心読みの魔女と異星【ほし】の王子様

凛江

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心読みの魔女

魔女狩り

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「またうちの領で魔女が出たよ」
「まぁ怖い。捕まってよかったですね」
「ああ。だが、そろそろうちも覚悟を決める頃合いかもしれないな」

ディアナの耳に、父と侍女頭が話す声が聞こえてきた。
二人がいる居間とディアナがいる屋根裏部屋とはかなり距離があるのだが、たまたま水を飲もうと降りてきたところで耳に入ったのだ。
イグナシオとエルミラの結婚式が終わって2週間程経った頃のことである。

「それで、捕まったというのは?」
「ああ。村の外れの、薬師の娘だ」
(薬師ですって…⁈)
バンッ‼︎
ディアナは持っていた水を取り落とすと、ノックもせずに居間の扉を開けた。
「な…っ!ディアナ!何をしている!」
「薬師とは誰のことですか⁈まさか、レーネのこと⁈」
「うるさい!勝手に出て来るなと言っただろう⁈誰か!早くこいつを連れていけ!」
「待ってお父様!お父様…っ‼︎」

ディアナは屈強な使用人二人に屋根裏部屋に戻されると、自分では出られないよう外から鍵をかけられた。

「レーネ…」
薬師の娘というのは、おそらくレーネのことで間違いないだろう。
特に親しくしていたわけではないが、夏を領地で過ごしていた小さい頃に、話をしたこともある。

ディアナの父ローレンシウム子爵は決して評判の良い領主ではなかった。
天災の多いこの地域で大した策も立てず、そのくせ税の取り立てにはかなり厳しい。
女癖も悪く、王都に住む正妻以外に領にも愛人がいて、この離れの侍女頭も愛人の一人だと囁かれている。
そんな嫌われ領主の娘であるディアナも当然領民に嫌煙されていたので、薬師の娘レーネとも関わったことはない。
だが、近くに住む同じ年頃の娘が『魔女狩り』に遭ったことに相当ショックを受けた。

キセノン王国では、ここのところ天災が相次いでいる。
この夏は日照りが続き、ローレンシウム領の農作物も打撃を受けた。
それがレーネのせいだとでもいうのだろうか。
そうして天災が起きるたび、魔女のせいだと魔女狩りが始まるのだ。
この領内でも、もう何人もの人間がそうして捕まり、たいした詮議も受けないまま火刑に処されている。
少女だけではなく、老若男女問わず少しでも人と違うと告発されるのだ。
本当は、今すぐレーネを助けに行ってあげたい。
しかし幽閉され、邸から出られないディアナにはどうすることも出来ない。
こうして連行された者は、ほぼ例外なく魔女として火炙りにされるのだ。
「ごめんなさい、レーネ…!助けてあげられなくて、ごめんなさい…!」

レーネが処刑されたと聞いた2日後、珍しく父が屋根裏部屋にやって来た。
憔悴しきった娘を見ても、父は顔色も変えない。
そして淡々と、父はこう言った。
「友人を憐んでいるところではないぞ、ディアナ。明日は我が身だ。近隣で、おまえが『魔女』じゃないかと噂になっている」
「そんな…。私は魔女なんかじゃないと、この世には魔女なんかいないと、お父様はご存知でしょう?」
そうは言ったが、一番最初にディアナを魔女だと疑ったのは他ならぬ父親だ。
そして彼はきっと今もそう思っている。
ディアナを匿っているのは、自分と子爵家に類が及ばないようにするためだ。

「…これはおまえのためでもあるんだが、おまえをガリウム公国に送ることにした」
「ガリウム公国…、ですか?」
突然の父の言葉にディアナは眉を上げる。
「ああ。公国では魔女狩りが行われていない。それにあそこには、遠い縁戚がいるからお前を匿ってくれるだろう」
「そこに…、私を?」
「ああ。おまえの異能は妻と私しか知らない。使用人たちにも、熱病の後遺症の療養だということになっている。しかし噂が広がっている今、近いうちにきっとおまえは魔女狩りに連れて行かれるだろう。領主の娘だと言っても、『魔女狩り』からは逃れられないからな」

たしかにディアナの異能は両親しか知らない。
使用人たちは、手袋も後遺症のためだと思っている。
未知の熱病に侵されたディアナを気味悪がって必要以上に近づいても来ない。
見た目は相変わらず美しく、体調にも変わりがなさそうなのに軟禁されているという、それが余計に、『魔女』ではないかと疑心を生むのだろう。
近隣の住民たちだって、この離れの屋根裏部屋に誰か住んでいるらしいというのは気づく。
全く姿を現さない住人を気味悪く思うのは自然なことだ。

「でも、もし逃げたのが発覚したら…。それにレーネだって殺されたのに、領主の娘である私だけ逃げるわけにはいきません」
「そうは言っても、おまえの一存ではどうしようもないところまで来ている。おまえが魔女だと認定されたら、エルミラだって疑われるだろう。それに私は…おまえの、命だけは助けたいんだ、ディアナ…」
「お父様…」
命だけは助けたいという父の言葉に、ディアナは驚いて顔を上げた。
そんな父親らしい言葉を聞いたのは初めてだったからだ。

「お父様は…、私を助けたいのですか?」
「当たり前だろう?世間から隠していたのだって、おまえを守るためだ。おまえは私の可愛い娘なのだから」
「…わかりました」
父の言葉に打たれ、ディアナはうなずいた。
本当は父に触れて本心を確かめたい。
しかしそこまで父を疑うようなことを、ディアナはしたくなかった。
危険を冒してまで、父は自分を助けたいと思ってくれているのだから。

「お嬢様、どうかご無事で!落ち着いたら、きっときっと帰ってきてくださいね」
メグがディアナの手を握り、涙ながらに別れを告げる。
彼女の声は、きっと心の声と一緒だ。

その夜、ディアナは粗末な馬車に乗ってローレンシウム邸を出た。
伴は、御者が1人だけであった。
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