心読みの魔女と異星【ほし】の王子様

凛江

文字の大きさ
22 / 52
ミゲルの活躍

贈り物

しおりを挟む
ミゲルたちが首都に凱旋してきた2日後、アルドとエヴァが、ルナの元に美しいドレスを持ってきた。
ミゲルからの、贈り物だという。
しかし当の本人は未だに帰って来ない。
本当はパレード後すぐアルドの店に帰りたがったミゲルだったが、戦の英雄を周囲は放っといてくれなかった。
このまま大公への謁見があるといって、連れていかれてしまったままだ。

「こんな美しいドレス…、どうして私に?」
美しいブルーのドレスは、ミゲルの瞳の色を連想させる。
それに、ドレスの材質は極上の絹だとわかる。
「来月、宮殿で戦勝の祝賀パーティが催されるんですって。ミゲルは公子様の護衛騎士になったけれど、その日は任務を外れてパーティに参加するよう言われたらしいわ。だって、なんて言ったって英雄様ですからね」
「なんでお前が得意気なんだ…」
自慢気に語る妻に、アルドが胡乱な目を向ける。

「それでね、その日はルナにパートナーになって欲しいんですって。まあ、当然よね、恋人なんだから」
宮殿から戻れないミゲルから連絡があって、店で一番優雅で上等なドレスをルナに贈って欲しいと言われたのだそうだ。
「ああ色はね、ミゲルの指定だったわ。ルナには気高いブルーがよく似合うからって。それからまだ時間があるから、ルナが好きに刺繡をしたらいいわ」
「こんな綺麗なドレスに…、私の腕で大丈夫でしょうか」
「何を謙遜しているの。今やうちのエースが」

「宮殿のパーティ…」
ルナはドレスの肌触りを確かめながら、そう呟いた。
自国では、貴族令嬢でありながら王宮のパーティに参加したことはなかった。
本来ならとっくに社交界にデビューしている年齢でありながら、ずっと幽閉されていたからだ。
本当はちょっと…、いや、かなり怖い。
今や平民である自分が宮殿に足を踏み入れてよいのかとも思うし、こんな地味な自分が英雄となったミゲルの隣に並んでよいのかとも思う。
でも…。
「ミゲルが待ってるわよ。きっと彼は、あなたが行かなければ自分も参加しないと言うわ」
「はい…、刺繍も、準備も頑張ります」

ミゲルの隣で生きていきたいと思うなら、いつまでも殻にこもってはいられない。
これは、彼がくれたチャンスなのだから。

その翌日、ミゲルがやっとアルドの店に帰ってきた。
第一公子の護衛に付く前に戦疲れを癒せと、まとまった休みをもらったのだという。

「ルナ!ああ、ルナだ!」
ルナの顔を見るなり抱きついてきたミゲルは相変わらずだ。
世間で英雄と騒がれようとも、彼自身は何も変わっていない。
「ミゲル、本当にお疲れ様」
ルナはミゲルの背中を優しく撫でた。
ミゲルは「もっと撫でて」とばかりにルナの首元に頭を埋める。
大きななりをして、ミゲルはルナの忠犬のようである。

その後、ルナはミゲルに誘われて街に連れ出された。
連れてこられたのは首都でも人気の宝飾品店で、尻込みするルナをミゲルはぐいぐいと引いて店に入った。
「ドレスに似合う宝飾品を贈りたいんだ。公子殿下が、恋人に贈るならこの店へ行けと言っていたから」
「ミゲル…、でも…」
「お金のことなら気にしないで。大公殿下からたっぷり褒美をもらったから」
そう言うとミゲルはこれがいい、あれはダメと宝飾品を手にとってはルナの胸元や耳元に当て始めた。

(ああ、可愛いなぁルナ。あれも似合うしこれも似合う。いっそ似合うの全部買って行こうかなぁ)
ミゲルの心の呟きが、ルナの頭の中に流れ込んでくる。
意図して通じ合わせようとしなくても、彼からルナへの想いがあふれ出ているのだろう。
ミゲル一人に任せておくと大変なことになりそうなので、ルナも真剣に宝飾品を選ぶことにしたのだった。

ネックレスとイヤリング、それとお揃いの宝石がはめ込まれたカフスボタンを注文して、二人はご機嫌で店を出た。
「今回は時間がなかったからドレスも宝飾品も既製品だったけど、次回はこの世でたった一つ、ルナだけに作られたものを贈るからね」
そうミゲルがルナの耳元で囁く。
「誰よりも、姿かたちも心根も美しいルナに、一番似合うものをね」
「そ、そんな台詞どこで覚えてきたの?」
「どこって…、僕は思ったことしか言わないよ」
元々貴公子の佇まいではあったが、益々甘さを増してきたミゲルに困ってしまう。
でも、ミゲルの言葉に嘘がないことは、ルナが一番よく知っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

処理中です...