風呂上がりの姫君

佐々木猫八

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高位貴族の底力?

朝食を食べ終わったあと、侯爵様は忙しいのか名残惜しいと俺の両手を取って口付けて立ち去っていった。
きっとこれが出来る貴族の離れる時の挨拶なのだろう。
ルーはされた時は自分は何をされてるか分かって無くて、きょとんとしたけれど、そういう事なのだと結論づけて理解した。
侯爵邸では貴族の生活というものが分かり、いかに自分が今まで子爵邸でしてきたことが只の雑用で、父だという子爵様の役に立っていなかったのだと実感していった。

相手にされてなかったのも無理はない。

貴族としての資質に欠ける、だから自分は子爵邸では使用人なのだと、それ以外に価値が無いのだという扱いを受けたのだと思った。
今回のこの大役に抜擢され、こんなに豪勢な生活を送れる3ヶ月という期間は侯爵様のご厚意であり、この公爵邸で一般常識を学び、アマリア様の好みなどを伝えたら、自分は子爵邸には戻らずに平民として生きていけという、そういう意味があるのだとルーは解釈した。
子爵様もそれであの金貨10枚もの大金を入れていたのだと。
この度の仕事は、ルーを体よく放り出すためにもしかしたら双方申し合わせたものなのでは?

ルーは連日の非日常の日々に段々と複雑に事柄を考え始めていた。

「ルー様、紅茶のおかわりは如何ですか?」
「ぅへい!あ、紅茶、紅茶は・・・頂けますか?」

色々考えすぎて憶測ばかりしてしまい、ルーは少しゆっくりしたくなった。
考えても仕方ない、ルーは侯爵様のくれた猶予期間の3ヶ月で立派な一般市民になるべく頑張ろう、と思った。
ミドルさんの入れてくれた紅茶にレモンを入れてもらい、ルーは口の仲をさっぱりとさせて気合を入れ直した。

「ミドルさん、お屋敷の案内をお願いしたいのですが・・・、特に俺が入ってはいけない場所とかしっかり教えて貰いたいのですが」

執事のミドルは柔らかく微笑む。

「ルー様が入っていけない場所は特に聞いておりません。この屋敷内全て自由に行来して頂いてよろしかと。手始めに折角庭に出ておられますから、当屋敷自慢の庭をご堪能されるのは如何でしょう?」
「そうなんですか、ではそのお手数ですが庭から案内をお願いします」
「かしこまりました」

紅茶を飲み干して、ルーは席を立とうするとすかさずミドルさんが席を引いて立つのをサポートしてくれた。
こういう気遣いが出来るからこそ、ミドルさんが執事として侯爵邸で働いていける要因の一なんだなと思った。
ミドルさん格好良いな、こんな立派な大人になれるように俺も学んで、どこかの屋敷に勤められたらいいな、とルーは自分が黒い執事服に身を包んだ己の姿を想像して、結構似合っているかもと口元がニヤけてしまった。
もし執事になれるのなら、ミドルさんをお手本に学ぶ良い機会だ。
後で執事の仕事がどんなものなのか、ミドルさんに聞いてみよう。

「綺麗な庭園ですね。この大きさの薔薇とか、あっちのオレンジ・ピンクの薔薇も珍しいですね!子爵邸にはありませんでしたよ」

庭師の手伝いしていたので、少しばかり花の知識のあったるルーでも見たことのない大輪の薔薇に驚く。
薔薇は根付かせるのが難しく、しかもここまでの大輪ともなると庭師の腕が試される。
この薔薇は日々丹念に心を込めて世話をされているのがよく分かった。
そしてオレンジ・ピンクの薔薇、子爵邸の庭師の人が欲しがっていた色だ。
新色でアマリア様が植えて欲しいと子爵様にお願いしていたと庭師は言っていたが、販売株数が少なくてどんなに伝手を頼っても手に入れられなかったことで、アマリア様の機嫌が急降下したと聞いている。

ガイランド子爵様の財政事情は詳しくないが、他の領地よりも豊かだと聞いている。
お金で買えるものは直ぐにでも手配できる財力もあるし、頻繁にガーデンパーティーを開いたりしていた。

だけど、はちみつ、レモン、薔薇等々・・・

コーポルーディア侯爵領のことは詳しくないけれど、たった2日でお金だけでは手に入らないものに出会った。
ルーはそこに高位貴族の底知れぬ力を垣間見たような気がしたのだった。
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