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本当の魔法使い
それぞれが見た奇跡
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少し時間を遡って、これから魔女の処刑が始まるという時…。
「これで、あの女もおしまい…」
エルミラは、柱に括り付けられた姉の姿を見てほくそ笑んだ。
何をどう間違ってあんな極上の男の婚約者におさまったのか知らないが、これでやっと全てが正しい位置に戻るのだ。
そう、あの女が家を出てから、何もかもが上手くいかなくなった。
それを父は、魔女のせいだと言っていた。『ディアナ』は魔女で、家を呪っているのだと。
でもその魔女も、今から火炙りで殺される。
あの英雄にも公子にも、やはり魔女だと知られて見捨てられたからだろう。
彼らがこうして沈黙しているのが何よりの証拠だ。
◇◇◇
「よかった…。とうとう、我が娘だということはバレなかった…」
エルミラの隣で、ローレンシウム子爵は胸を撫でおろしていた。
魔女狩りを先頭きって推進している立場で、自分の娘が魔女だなどと知られるわけにはいかないのだ。
思えばディアナも哀れな娘ではあるが、本物の魔女なのだから仕方がない。
魔女の呪いのせいで家も没落しかけている。
自分の生家を呪うとはとんでもないやつだ。
でも魔女が火刑に処されれば、きっと全て元通りになるだろう。
ところが。
今から火がつけられるというその時、突然光が射し、そして周囲に暴風雨が吹き荒れた。
エルミラたちは身を低くして、吹き飛ばされないようにその辺にある物につかまった。
そして雨がやんでやっと顔を上げてみれば。
あの女にだけ光が射し、そして背後に虹が出ていたのだ。
神々しいまでのその姿に、周囲の人々は「聖女様だ」と拝んでいる。
「な…っ!どういうことだ⁈ディアナが聖女だって⁈」
子爵は呆然と自分が捨てた娘を見上げた。
たしかに娘は光に包まれ、それは奇跡としか言いようのない光景である。
「ディアナが聖女…、魔女ではなく、聖女…」
子爵はそう呟くとニヤリと口角を上げた。
自分の娘が『聖女』だなんて、こんなありがたいことがあるだろうか。
自分は『聖女』の父親なのだ。
これから経験したこともないような栄耀栄華が待っているかもしれない。
そんなことを考えていると、隣にいる次女は発狂せんばかりに叫んでいる。
「そんな、そんなはずないわ…!あの女は魔女よ…!処刑は?処刑はどうなったの?」
エルミラが処刑台を凝視すれば、処刑が執行されるどころか、突然現れた男によってディアナは助けられた。
「あの人だわ…っ!」
ディアナを助け連れ去って行く男は、あの時見た極上の男だ。
愛おしそうに魔女を抱きしめ、走り去って行く。
「ダメよ…!」
魔女のディアナが幸せになるなんて許せない。このエルミラより幸せになるなんて…!
エルミラはミゲルが走って行った方に向かおうとした。
すると突然背後から
「ギャーーーッ」
という叫び声が聞こえてくる。
振り返ると、父の服に火がついていた。
ヘンリ王子がミゲルを射ようとして闇雲に放った火矢が飛び火したのだろう。
「熱い!熱い!誰か早く!この火を消せ!」
火はどんどん燃え広がり、すでに父の半身を包んでいる。
しかし誰も自分が逃げることに精一杯で火を消してやろうとする者などいない。
「エルミラ…ッ!」
父に縋るような目を向けられ、手を伸ばされる。
エルミラはその手を振り払うと、英雄ミゲルの後を追った。
そして、彼がヘンリと戦っているうちにディアナに近づいた。
そう、この女さえいなくなれば…。
そうすればローレンシウム子爵家は元通りになる。
そしてミゲルは、きっとエルミラを見てくれる。
だってミゲルはきっと、ディアナの魅了の魔術で操られているのだから。
◇◇◇
イグナシオは、光を浴び虹を背負う元婚約者ディアナを、恍惚とした表情で眺めていた。
元々、美しく利発なディアナを、イグナシオは気に入っていたはずだ。
あの凛とした彼女がイグナシオの前ではしおらしいことにも満足していた。
ただ、ディアナが病気療養のために領地に引きこもってしまったから、ついついエルミラの方に気持ちが移ってしまっただけだ。
いや、浮気する気など全くなかったのに、エルミラが誘惑してきたから…。
そう、エルミラと結婚したのだって、彼女が子供ができたなどと嘘をついて騙したためだ。
「ディアナ…、君は聖女様だったのか…」
広場に向かう荷車の上でさえ、窶れてはいても凛としたディアナの姿は美しかった。
今光を浴びた彼女は、神々しいほどに美しい。
「ディアナ…、君が魔女ではなく聖女なら、もう一度やり直せるだろうか…」
そう言いながらふらふらと処刑台の方に近づいて行った時、あの男が現れた。
ガリウム公国で英雄と呼ばれる男。その男が一瞬でイグナシオの目の前からディアナを連れ去ったのだ。
◇◇◇
その頃ローレンシウム子爵夫人は、嫡男アーサーと王都のタウンハウスにいた。
今日は『魔女ディアナ』が『大魔女ルナ』として火炙りにされる日だと聞いている。
でもそれについて、夫人は特に何も思わなかった。
と言うより、幾分ほっとさえしている。
夫の話では、ディアナは本当の魔女だという。
アーサーが病気なのも、最近ローレンシウム子爵家の事業がうまく回らないのも、全てディアナのせいだと。
それに夫は、『魔女』を生んだと夫人を責めさえした。
思えば、ディアナは小さい頃から利発すぎて可愛さがなく、夫人はとうとう娘を愛することができなかった。
凛とした美しさも優秀なところも、なさぬ仲だった姑に似ていたからだろうか。
ディアナがローレンシウム家とは関係ない平民として処刑されると聞いて、夫人は安堵していた。
もう誰も、「魔女を生んだ」と言って夫人を批難する者はいないだろうから。
そろそろ処刑も終わって、見物に行った夫たちも帰ってくるだろうか…。
そう夫人が思い始めた頃、俄かにタウンハウスのエントランスの方が騒がしくなった。
「奥様!大変です!」
侍女の1人が部屋に飛び込んで来た。
ノックもせずに慌ただしいことだと叱ろうとした時、次の言葉が耳に飛び込んでくる。
「旦那様とお嬢様が大やけどを負われて…!」
エントランスに向かうと、担架に乗せられた夫と娘が運びこまれたところだった。
夫は体全体を、娘は顔と頭を包帯で覆われている。
「キャーーーーッ!」
ローレンシウム子爵夫人は、その場で失神したのだった。
「これで、あの女もおしまい…」
エルミラは、柱に括り付けられた姉の姿を見てほくそ笑んだ。
何をどう間違ってあんな極上の男の婚約者におさまったのか知らないが、これでやっと全てが正しい位置に戻るのだ。
そう、あの女が家を出てから、何もかもが上手くいかなくなった。
それを父は、魔女のせいだと言っていた。『ディアナ』は魔女で、家を呪っているのだと。
でもその魔女も、今から火炙りで殺される。
あの英雄にも公子にも、やはり魔女だと知られて見捨てられたからだろう。
彼らがこうして沈黙しているのが何よりの証拠だ。
◇◇◇
「よかった…。とうとう、我が娘だということはバレなかった…」
エルミラの隣で、ローレンシウム子爵は胸を撫でおろしていた。
魔女狩りを先頭きって推進している立場で、自分の娘が魔女だなどと知られるわけにはいかないのだ。
思えばディアナも哀れな娘ではあるが、本物の魔女なのだから仕方がない。
魔女の呪いのせいで家も没落しかけている。
自分の生家を呪うとはとんでもないやつだ。
でも魔女が火刑に処されれば、きっと全て元通りになるだろう。
ところが。
今から火がつけられるというその時、突然光が射し、そして周囲に暴風雨が吹き荒れた。
エルミラたちは身を低くして、吹き飛ばされないようにその辺にある物につかまった。
そして雨がやんでやっと顔を上げてみれば。
あの女にだけ光が射し、そして背後に虹が出ていたのだ。
神々しいまでのその姿に、周囲の人々は「聖女様だ」と拝んでいる。
「な…っ!どういうことだ⁈ディアナが聖女だって⁈」
子爵は呆然と自分が捨てた娘を見上げた。
たしかに娘は光に包まれ、それは奇跡としか言いようのない光景である。
「ディアナが聖女…、魔女ではなく、聖女…」
子爵はそう呟くとニヤリと口角を上げた。
自分の娘が『聖女』だなんて、こんなありがたいことがあるだろうか。
自分は『聖女』の父親なのだ。
これから経験したこともないような栄耀栄華が待っているかもしれない。
そんなことを考えていると、隣にいる次女は発狂せんばかりに叫んでいる。
「そんな、そんなはずないわ…!あの女は魔女よ…!処刑は?処刑はどうなったの?」
エルミラが処刑台を凝視すれば、処刑が執行されるどころか、突然現れた男によってディアナは助けられた。
「あの人だわ…っ!」
ディアナを助け連れ去って行く男は、あの時見た極上の男だ。
愛おしそうに魔女を抱きしめ、走り去って行く。
「ダメよ…!」
魔女のディアナが幸せになるなんて許せない。このエルミラより幸せになるなんて…!
エルミラはミゲルが走って行った方に向かおうとした。
すると突然背後から
「ギャーーーッ」
という叫び声が聞こえてくる。
振り返ると、父の服に火がついていた。
ヘンリ王子がミゲルを射ようとして闇雲に放った火矢が飛び火したのだろう。
「熱い!熱い!誰か早く!この火を消せ!」
火はどんどん燃え広がり、すでに父の半身を包んでいる。
しかし誰も自分が逃げることに精一杯で火を消してやろうとする者などいない。
「エルミラ…ッ!」
父に縋るような目を向けられ、手を伸ばされる。
エルミラはその手を振り払うと、英雄ミゲルの後を追った。
そして、彼がヘンリと戦っているうちにディアナに近づいた。
そう、この女さえいなくなれば…。
そうすればローレンシウム子爵家は元通りになる。
そしてミゲルは、きっとエルミラを見てくれる。
だってミゲルはきっと、ディアナの魅了の魔術で操られているのだから。
◇◇◇
イグナシオは、光を浴び虹を背負う元婚約者ディアナを、恍惚とした表情で眺めていた。
元々、美しく利発なディアナを、イグナシオは気に入っていたはずだ。
あの凛とした彼女がイグナシオの前ではしおらしいことにも満足していた。
ただ、ディアナが病気療養のために領地に引きこもってしまったから、ついついエルミラの方に気持ちが移ってしまっただけだ。
いや、浮気する気など全くなかったのに、エルミラが誘惑してきたから…。
そう、エルミラと結婚したのだって、彼女が子供ができたなどと嘘をついて騙したためだ。
「ディアナ…、君は聖女様だったのか…」
広場に向かう荷車の上でさえ、窶れてはいても凛としたディアナの姿は美しかった。
今光を浴びた彼女は、神々しいほどに美しい。
「ディアナ…、君が魔女ではなく聖女なら、もう一度やり直せるだろうか…」
そう言いながらふらふらと処刑台の方に近づいて行った時、あの男が現れた。
ガリウム公国で英雄と呼ばれる男。その男が一瞬でイグナシオの目の前からディアナを連れ去ったのだ。
◇◇◇
その頃ローレンシウム子爵夫人は、嫡男アーサーと王都のタウンハウスにいた。
今日は『魔女ディアナ』が『大魔女ルナ』として火炙りにされる日だと聞いている。
でもそれについて、夫人は特に何も思わなかった。
と言うより、幾分ほっとさえしている。
夫の話では、ディアナは本当の魔女だという。
アーサーが病気なのも、最近ローレンシウム子爵家の事業がうまく回らないのも、全てディアナのせいだと。
それに夫は、『魔女』を生んだと夫人を責めさえした。
思えば、ディアナは小さい頃から利発すぎて可愛さがなく、夫人はとうとう娘を愛することができなかった。
凛とした美しさも優秀なところも、なさぬ仲だった姑に似ていたからだろうか。
ディアナがローレンシウム家とは関係ない平民として処刑されると聞いて、夫人は安堵していた。
もう誰も、「魔女を生んだ」と言って夫人を批難する者はいないだろうから。
そろそろ処刑も終わって、見物に行った夫たちも帰ってくるだろうか…。
そう夫人が思い始めた頃、俄かにタウンハウスのエントランスの方が騒がしくなった。
「奥様!大変です!」
侍女の1人が部屋に飛び込んで来た。
ノックもせずに慌ただしいことだと叱ろうとした時、次の言葉が耳に飛び込んでくる。
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