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第2章 学院都市と黒龍の姫君
第44話 黒龍の息吹
しおりを挟む「よいしょっと」
ティナは立ち上がり、自分の体に治癒魔法をかけて、傷を癒していく。
「とっても力強い一撃だね。びっくりだよ。でも」
ティナは喜色満面。
山奥の故郷で平和に暮らし、非力だったティナは、全力で相手と何かをぶつけ合えることがこんなに楽しいことだとは知りもしなかった。
「僕も負けないよ」
ティナの黄金の帝眼は輝きを増し、雷光を帯び、その姿まるで雷神の化身だ。
この状況を楽しみつつも、力を得ることは恐ろしいことだともティナは、感じている。温厚なティナですらここまで興奮させてしまうのだから。
「私を満足させてみせなさい。まあ、不可能でしょうけど」
リントも再び、砲槍カズィクールを構える。
そしてティナが再び走り出すと同時に、魔力での推進力を利用して射角を調整しながら、砲撃を連発する。
(さっきよりも格段に速くなっている)
リントはその並外れた動体視力で、ティナの姿を追う。
ティナはさらに増幅させた莫大な魔力に身を任せて、スピードアップしている。砲弾がかすりもしない。闘技場の損害が増えていくばかりだ。
(なら、拡散砲で逃げ場を無くす)
リントは魔法陣を回転させて、拡散型魔力砲弾に切り替え、発射する。威力が低減するが、範囲に勝る。撃ちだされた魔力の砲弾は発射とともに、爆発分裂し、破片となって四方八方に飛ぶ。その不規則な拡散と数は、ティナの速度をもってしても避けきれない。
(当たった。防御にはあまり魔力を避けていないはず、威力は低くなっても、これで十分!)
拡散砲になって威力は低くなったといえども、その火力は並みの生徒では耐えられないほどに強力だ。ディエルナ守備隊のような歩兵部隊なら、一撃で粉砕できるだろう。
ティナは莫大な魔力の大半を自らの推進力として使っていた。本来なら、帝国宝珠から生み出される途方もない魔力を、より多く防御面に振り分けられるはずだが、ティナはまだ鍛錬の途中で、魔力の使い方が効率的ではない。
(ダメだ。逃げ場がない)
狭い闘技場内で、ティナは拡散砲をよけきれず、体中を切り裂かれていた。
(回復しなきゃ)
ティナは、完全回避は不可能と判断し、速度を緩め、魔力の多くを治癒
魔法に使用し、ダメージを受けると同時に瞬時に回復した。これならば、多少のダメージを覚悟すれば、前進して、リントに近づける。
(治癒魔法をあんなに高速で使うなんて、人間技じゃない)
治癒魔法とは本来、自ら戦いながら使用するものではない。戦闘終了後に、傷を癒すために使うか、戦闘中でも、専門の治癒魔導士が、味方にかけていくというのが基本だ。
それを自分で、攻撃を受けるたびに使うなど尋常ではない。
これも、帝国宝珠の持つ、莫大な魔力生成機能と卓越した魔法制御能力による。元来、帝国宝珠は皇帝が使用する複数の帝国宝器(レガリア)を同調させるためものだから、この手の制御は得意分野である。
無論、それを呼吸するように使いこなすティナの潜在能力は、やはり、かの建国帝ロムルス・レクスの後継者というにふさわしく、天才的といっていい。
(一撃で仕留めないと負ける)
リントは、拡散砲を使用することの無意味さを悟った。かといって、通常砲弾に切り替えれば、今度は、よけられてしまう。
(誘いこんで、一撃で葬り去る)
強力な一撃を打ち込むには相手から来てもらうのが一番だ。絶対に、自分の意図をティナに勘づかれないように、リントは攻撃の手を緩め、自分の懐にティナを飛び込ませるために、あえて隙を作る。
常人ならば、まず気づかないであろう、わずかな隙。ティナも戦闘経験豊富とは言えないが、リントはティナの天才的な戦闘センスを信じ、ティナがその一手を見つけ出すことに賭けた。
リントの場合、神器のおかげで、人よりもかなり多くの魔力を使用することが可能だが、ティナの底なしの魔力量には到底及ばず、間髪入れない攻撃も相まって、もうあまり持ちそうにない。リントはこの手に賭けるしかない。
(隙ができた。疲れてきたのかな? でも、なんだろう違和感がある)
ティナは、すぐにリントが意図的に作り出した隙に気がついた。
そしてそのたぐいまれなる戦闘本能で、その隙から何かわからないが、危険を感じ取った。絶好のチャンスだが、ドラゴンが待ち構える洞窟に踏み入るような、そんな感覚を覚える。
(けど、このまま戦っていてもきりがない。ここは勇気を振り絞っていくしかない)
実際のところ、無尽蔵の魔力を持つティナとて、限界が近づいていた。魔力はあっても体力と集中力の方が、擦り減り持ちそうにない。
一瞬の判断が、勝敗を分けるこの戦いにあっては、次の一撃で勝敗が決まると直感する。
そしてティナは決断した。
「盗賊の心得……」
ティナは足を踏み込む。
「かかった。いや……」
リントは自分の張った罠にティナがかかったことを喜んだが、すぐにティナの目を見て、すべてをわかっていて勝負を仕掛けてきたことを見抜いた。
「最後は度胸だ!」
拡散砲の嵐の中に、一筋の道を見出し、それに突っ込む。たとえ罠であっても、龍の巣穴に入らなければ、財宝を得ることはできない。最期は真正面からぶつかり合うしかない。
「なら、私の全力で、あなたの全力に応える」
リントはむしろ喜んだ。ようやく自分の全力をぶつけられる相手に出会えたのだと。学院に入ってから抑圧されていた全身全霊をティナにぶつける。
ティナが、リントに肉薄する刹那、砲槍カズィクールの砲口に多重魔法陣が展開され、リントの全魔力が充填される。
「龍の息吹を受けなさい!」
魔力を束ねた熱線が砲口から放たれ、ティナに向かって真っすぐに飛んでいく。
「ぐぬぬぬ!」
雷光を帯びたティナは、剣身に雷光を纏わせ、カズィクールの熱線を斬り進む。
「絶対に負けない。負けたくない」
吐き出され続ける熱線の剣で受け、その場で立っていることも精いっぱいだったが、一歩ずつリントに近づいていく。
リントの魔力はもう限界だったが、それでも、全力の熱線を打ち続ける。
「なっ、カズィクールが!」
が、リントの魔力が切れるよりも前に、熱線が途切れ、真っ赤に赤熱した砲槍カズィクールはもうもうと蒸気を吐いた。あろうことか神器がその負荷に耐え切れずにオーバーヒートしてしまったのだ。また攻撃の余波からリントを守っていた龍盾ジギスムントも、魔力切れで、その機能を停止させ、リントの手から離れてしまう。
「僕の勝……」
ティナは剣を手に、リントに突っ込むが、あと一歩のところで、剣が悲鳴を上げる。
この剣は、ファビウスが鍛え上げた逸品で、神器にも負けない頑丈さだった。その剣をティナはさらに魔力で分厚くコーティングしていたが、神器とのぶつかり合いとティナからの魔力供給に、耐えきれなくなり、ついには粉々に砕け散った。
「勝負は引きわ……」
「待って!」
戦闘続行不可能により、イオンが終了を宣言しようとしたが、ルチアがそれを止める。さらには両手を広げて、ティナを助けに向かおうとするフローラとアウローラを止める。
「まだ勝負は終わっていない」
ルチアはじっと二人を見つめる。
すでに武器もなく、魔力もない。満身創痍で立っているのもやっとの状態だ。だが、二人とも明滅する帝眼と龍眼で、お互いに見つめあっている。どちらが先に地面に膝をつくか。それが二人の間での勝敗の分け方となった。もはや意地の張り合いといっていい。
「あなたも大概、強情ね。もっとひ弱かと思っていたけれど」
リントが笑う。
「こんなに楽しいんだもん。最後に負けるなんて絶対に嫌だ」
ティナもそう言って笑った。
が、次の瞬間には、どちらもほとんど同時に、意識を失いどうとその場に倒れた。
この壮絶な戦いは、両者引き分けということで、決着した。
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