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回想、オレリアン
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『旦那様へ』
彼女の手紙の書き出しは、そんな言葉だった。
実際にはそんな風に呼ばれたことはまだない。
何度か言葉を交わした時は、彼女は俺を『侯爵様』と呼んでいた。
薄桃色の便箋は春の訪れを感じさせ、そこに、美しくも柔らかい文字が乗っていた。
『旦那様、お変わりはありませんか?
王都はまだお寒いでしょうか?
ヒース領は日に日に暖かくなり、様々な花が咲き始めています。
色とりどりの花たちは私の目を楽しませてくれ、これからの季節が本当に楽しみです。
いつも書いておりますが、旦那様が私をこちらへ寄越してくださったこと、本当に感謝しております。
ここでは使用人の方たちも領民たちも皆優しく親切で、私は快適に過ごさせていただいております。
これも全て旦那様のお心遣いのおかげだと思います。
領内を歩くと、領民たちの旦那様をお慕いする声がよく聞かれます。
旦那様は忙しくあまり領地に戻られないようですが、善政を敷かれてらっしゃるのですね。
私はそんな旦那様の妻にしていただけたことを、誇りに思っております。
旦那様にいただいたネックレスは普段使うにはもったいなくて大事にしまっております。
こんな、全く妻の務めを果たせない私のためにお気遣いいただき、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
旦那様、騎士のお仕事と侯爵としてのお仕事とで毎日お忙しいとは思いますが、どうぞお体を大切にお過ごしください。
お会い出来る日を、楽しみにしております。
コンスタンス』
「コンスタンス…」
呟くように、その名前を呼んでみる。
会いに来いとも、迎えに来いとも書かれてはいない。
放置している夫を、詰る言葉もない。
それどころか、ヒース領に送ったことを感謝し、自分が快適に過ごせるのは俺が善政を敷いているせいだと言う。
『お会い出来る日を、楽しみにしております』
…本当に…?
本当に、彼女は俺と会いたいと思ってくれているのだろうか。
貴女は本当はどんな方なのだ?
俺は彼女からの手紙を額に押し当て、込み上げてくるものを飲み込んだ。
その後出かけていた義母と侍女が帰宅し、ダレルに問い詰められた侍女が全てを吐いた。
やはり義母の指示で、毎日届く郵便物を確認していたらしい。
その中に、コンスタンスから俺宛の手紙や荷物があったら全て捨ててしまえと。
指示通り手紙類は全て捨ててしまったが、ハンカチと手袋はほとぼりが冷めた頃売って金にしようと思っていたらしい。
手紙は、20通以上はあっただろうと言う。
今となっては、彼女が俺に何を書き送ってくれていたのかさえ知ることが出来ない。
「貴女は何度私を欺けば気が済むのか」
激怒する俺に、義母は全て侍女のせいにして逃れようとした。
侍女が主人を思うあまり、主人の為になると勘違いしてそんなことを仕出かしたのだと。
もちろんそんな言い訳が通用するはずもなく、俺は、今度こそ義母に侍女を連れてすぐこの邸から出て行くよう告げた。
それでも認めない義母は、声を荒げて反論した。
「私がそんなことするはずないでしょう?
私が一番あなたのことを想っているって、知っているでしょう?オレリアン」
媚びるようにすり寄ってくる義母に、吐き気がする。
「今は私がヒース侯爵家の当主であり、この家の主人です。
私は近いうちに女主人コンスタンスを迎えにヒース領に行く。
私たちが戻って来る前に、あなたはここを出て行ってください」
振り払って背を向けた俺に、義母はヒステリックに声を上げていた。
「ここは私の家よ!
私がここの女主人なのよ!
絶対に出て行かないわ!」
義母の叫びを無視し、俺はマテオたちに指示を与えた。
侍女をはじめ、義母の息がかかっていると思われる使用人は全てクビにすること。
俺がヒース領に向かう間マテオが王都の邸宅に残り、俺たち夫婦が王都に戻るまでに義母を出て行かせること。
そしてダレルには、配下に指示して義母を絶えず監視させること。
そうして3日後、俺はダレルとセイを伴い、ヒース領に向けて経った。
コンスタンスと結婚式を挙げてから、実に11ヶ月の月日が流れていた。
彼女の手紙の書き出しは、そんな言葉だった。
実際にはそんな風に呼ばれたことはまだない。
何度か言葉を交わした時は、彼女は俺を『侯爵様』と呼んでいた。
薄桃色の便箋は春の訪れを感じさせ、そこに、美しくも柔らかい文字が乗っていた。
『旦那様、お変わりはありませんか?
王都はまだお寒いでしょうか?
ヒース領は日に日に暖かくなり、様々な花が咲き始めています。
色とりどりの花たちは私の目を楽しませてくれ、これからの季節が本当に楽しみです。
いつも書いておりますが、旦那様が私をこちらへ寄越してくださったこと、本当に感謝しております。
ここでは使用人の方たちも領民たちも皆優しく親切で、私は快適に過ごさせていただいております。
これも全て旦那様のお心遣いのおかげだと思います。
領内を歩くと、領民たちの旦那様をお慕いする声がよく聞かれます。
旦那様は忙しくあまり領地に戻られないようですが、善政を敷かれてらっしゃるのですね。
私はそんな旦那様の妻にしていただけたことを、誇りに思っております。
旦那様にいただいたネックレスは普段使うにはもったいなくて大事にしまっております。
こんな、全く妻の務めを果たせない私のためにお気遣いいただき、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
旦那様、騎士のお仕事と侯爵としてのお仕事とで毎日お忙しいとは思いますが、どうぞお体を大切にお過ごしください。
お会い出来る日を、楽しみにしております。
コンスタンス』
「コンスタンス…」
呟くように、その名前を呼んでみる。
会いに来いとも、迎えに来いとも書かれてはいない。
放置している夫を、詰る言葉もない。
それどころか、ヒース領に送ったことを感謝し、自分が快適に過ごせるのは俺が善政を敷いているせいだと言う。
『お会い出来る日を、楽しみにしております』
…本当に…?
本当に、彼女は俺と会いたいと思ってくれているのだろうか。
貴女は本当はどんな方なのだ?
俺は彼女からの手紙を額に押し当て、込み上げてくるものを飲み込んだ。
その後出かけていた義母と侍女が帰宅し、ダレルに問い詰められた侍女が全てを吐いた。
やはり義母の指示で、毎日届く郵便物を確認していたらしい。
その中に、コンスタンスから俺宛の手紙や荷物があったら全て捨ててしまえと。
指示通り手紙類は全て捨ててしまったが、ハンカチと手袋はほとぼりが冷めた頃売って金にしようと思っていたらしい。
手紙は、20通以上はあっただろうと言う。
今となっては、彼女が俺に何を書き送ってくれていたのかさえ知ることが出来ない。
「貴女は何度私を欺けば気が済むのか」
激怒する俺に、義母は全て侍女のせいにして逃れようとした。
侍女が主人を思うあまり、主人の為になると勘違いしてそんなことを仕出かしたのだと。
もちろんそんな言い訳が通用するはずもなく、俺は、今度こそ義母に侍女を連れてすぐこの邸から出て行くよう告げた。
それでも認めない義母は、声を荒げて反論した。
「私がそんなことするはずないでしょう?
私が一番あなたのことを想っているって、知っているでしょう?オレリアン」
媚びるようにすり寄ってくる義母に、吐き気がする。
「今は私がヒース侯爵家の当主であり、この家の主人です。
私は近いうちに女主人コンスタンスを迎えにヒース領に行く。
私たちが戻って来る前に、あなたはここを出て行ってください」
振り払って背を向けた俺に、義母はヒステリックに声を上げていた。
「ここは私の家よ!
私がここの女主人なのよ!
絶対に出て行かないわ!」
義母の叫びを無視し、俺はマテオたちに指示を与えた。
侍女をはじめ、義母の息がかかっていると思われる使用人は全てクビにすること。
俺がヒース領に向かう間マテオが王都の邸宅に残り、俺たち夫婦が王都に戻るまでに義母を出て行かせること。
そしてダレルには、配下に指示して義母を絶えず監視させること。
そうして3日後、俺はダレルとセイを伴い、ヒース領に向けて経った。
コンスタンスと結婚式を挙げてから、実に11ヶ月の月日が流れていた。
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