
 ケンゴ・シシドさんは五年でこの世界から消えたはず。一年365日だから、1000個ってすごいな。どれだけガツガツ扉を作っていたかよく分かる。扉を作るなんて、家具職人だったのかな。

「お嬢様は……ケンゴ・シシドを知っているのですか?」

「知ってるような、知らないような……ってとこかな。宍戸さんと同郷の出身って接点はあるね」

 私がそう言うと、アルバンは器用に片眉を上げる。
 アルバンの表情を見ると、何かいらないことを言ってしまったみたい……。

「お嬢様。ケンゴ・シシドの素性は全て謎なんです。もちろん出身地も。同郷だなんて、決して口外してはいけませんよ。お嬢様とケンゴ・シシドに繋がりがあると思われたら危険です」

「ん? 別に血縁者じゃないよ?」

 それでもです、とアルバンは強い口調で言う。

 おお……そんなに危険ってことね。
 まぁ、不思議な扉を作る人と血縁を疑われたら……私も作れるんじゃないかと思われる。そして悪い奴に拐われる。作れないとバレたら用済みとして殺される。
 そんなパターンが見えるよ……。異世界怖いぞぉ。

「絶対、何も言わない!! そんな人知らないし、親戚にも宍戸さんなんて人いないから!!」

 アルバンは頷くけど、目が笑っていないよ!
 これは信じてないな。宍戸さんの血縁だと思われてるよ……。血縁ではないけど、宍戸さんの財産を所持してるのは私で……これってある意味……いやいや、考えるのはやめよう。

 アルバンは深い深いため息をついた。
 アルバンが私の前で、こんなにも感情を全面に出すのは珍しい。私が死にかけた時以来だ。

「それじゃあ、移動扉は危険だから諦めた方がいいってことだね」

 がっかりだけど、命には変えられないもの。

「いいえ。リスクを考えても、移動扉は便利な物です。きちんと知ることが大事です」

「まぁ、反論はないです」

 避けられるリスクがあるなら避けたいし、おかしな運が発動してまた死にかけたら嫌だ。
 そう何度も死にかけたりしたら、不死鳥とかゾンビとか、痛いあだ名をつけられそうだし。クルトあたりに。

「アルバン先生、ご教授よろしくお願いします」

 自分で調べるより、知っている人に聞く方が手っ取り早い。決して調べるのが面倒だとかじゃないよ。いや、ちょっとあるけど。

「では、お茶でも用意させましょう」

 ああ、時間がかかるってことだね。

「甘い物もお願い」

 頭を使うには甘い物だ。

 アルバンがメイドを呼ぼうと扉を開けた瞬間。

 開いた扉からドカドカと人がなだれ込んで来た。

「きゃぁぁ!!」

「ええっ!?」

 一番下敷きになっていたヴェロニカとルーナと目が合うと、二人とも揃って、ひきつった笑いを浮かべる。その上にマリンとカリン、ルッツも転がっている。

「……何やってるの」

 まぁ、気持ちは分かるよ。たぶん、私もそっち側だったら同じ事をしただろうしね。
 パウル、クルト、ベルタ、ペトロネラとかみたいに、シレッとしていたら全く気付かないのに。

 普通、こういうバレた時って、蜘蛛の子を散らしたように逃げるってパターンだと思うけど、みんなは、さも当然という風に応接室に入って来る。

 ルッツだけは逃げようとしていたけど、ヴェロニカに首根っこを捕まれていた。

「マイカ! ケンゴ・シシドと関係があるの!?」

「ヴ、ヴェロニカ……」

 しっかり聞いてたんだね。でも訂正しないと。私の平穏な生活の為にも。

「違うよ! 宍戸さんとは一切関係ありません。宍戸なのか、猪戸なのかも知らないくらいの赤の他人だよ」

「シシドかシシドって……何を言ってるのか分からないけど、つまり、ケンゴ・シシドと繋がりがあるってことを知られたくないってことでしょ?」

 ん? 何か違うけど、繋がりはある訳で……。

「マイカの危険は知っておかないと。私達護衛は守るのが仕事だよ!」

 護衛達が並んでピシッと背筋を伸ばすと、左手で胸を二回叩く。

 その動作に、どんな意味があるのか分からないけど、動きが揃っていて怖いな。みんなで練習していたらどうしよう。

 ベルタが一歩前に出た。

「お嬢様。私達メイドは身の回りのお世話をすることが仕事です。知らないことで粗相があってはいけません」

 ベルタがスッと優雅にお辞儀をする。それに続いて、いつの間にかベルタの後ろに並んだメイド一同が、同じくお辞儀をした。

 おおっ! 統率取れてるな!

「つまり、みんなも移動扉に興味津々ってことだね。
 いいよ。ベルタ、人数分のお茶の準備をお願い」

「かしこまりました」

 ベルタの指示で半分のメイドがキッチンに向かう。ヨハンもお茶請けを用意してくれるらしい。

「……パウルの爺さん」

 護衛達とメイド達をじっと見ていたクルトが、パウルに向かってポツリと呟いた。

「俺達もさ、庭師のポーズを考えた方がいいかな?」

 パウルより先に、私の方が頭を押さえた。
 クルトとパウルの庭師コンビのポーズ……ちょっと見てみたい気がするけどねぇ……。

 ルッツもソワソワしながら。

「俺達も何か……」

「いやいやいや!!」

 ルッツの言葉をフーゴが慌てて遮った。
 そんなフーゴを、ローラは真剣な顔で見る。

「フーゴさん、かっこよく決めたら、ヴェロニカさんが喜ぶかも知れませんよ」

「ええっ!」

 真っ赤になったフーゴは、本当に? とか、でも……とか一人でブツブツ言っている。

 これは料理人ポーズが出来る日も近いな。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...