心読みの魔女と異星【ほし】の王子様

凛江

文字の大きさ
11 / 52
ガリウム公国へ

悪夢

しおりを挟む
「いたぞ!魔女だ!」

大勢の男たちが追いかけて来る。
その男たちの後ろには父と元婚約者のイグナシオもいて、ディアナを捕まえようとものすごい形相で追いかけて来る。

「追いかけっこはここまでだ!」
父は躊躇いもせずにディアナの髪を掴んだ。
「痛いっ!離して、お父様!」
「父などと呼ぶな、おぞましい!この、魔女め!」
ディアナは引きずられ、縛り上げられる。
そして、素足のまま刑場に引き立てられて行く。
その先には、今からディアナが磷付られる柱と、火を付けるための藁がうず高く積んである。

「いや…っ!助けて!私は魔女なんかじゃない!」
「うるさい!往生際の悪い魔女め!」
「いやぁ…っ!」

「ルナ、ルナ、大丈夫?」
体を揺さぶられ、ルナは目を覚ました。
「……っ⁈ミゲル⁈」
目の前には、心配そうに顔を覗き込むミゲルがいる。
「すごくうなされてたよ。また怖い夢見た?」
「…うん…」
ここのところ、よく怖い夢を見る。
道中たくさんの魔女狩りを見て、明日は我が身という恐怖が悪夢を見せているのだろう。

「よかった…、夢で…」
放心状態のまま見上げれば、ルナはミゲルに抱きしめられていた。
今夜はベッドが2つある部屋に泊まれたからミゲルをゆっくり寝かせてあげられるはずだったのに、結局こうして彼を起こしてしまった。

「あの…、ごめんなさい、ミゲル。もう大丈夫だから…」
「大丈夫。ずっとこうしてるから、安心して眠って」
「でも、それじゃミゲルが…」
「僕も、ルナと寄り添ってる方が安心するんだ」
人懐っこい笑顔を見せられ、ルナもほっとしたように微笑んだ。

パターンは色々だが、ルナは毎晩のように悪夢に悩まされている。
うなされていると、その度にミゲルが悪夢から引き上げてくれるのだ。
申し訳ないとは思うが、ミゲルの腕の中は安心できる。
だからミゲルは最初から抱き合って眠ればいいと言うのだが、それはそれで恥ずかしくて寝付けないとも思う。

「大丈夫だよ、ルナ。追っ手からも、魔女狩りからも、僕が絶対守るから」
頭の中に流れ込んでくるミゲルの優しい声を聞きながら、ルナは目を閉じた。

◇◇◇

「もうすぐガリウム公国の首都ニオブね」
「そうなのか?」
「ええ。数日中には着くと思うわ」

いくつかの峠や森、宿場町を徒歩で超えてきたルナとミゲルは、通行証のおかげで難なく国境を超えることもできた。
本来、国境を超えるにはかなり厳しい審査がある。
圧政で厳しく魔女狩りもあるキセノン王国から逃れようとする民が相次いだからだ。
しかしローレンシウム領主自らが発行した通行証はかなり効力があったらしい。

そうして、ルナとミゲルはようやくガリウム国の首都ニオブに近づいていた。
もし父がディアナの生存に気づいても、なかなかここまでは追って来られないだろうし、ガリウム公国は魔女狩りが無い国だ。
そんな安心感からか、ルナは国境を超えてから、悪夢を見ることが少なくなっていた。

今までほとんど領地…というか屋敷から出たことのないルナにとっては、長い道のりだった。
超人ミゲルにとっては超速で走ることもルナを担ぐこともやぶさかではないが、あまり人目につく行動は控えなければならない。

しかしずっと軟禁状態だったルナにとっては、毎日太陽の下を歩けるということ自体楽しかった。
道中怖く悲しい場面に遭遇はしたが、今初めて、人間らしい生活を送っているような気がする。
体力もついたし、日に焼けてとても健康的になったと思うし、今ではすっかり田舎から王都に向かう村娘にしか見えないだろう。

その夜、今夜の宿に選んだ洞窟の中で目を覚ましたルナは、隣にミゲルの姿がないことに気づいた。
そっと足音を忍ばせて洞窟の入り口まで出てみると、ミゲルは夜空を見上げて立っている。
(また、仲間を探してるのかしら…)

こうしてミゲルが空を見上げて佇んでいるのを見るのは、初めてではない。
最初の時は、姿の見えないミゲルを泣きながら探した。
彼がルナを置いて逃げてしまったのかと思ったのだ。
そんなルナを、ミゲルは申し訳なさそうに抱きしめて、「ルナに黙っていなくなるなんて絶対にないよ」と約束してくれた。

それならどうしてとたずねれば、彼は自嘲気味に、「もしかしたら仲間が僕を迎えに来るかもしれないと思って」と言った。
ミゲルの話では、彼の仲間が、空から探しているかもしれないのだと言う。
だからミゲルは耳を澄まし、感覚を研ぎ澄まして、仲間からの声を受け取ろうとしているのだと。

ルナには何故空からなのかは理解出来なかったが、しかしそれはつまり、彼には探しに来てくれる誰かがいるということだ。
要するに、彼はその誰かを待っているのだし、その時はルナとの別れの時ということである。

これまで、ミゲルとの旅は本当に楽しかった。
彼は自分を異星人だなどとおかしなことを言う以外は、わりと常識的だ。
彼が嘘をついているようには見えないが、やはり違う星からやって来たという説明はルナの常識からかけ離れている。
もしかしたら彼自身、何らかの理由で魔術師などにそれを信じ込まされているのかもしれない。

それに、なんというか彼の所作は洗練されていて、貴族出身なのでは、と思わせる節があった。
ミゲルはとても紳士的だ。
女性を大事にする習性が身についているのか、体力のないルナを必要以上に気にかけ、労わってくれる。
言葉も行動も優しいし、イライラしたり怒ったりしない。
(やはり貴族出身なのかも。見目もいいし、これはモテるだろうなぁ)
ルナはこっそりそんなことを思っていた。

だから、その夜以降も何度か空を見上げるミゲルを見たが、しかしルナはもう気づかないふりをしていた。
いつか、誰かがミゲルを迎えにやって来た時…、その時は、彼を笑顔で送り出してあげるのだ。
それが、ここまでルナを守ってくれた彼に対してできる唯一のことなのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

処理中です...