異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴

文字の大きさ
62 / 162

ロブローの18番

しおりを挟む
 色町と呼ばれるこの場所には、性を売りにする娼館から、キャバクラやホストクラブに似たような飲み屋まで、いろいろなタイプの色を売る店が集まっている。

 店構えは普通の居酒屋と変わらないのに、怪しい雰囲気を漂わせているのは、花のような香りが充満しているからかもしれない。

「いらっしゃい。兄ちゃん達、可愛い娘がいるよ。どうだい?」

「お姉さん、こっちおいでよ。一緒に楽しもうぜっ!」

「あらぁ、素敵なおじ様ぁ。私達とぉ、遊びましょう」

 客引きが各店にいる。
 そこがどういう店かは、客引きの格好を見るとだいたい分かる。

 短いスカートで健康的な足を見せているお姉さんが客引きしている店は、典型的なキャバクラ。
 セクシーな露出の高いドレスで胸を大胆アピールしているのは、風俗。
 ちょっとチャラいけど、フレンドリーに客引きしているのは、ホストクラブ。

 どの店に入るかは個人に任せるつもりだ。

 風俗のお姉さん達の手首に、奴隷の腕輪がついている。逆らえないとはいえ、生きる為に身体を売っているかと思うと痛々しい。

「肌も綺麗で髪の艶もいい。肉付きも申し分ない。ということは、彼女達は少なくとも不当な扱いはされていないということです。娼館では売り上げの一部が借金返済になるんですよ。頑張れば、自らの力で奴隷から解放されることが出来ます。贔屓の客が借金を肩代わりすることもありますが」

 私の表情を読んだアルバンがセクシーなお姉さんに近付く。

「私はこの店にしますよ」

 柔らかく笑ったアルバンが先陣きって、セクシーなお姉さんと一緒に風俗店の一つに入って行った。

「なるほど。彼女達の売り上げが上がれば、彼女達の為になる、か」

「考えてもみなかったな」

「マイカさん、私達も行って来ます」

 ロルフとヨハンが、二人別々の風俗店を選んだ。ロルフは清楚系の女性と、ヨハンは可愛い系の女性と、行ってきますと言って手を振りながら入って行った。

 彼女達が奴隷から解放されたとしても、幸せになれるかどうかは分からない。元娼婦が枷になり、好いた男と結婚出来ないかもしれない。税金をはらえずに、奴隷に逆戻りかもしれない。

 どう思うか、どう考えるかは、個人の自由だ。エドガーとユーリにも女を買って来いとは言えないし、言うつもりもない。

 ユーリはキョロキョロと回りを見て、行きたい店にアタリをつけたようだ。

「僕は飲み屋に行きます。たくさんの女の子を侍らせて、楽しく飲みたい気分です」

「俺は静かに飲みたい」

 ユーリはキャバクラ風の店。エドガーは大人な雰囲気のバーのような店に向かった。

 残りはーーーー。

「クルトはどうするの?」

「う~~ん、好みの女の子がいないんだよねぇ。まだお嬢さまの方がいいなぁ」

「まだって何だ、まだって!」

 音もなく近寄ってきたペトロネラがクルトの首根っこをつかまえる。文句を言うクルトにかまわず、そのままズルズル引きずって、一際グラマラスなお姉さんに引き渡された。
 クルトはお姉さんを上から下にじっくり眺めて、小さなため息をつくと、私に軽く手をふる。クルトはグラマラスなお姉さんで決まりのようだ。

「さて、じゃあ私達の番だね」

 女性を対象にしている店は二軒あった。若い色気のある男性がいる店と、品のある執事風の男性がいる店だ。どちらもホストクラブのような店らしい。
 女性だけで入るなら、綺麗なお姉さんがいる店もいいかもしれない。

「どこか希望はある?」

「わ、私はよく分かりません……」

「わたしもです。お嬢様が決めて下さい!」

 エリンとローラは私に巻き込まれたような物だし、決められないのも仕方ない。

「ペトラは?」

「どちらの店も接客の他に、料金追加で色も買えるようです。言葉巧みに誘って、快楽を得る変わりに、高額な料金を払うことになりそうですね。どちらも節度を守れば、楽しめるでしょう」

 ふむふむ。
 元々、社会勉強の為にピンク街に来たんだから、男の誘いをやんわり断るいいチャンスだ。お金が絡むなら、言われるままに本気にならないだろうし……。
 それなら初心者の私達は一択だ。

「若いチャラい方に行こう」

 品のある方は、上級者用な気がする。うかつに初心者が訪れると、大人の魅力で知らぬ間にメロメロにされて、気付けばベッドイン。高額料金請求って流れになりそうだ。
 それよりはチャラい店で、分かりやすい誘い文句をかわしながら楽しむ方がいい。

「じゃあ、レッツゴー!」

 こうして私達は大人の扉を開いた。




 結果、プロはプロだった。

 私とエリンとローラは放心状態で店を出た。

「凄かったですね」

「男の人ってみんなあんな感じなんですかね……」

「まさか……。あれはやっぱり、熟練の技じゃないですか?」

 エリンとローラの言葉に私は思わず、何度も頷いてしまった。
 だって、あんなにすごいと思わなかった。
 最初は良かったよ。エリンとローラとペトロネラと私のテーブルに、イケメンのお兄さんが三人座って、楽しく会話しながらお酒を飲んでいた。

 私はお酒はそれほど強くない。味にそこまで魅力を感じていないから、ガバガバ飲みたいとも思わない。
 それをお兄さんに伝えると、軽くて口当たりがいいお酒を選んでくれた。
 これなら、グイグイ飲めちゃうよ。

 お酒を飲みながら、軽く冗談めいた口調で誘われても、予想通り。適当にあしらいながら、イケメンを楽しんだ。

 そんな中、ふと私が追加のお酒を頼んだ時に、雰囲気がガラリと変わったのだ。

「ロブローの18番をボトルで三本ね」

「ロブローの18番は美味しいけど、高いよ。お嬢さん、大丈夫?」

 青い目のイケメンが困り顔で私にメニュー表を見せてくれる。メニュー表の一番上に、金の文字で書いてあるのが、『ロブローの18番』だ。値段だってちゃんと確認した。
 10万ペリンだ。
 ホストクラブでドンペリ頼むようなイメージなら、妥当な金額だと思って三本も注文した。
 ドンペリも物によって値段は違うけど、シャンパンタワーみたいなエンターテイメント料金がないと、このくらいが妥当じゃないかな? 昔、父親がドンペリを飲みながら、お姉さんのたくさんいる店なら定価の10倍だって言っていたし。

 この時は私も、そこそこ酔ってたらしい。

 財布の紐がユルユルで、10万ペリンをポイッと払ってしまった。

 お兄さん達の目の色が変わったことに、私は気付かなかった。

 この時、私達は金持ち認定されたのだ。

 ちょっと遊びに来た観光客4人組から、金蔵4人組になってしまったらしい。

「お嬢さんと飲むお酒は美味しいな。もっと一緒に飲もうよ」

「うん、飲も! ロブローの18番、追加!」

「もっと静かに落ちつける場所で飲みたいな。二人でね」

「二人~~?」

「そう。個室があるんだよ。美味しいケーキも用意してあるし、行こう?
 僕もお嬢さんと甘いの食べたいな。ね? 甘い時間を一緒にすごそうよ」

「んん~~ケーキいいね! 行こう行こう!」

 あわや追加料金というところで、私とエリンとローラはペトロネラに腕を引かれた。

「どうしたの? ペトラ」

「帰ります」

 ペトロネラもそこそこ飲んだはずなのに、顔色一つ変わらずに、いつも通り淡々としている。

「でもまだケーキがぁ」

「そうだよ。まだ早いって。お嬢さんも僕と行こうよ。ね?」

 ペトロネラの顔は変わらない。イケメンお兄さん達を冷たい目で見ながら、私達の口の中にキャンディを押し込んだ。

「帰ります」

 かなり強めのミント系の味が口に広がる。だんだんと舌に苦い薬草のような味がしたとたんーーーー。

「あれ?」

 頭がスッキリした気がした。

「帰りますよ」

 ペトロネラは深いため息をつきながら、言う。

「ああ、そうだね。帰ろうか。お勘定お願いします!」

 エリンとローラも酔いから覚めたようで、しっかりした足取りで店を出た。

 ペトロネラがいなかったら、私達は酔いに任せて誘われるままに追加料金コースだった!
 酔った頭でも、性的な誘いをされたらキッパリ断れるつもりだったのに、お兄さん達は性的な単語をいっさい使わずに、酔っぱらいの危機管理能力を刺激せずに、色を売ろうとしたのだ。誘いに乗ったら最後。最後まで致してしまったら、なかったことには出来ない。クーリングオフは認められないのだ。

 私はともかく、エリンとローラに「やっちまったよ……」な経験はさせられない。二人は私に連れて来られただけなんだから。

 ぷっ! と噴き出したのは、エリンかローラかどちらだろう。

「「ぷぷぷっ!」」

 二人分の音が重なる。

「「ぷはははははっ!」」

 エリンとローラは揃って笑いだした。

「うふふ。いやだ、私達ったら。カモにされるところでしたよ!
 こんな未知な体験すると思わなかったです!」

「ふふふっ。ペトロネラさんがいなかったら、危なかったですねぇ!」

「あのキャンディは何ですか? 一瞬で現実に戻りました」

 二人はキャッキャとはしゃぎながら、笑い話にしている。

 良かった……のかな? ちゃんと経験値が増えたかな?

「ペトラ」

 呼ぶと、無表情のままこちらを向く。
 いつも淡々としているけど、いつも私のフォローをしてくれる。
 私はペトラの手を取って、グイッと引き寄せた。私より小柄な身体をギュッと抱き寄せる。

「ペトラ、ありがとう。頼もしすぎる!!」

 反応がないペトロネラを抱擁から解放すると、ペトロネラの顔が、いつもの無表情のまま真っ赤に染まっていた。

「「「っ!!!」」」

 私とエリンとローラはペトロネラのあまりの可愛さに、思わず全員で抱きしめた。


 ちなみにあのキャンディは、バート村のババ様特製の酔いざましだった。

 ヘロヘロのデロデロになるまで飲まされたユーリにも、ババ様のキャンディは一発で効いた。その凄い効き目に、ユーリはババ様を崇めるようになった。
 あのままデロデロのままだったら、翌日、二日酔いのまま帰りの馬車に揺られて地獄を見ることになっただろうからね!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...