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第一章
(二)未知の世界
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魔幽大陸。
そこは水瑠地方に隣接した辺境の大陸だ。
黎明時代。世界で初めて観測された白樹化によって、地続きの大地は瘴気で満たされ、閉ざされた。南海は竜の巣と呼ばれる無数の渦潮。北は氷塊の海により渡航は困難。大陸間は絶望的なまでに隔てられ、以降、独自の文化を発展させてきた。
魔導時代の遺物が数多く残る未開の地とされ、冒険者たちの多くは、十年に一度の霧晴とともにこの大陸へ流入し、魔導時代の象徴と名高い魔導遺跡バリアブルを目指す。
十年に一度だけ訪れる、一攫千金の機会。
言ってしまえば、十年に一度しか、魔幽大陸はほかの大陸と行き来ができないことを意味する。
旅人ナギは、ソウたちの転移したその場所が魔導時代の遺跡群のひとつであることを説明した。
地上へ出てみれば、遺跡の構造もそれほど難しいものではなかったことがわかる。もっとも、ナギの案内がなければ迷って、むだに時間と体力を使ってしまっただろう。崩落に巻きこまれる危険や数時間も歩くことなく外に出られたのは、ナギのおかげだ。
外の空気はひやりと湿気ていて、どこを見渡しても夜のように暗かった。それは、見上げるほど高くに枝葉がしげっているせいだ。めいめいの樹々を追うように、多種多様な広葉樹が伸びあがり、さらに蔓性の植物がすがるように這いまわっている。
ナギは言った。
「あと数時間もしないうちに驟雨がきます。すこし急ぎましょう」
川沿いまで数分ほど歩くと、小さな船着場が見えた。そこから旅客船に乗り、約一時間。しばらくゆられていると、宿場町のはずれに到着する。降りてすぐは、足もとが揺れているような気もしたが、それはすぐになくなった。
おもむろに、となりを歩く黒影が顔を上げて空を見つめ、鼻を鳴らした。ソウもまた、同じように空を見上げてみる。土のにおいだろうか。濃く独特な香りがすることに、いまさら気づいた。
ここは、異郷だ。
宿場町は森を開いたような場所につくられていて、建物はどれも木造の高床建築。草葺屋根の長屋がつらなるようにならんでいる。ひとつの建物ごとに、テラスをおおう落下防止柵があり、道にせり出すようにとりつけられた階段や板スロープから登っていくようだ。
こちらです、とナギはひとつの建物を示した。
「冒険者向けの宿なので、お二人にはちょっと居心地が悪いかもしれませんが……」
「宿がないより、ずっといいよ」
ナギのあとを追って竹板のスロープをのぼり、屋根付きの六角形のテラスへ入った。受付を兼ねた宿泊客の共用スペースになっているらしく、むさくるしい男たちが集まっている。
足を踏みいれた瞬間、粗野な視線がこちらを値踏みするように睨めつけてきた。――あいにく、いちいち怯えるような心は持ちあわせていない。泰然と素通りする。
(小柄な人が多いな)
野性的な風貌の彼らは、おそらくほとんどがソウやナギ、黒影よりも背丈が低い。黒影の肩に届く者もほとんどいないだろう。彼らのうち、いくらかは自慢の武器をちらつかせるように武器を揺らし、あるいは、威圧するように床板を叩いてみせた。
狩猟用の弓、鈍器、槍、投擲武器――かたちはさまざまだが、その多くは魔種や動物の素材にあるていどの加工をほどこして作られているようだ。中には、動物の骨でできた無骨な首飾りをさげている者や、大振りの毛皮を着ている者もいる。ひときわ豪華で上質なものを身に着けている男や、装飾を凝らした武器をたずさえている者はそれぞれ、いくつかある集まりの中心的存在らしい。
柱には狩猟したのだろう魔種の頭蓋骨などが飾られ、壁はない。テラスの両翼に伸びる個室には目隠していどの筵が提げられているが、背丈を超える部分は筒抜けだ。
慣れたようにカウンターへ声をかけるナギを横目に、ソウはふとテラスの中央にある立て板へ注目した。張り付けられているのは薄く剥いだ木の皮で、なにか記号のようなものが書かれている。……この地域の言語、だろうか。近づいてざっと見る。なにが書いてあるのかはさっぱりだが、記号の配列や配置などから、そこには一定の規則性があるのはたしかだ。
ふいに、ぬう、と太い腕が視界に伸びた。横を見あげれば、ソウよりも大きな男が、嫌みな笑みをぶら下げて立っている。顔や剥きだしの腹には鮮やかな塗料で模様が描かれ、毛皮の腰巻は留め具に獣の牙を使っている。鮮やかな風切羽の装飾などもふくめて、このテラスにいる男たちのなかではそれなりの権威のある者なのだろう。大男は太い枝のような手で、立て板をゴツゴツと叩いた。
「%&‘#? ♂♀××$?」
褐色の地肌から浮きだつ生々しい粘膜の色が、不可解な音階をなぞるように蠢く。大男の指はソウをさし、それからひどくおかしそうにゲラゲラと笑い声をあげる。つられて、その場ではどっと嘲笑が沸き起こった。――大陸はちがえど、こういった不躾な感情を示す方法は、どこも変わらないらしい。ソウは背筋を伸ばして、小さく息をついた。
いままでにもいくらかこういうことはあった。童顔であり、戦士然とした男らしい容姿をしていないことは、すでに嫌というほど自覚している。くわえて、ソウは金髪だった。
この世界で白は忌み嫌われるいっぽう、白に近い色――すなわち、色素の薄い外見特徴をもつ人間は、軽視される傾向にある。
目の前の大男がなにを言っているかはさっぱりわからないが、おそらくそういったたぐいのことを言っているのだろう。こらえきれないように唇の片方をゆがめる下卑た笑みが、嫌に目についた。
それとなくカウンターに視線を向けると、受付はなにも気にせず、ナギに案内を進めているようすだった。
(ここではあたりまえのことなんだろうな)
ソウはふたたびため息をついた。遊び相手になるつもりもないし、こちらからわざわざ事を荒立てるのも気が引ける。
無視してナギの元へ戻ろうとしたとき。間髪入れずに、派手な羽飾りの腕輪を巻いた太い手が、無遠慮に右肩へ触れてくる。
「!」
刹那にも満たない間。
全身が総毛立つ感覚を覚えたソウは、ざらついた胴間声が近づく前に、肩に触れてきた褐色の手を自分の左手で押さえた。ふりむいて、まるで知人にでも会ったときのように微笑んでみせる。
その、一瞬の隙。
ソウは半身を返す動作にあわせて、相手の視線をさえぎるように自分の右腕を伸ばし、肉太の腕にあてがった。軽い動作で引きたおし、ひと息で固めてしまう。ちからの強弱に頼らない単純な護身術だが、大男にはなにが起きたのかわからなかったらしい。
関節に圧を加えながら、やわらかい声で言葉を返した。
「おどろかせてごめんね?」
もっとも、こちらの言葉が通じるとも思っていない。本当はこういうことをしたくはなかったが、しかたない。こういう手合いは、状況を理解させる前にこちらから仕掛けたほうが効果的だ。
そしてこの判断は正しかった。
がなる大男の戯言は無視し、ソウは場を一瞥した。こちらを見つめる人間のようすは、主に二種類に分かれた。ひとつは、予想外の結果におどろきを隠せずにいる男たち。もう一つは、口笛を鳴らしたり、笑ったりしながら酒を煽る男たち。
この場の中でゆいいつ、立ちあがりながらも、動けずに唖然としている三人が、この大男が率いている者たちだろう。髭の男と、ざんばら髪の男、それに若い青年。
いずれもこの無頼漢と同じような赤と黄色の派手な羽飾りを首もとにぶら下げているが、装飾はやや質素だ。
ソウは、彼らに対して微笑みかけた。
「俺に、なにか用かな?」
さらに圧をかけながらゆっくり訊ねると、大男は汚い叫び声をあげちらした。
「大丈夫だよ。別に折る気もないし、これくらいじゃまだ折れないから。ああごめん、言葉、わからないんだっけ。俺もなんだ。いっしょだね?」
笑みを消さないまま、視線を下げる。
「はじめての土地だから心細くてさ。わかってもらえると嬉しいんだけど……なんて、むずかしいか」
苦笑して、ソウはパッと手を離した。その瞬間、自由になった剛腕が勢いよくとんでくる。ひょいとかわすと、拳は立て板にぶつかった。バキ、という音が板を貫き、支柱は中途半端に折れてしまう。
そこでようやく、カウンターから叱声がとんできた。なんといったかはわからないが、大男は怒鳴りかえし、不服そうに背を向ける。出入口へ向かってズンズン歩きながら、すっかり委縮している仲間に怒声を叩きつけた。そのうちにいる若い青年は、大男が通る瞬間、怯えたように身をすくませた。それを見てさらにいらだったのか、褐色の大男はさらに激しく大声をあげ、蛮刀の柄で突いた。青年はよろめいたが、怒られることをおそれたのか、すぐにその後を追った。
(仲間っていうより、手下だな)
三人の男をつれだって、無頼漢はテラスの出入口へ。ふと足を止めると、半身でふりむいた。ソウを忌々しげに睨みつけ、ざらついたガラガラ声で低く唸るように一言。そのまま土砂降りの雨に消えていった。
「……覚えてろよ、ですって」
ナギがとなりにならんで、心配そうに眉じりをさげる。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。荒事にしちゃって」
謝ると、ナギは首を横に振った。
「ナギのほうこそ助けられなくてごめんなさい。戦うのはできなくて……」
「ううん。下手に割って入って怪我するのも危ないし。からまれたのが、ナギさんじゃなくてよかった」
安堵の笑みを見せると、ナギは弱々しく笑った。
「すこし休んで、それから晩御飯にしましょうか」
気遣うようすを見せながら、両翼に伸びる廊下の左側を示す。ソウはうなずいた。
(そういえば)
ふと、思いだしてテラスを見わたす。――黒影は、どこだろう。
その姿は、はしっこの人けのないところにあり、柱を背にして外を見ている。土砂降りの雨を眺めながら、黒影はひどく退屈そうな顔をしていた。
そこは水瑠地方に隣接した辺境の大陸だ。
黎明時代。世界で初めて観測された白樹化によって、地続きの大地は瘴気で満たされ、閉ざされた。南海は竜の巣と呼ばれる無数の渦潮。北は氷塊の海により渡航は困難。大陸間は絶望的なまでに隔てられ、以降、独自の文化を発展させてきた。
魔導時代の遺物が数多く残る未開の地とされ、冒険者たちの多くは、十年に一度の霧晴とともにこの大陸へ流入し、魔導時代の象徴と名高い魔導遺跡バリアブルを目指す。
十年に一度だけ訪れる、一攫千金の機会。
言ってしまえば、十年に一度しか、魔幽大陸はほかの大陸と行き来ができないことを意味する。
旅人ナギは、ソウたちの転移したその場所が魔導時代の遺跡群のひとつであることを説明した。
地上へ出てみれば、遺跡の構造もそれほど難しいものではなかったことがわかる。もっとも、ナギの案内がなければ迷って、むだに時間と体力を使ってしまっただろう。崩落に巻きこまれる危険や数時間も歩くことなく外に出られたのは、ナギのおかげだ。
外の空気はひやりと湿気ていて、どこを見渡しても夜のように暗かった。それは、見上げるほど高くに枝葉がしげっているせいだ。めいめいの樹々を追うように、多種多様な広葉樹が伸びあがり、さらに蔓性の植物がすがるように這いまわっている。
ナギは言った。
「あと数時間もしないうちに驟雨がきます。すこし急ぎましょう」
川沿いまで数分ほど歩くと、小さな船着場が見えた。そこから旅客船に乗り、約一時間。しばらくゆられていると、宿場町のはずれに到着する。降りてすぐは、足もとが揺れているような気もしたが、それはすぐになくなった。
おもむろに、となりを歩く黒影が顔を上げて空を見つめ、鼻を鳴らした。ソウもまた、同じように空を見上げてみる。土のにおいだろうか。濃く独特な香りがすることに、いまさら気づいた。
ここは、異郷だ。
宿場町は森を開いたような場所につくられていて、建物はどれも木造の高床建築。草葺屋根の長屋がつらなるようにならんでいる。ひとつの建物ごとに、テラスをおおう落下防止柵があり、道にせり出すようにとりつけられた階段や板スロープから登っていくようだ。
こちらです、とナギはひとつの建物を示した。
「冒険者向けの宿なので、お二人にはちょっと居心地が悪いかもしれませんが……」
「宿がないより、ずっといいよ」
ナギのあとを追って竹板のスロープをのぼり、屋根付きの六角形のテラスへ入った。受付を兼ねた宿泊客の共用スペースになっているらしく、むさくるしい男たちが集まっている。
足を踏みいれた瞬間、粗野な視線がこちらを値踏みするように睨めつけてきた。――あいにく、いちいち怯えるような心は持ちあわせていない。泰然と素通りする。
(小柄な人が多いな)
野性的な風貌の彼らは、おそらくほとんどがソウやナギ、黒影よりも背丈が低い。黒影の肩に届く者もほとんどいないだろう。彼らのうち、いくらかは自慢の武器をちらつかせるように武器を揺らし、あるいは、威圧するように床板を叩いてみせた。
狩猟用の弓、鈍器、槍、投擲武器――かたちはさまざまだが、その多くは魔種や動物の素材にあるていどの加工をほどこして作られているようだ。中には、動物の骨でできた無骨な首飾りをさげている者や、大振りの毛皮を着ている者もいる。ひときわ豪華で上質なものを身に着けている男や、装飾を凝らした武器をたずさえている者はそれぞれ、いくつかある集まりの中心的存在らしい。
柱には狩猟したのだろう魔種の頭蓋骨などが飾られ、壁はない。テラスの両翼に伸びる個室には目隠していどの筵が提げられているが、背丈を超える部分は筒抜けだ。
慣れたようにカウンターへ声をかけるナギを横目に、ソウはふとテラスの中央にある立て板へ注目した。張り付けられているのは薄く剥いだ木の皮で、なにか記号のようなものが書かれている。……この地域の言語、だろうか。近づいてざっと見る。なにが書いてあるのかはさっぱりだが、記号の配列や配置などから、そこには一定の規則性があるのはたしかだ。
ふいに、ぬう、と太い腕が視界に伸びた。横を見あげれば、ソウよりも大きな男が、嫌みな笑みをぶら下げて立っている。顔や剥きだしの腹には鮮やかな塗料で模様が描かれ、毛皮の腰巻は留め具に獣の牙を使っている。鮮やかな風切羽の装飾などもふくめて、このテラスにいる男たちのなかではそれなりの権威のある者なのだろう。大男は太い枝のような手で、立て板をゴツゴツと叩いた。
「%&‘#? ♂♀××$?」
褐色の地肌から浮きだつ生々しい粘膜の色が、不可解な音階をなぞるように蠢く。大男の指はソウをさし、それからひどくおかしそうにゲラゲラと笑い声をあげる。つられて、その場ではどっと嘲笑が沸き起こった。――大陸はちがえど、こういった不躾な感情を示す方法は、どこも変わらないらしい。ソウは背筋を伸ばして、小さく息をついた。
いままでにもいくらかこういうことはあった。童顔であり、戦士然とした男らしい容姿をしていないことは、すでに嫌というほど自覚している。くわえて、ソウは金髪だった。
この世界で白は忌み嫌われるいっぽう、白に近い色――すなわち、色素の薄い外見特徴をもつ人間は、軽視される傾向にある。
目の前の大男がなにを言っているかはさっぱりわからないが、おそらくそういったたぐいのことを言っているのだろう。こらえきれないように唇の片方をゆがめる下卑た笑みが、嫌に目についた。
それとなくカウンターに視線を向けると、受付はなにも気にせず、ナギに案内を進めているようすだった。
(ここではあたりまえのことなんだろうな)
ソウはふたたびため息をついた。遊び相手になるつもりもないし、こちらからわざわざ事を荒立てるのも気が引ける。
無視してナギの元へ戻ろうとしたとき。間髪入れずに、派手な羽飾りの腕輪を巻いた太い手が、無遠慮に右肩へ触れてくる。
「!」
刹那にも満たない間。
全身が総毛立つ感覚を覚えたソウは、ざらついた胴間声が近づく前に、肩に触れてきた褐色の手を自分の左手で押さえた。ふりむいて、まるで知人にでも会ったときのように微笑んでみせる。
その、一瞬の隙。
ソウは半身を返す動作にあわせて、相手の視線をさえぎるように自分の右腕を伸ばし、肉太の腕にあてがった。軽い動作で引きたおし、ひと息で固めてしまう。ちからの強弱に頼らない単純な護身術だが、大男にはなにが起きたのかわからなかったらしい。
関節に圧を加えながら、やわらかい声で言葉を返した。
「おどろかせてごめんね?」
もっとも、こちらの言葉が通じるとも思っていない。本当はこういうことをしたくはなかったが、しかたない。こういう手合いは、状況を理解させる前にこちらから仕掛けたほうが効果的だ。
そしてこの判断は正しかった。
がなる大男の戯言は無視し、ソウは場を一瞥した。こちらを見つめる人間のようすは、主に二種類に分かれた。ひとつは、予想外の結果におどろきを隠せずにいる男たち。もう一つは、口笛を鳴らしたり、笑ったりしながら酒を煽る男たち。
この場の中でゆいいつ、立ちあがりながらも、動けずに唖然としている三人が、この大男が率いている者たちだろう。髭の男と、ざんばら髪の男、それに若い青年。
いずれもこの無頼漢と同じような赤と黄色の派手な羽飾りを首もとにぶら下げているが、装飾はやや質素だ。
ソウは、彼らに対して微笑みかけた。
「俺に、なにか用かな?」
さらに圧をかけながらゆっくり訊ねると、大男は汚い叫び声をあげちらした。
「大丈夫だよ。別に折る気もないし、これくらいじゃまだ折れないから。ああごめん、言葉、わからないんだっけ。俺もなんだ。いっしょだね?」
笑みを消さないまま、視線を下げる。
「はじめての土地だから心細くてさ。わかってもらえると嬉しいんだけど……なんて、むずかしいか」
苦笑して、ソウはパッと手を離した。その瞬間、自由になった剛腕が勢いよくとんでくる。ひょいとかわすと、拳は立て板にぶつかった。バキ、という音が板を貫き、支柱は中途半端に折れてしまう。
そこでようやく、カウンターから叱声がとんできた。なんといったかはわからないが、大男は怒鳴りかえし、不服そうに背を向ける。出入口へ向かってズンズン歩きながら、すっかり委縮している仲間に怒声を叩きつけた。そのうちにいる若い青年は、大男が通る瞬間、怯えたように身をすくませた。それを見てさらにいらだったのか、褐色の大男はさらに激しく大声をあげ、蛮刀の柄で突いた。青年はよろめいたが、怒られることをおそれたのか、すぐにその後を追った。
(仲間っていうより、手下だな)
三人の男をつれだって、無頼漢はテラスの出入口へ。ふと足を止めると、半身でふりむいた。ソウを忌々しげに睨みつけ、ざらついたガラガラ声で低く唸るように一言。そのまま土砂降りの雨に消えていった。
「……覚えてろよ、ですって」
ナギがとなりにならんで、心配そうに眉じりをさげる。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。荒事にしちゃって」
謝ると、ナギは首を横に振った。
「ナギのほうこそ助けられなくてごめんなさい。戦うのはできなくて……」
「ううん。下手に割って入って怪我するのも危ないし。からまれたのが、ナギさんじゃなくてよかった」
安堵の笑みを見せると、ナギは弱々しく笑った。
「すこし休んで、それから晩御飯にしましょうか」
気遣うようすを見せながら、両翼に伸びる廊下の左側を示す。ソウはうなずいた。
(そういえば)
ふと、思いだしてテラスを見わたす。――黒影は、どこだろう。
その姿は、はしっこの人けのないところにあり、柱を背にして外を見ている。土砂降りの雨を眺めながら、黒影はひどく退屈そうな顔をしていた。
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