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第2章 学院都市と黒龍の姫君
第55話 異形の魔物
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「な、なんだ」
突然の事態に、ゴールド級の冒険者たちの怒りが、不安と当惑に、変わる。彼らは地震など経験がない。
「この揺れ、なんか既視感がある……」
ルチアは、超巨大魔導艦クラッシス・アウレアにいたころ、同じように大地が大きく揺れた後、ろくでもない事態に遭遇したことを、思い出した。
「なにか、来るよ。それも大勢」
ティナは、黄金の瞳を輝かせて、遺跡の方を凝視する。帝眼と呼ばれるその真実を見抜く目は、ぼんやりと恐ろしい何かが群れを成して地下に広がる遺跡からせりあがってくるのが見えた。
「あれは人?」
リントの目にもようやく遺跡から出てきた人影が見えた。
ボロボロになった何人かの冒険者で武器も持たずに、必死にこちらに走ってきている。
「違うよ。あの人たちじゃない」
どうやらティナが帝眼で見た謎の群体とは違うらしい。
遺跡から逃げてきた冒険者の一人が、ティナたちのいるテントに転がり込んできた。
「た、助けてくれ……」
恐慌状態の冒険者の男は、そのまま地面に倒れうずくまる。
「お、おい。どうした、何があったってんだ」
バルガスが、おびえる冒険者の肩に手を置き、尋ねる。
「あ、あなたはさっきバルガスさんと酒場で揉めていた」
ミリナは冒険者の顔を見て気づく。しかし、バルガスと喧嘩していた時とは違い顔面蒼白で、体は震えている。
「だ、誰でもいいだろう。とにかくここから俺を逃がしてくれ。お前らも早く逃げたほうがいい」
男は必死に訴える。
「大丈夫、落ち着いて、僕たちがいるから。順番に説明して」
ティナは逃げてきた冒険者の男に治癒の魔法をかけて傷を癒す。
「酒場を出た後、俺らも遺跡に行ったんだ。そしたら突然、奴らが出てきて」
「やつら?」
「ああ、見たこともねえ魔物だ。でかくて、この世のものとは思えない姿をしていた。俺たちじゃとてもじゃないが、相手にならなかった。周りの冒険者もみんな、やられちまって、それで必死に逃げて、そこから先はもう……お前らも早く逃げろ……」
逃げてきた冒険者の男は思い出したくもない様子だ。
「どういうこと? アクレアの遺跡には大した魔物なんていなかったはずじゃないの?」
ルチアは疑問に思う。
この逃げてきた冒険者の男は、冒険者としては三流だ。それでもアクレアの遺跡にいる弱小の魔物にやられるほど弱くもないだろう。ましてや死に物狂いで逃げてくるなどありえない。さらには、この男のほかにも多くの冒険者が尻尾を巻いて逃げてきている。
「ああ、確かにアクレアの遺跡にはゴブリン程度しかいないはずだ。しかも、ひどく臆病な」
バルガスが言う。
「ううん、この人の言っていることは嘘じゃないよ。遺跡の地下から何か不気味な魔力を持った魔物の群
れがこっちに向かっている」
ティナの目にはより精細に怪しげな何かが映り始めていた。
「もしかすると強力な変異個体が現れたのかもしれません。念のために遺跡への入場を停止して、捜索隊を派遣しましょう」
ミリナが提案するとゴールド級の冒険者たちは再び怒りをあらわにする。
「ふざけんじゃねえ。たかが雑魚冒険者のせいで、なぜ俺たちまで入れなくなるんだ。大方、オーガかトロールにでもあったんだろうよ。そんなもん俺らが蹴散らしてやるよ」
ゴールド級の冒険者たちはそういうと勝手に遺跡の方に向かってしまう。
「ちょっと、あなたたち勝手に……」
ミリナが呼び止めたその時だった。
「ぐわあああ!」
一本の鋭い骨のようなものが飛来し、ゴールド級の冒険者の肩を砕き貫いた。地面に鮮血が飛び散る。
「グオオオオオオオオ」
奇怪な絶叫を上げながら、全身に血を滴らせた魔物が遺跡から這い出して来る。
「なんなのあれ……」
ルチアの顔をから血の気が引く。
「あれは魔物……なの?」
知識としてしか魔物を知らず、実際に本物を見たことがないリントでもわかった。
「魔物じゃない。魔物でもあんな、ひどく悲しいオーラは纏わないよ。」
ティナも恐怖する。その黄金の瞳には、魔力の流れが見える。今まで様々なものの魔力の流れを見てきたティナだが、どんなものにも分類できない。
見たこともない異形。
その大きさは成人男性の二倍ほどで、一応人型ではある。異常なほど肥大した筋肉が皮を破り、歪曲した骨が、肉を突き破ってところどころから露出している。とても真っ当生命ではない、いうなれば暴力の化身。
突き出た骨の一本が折れていることからゴールド級の冒険者を骨で貫いたのは、あの異形の魔物だとわかる。
「いでえ、いでえよ」
尊大な冒険者が、周りを気にする余裕もなく子供のように泣き叫ぶ。
「くそ、よくも!」
仲間の冒険者たちが、復讐せんと武器を手に、異形の魔物に立ち向かう。
異形の魔物は以外にも反応が鈍く、冒険者たちの刃は異形の魔物の体を切り裂いた。
「よし!」
しかし、喜んだのも、つかの間、遺跡の中からほかの異形の魔物たちが飛び出してきた。
「うわああ」
獣のごとく四つん這いで駆けてきた人型の異形は、冒険者たちの手足を食いちぎり、一撃で戦闘不能に追い込む。
「ルチア! リント!」
負傷した冒険者の治療していたティナが叫ぶ。
「私に任せなさい! 木っ端みじんにしてあげる」
リントはティナに呼応し、背負っていた鉄箱二つを地面に降ろし、魔法陣を展開する。鉄箱はたちまち姿を変え、一つは、巨大な砲身にも似た漆黒の槍に、もう一つは、城壁のごとき漆黒の巨盾へと姿を変える。
しかし、リントの重い神器は展開に時間がかかり、その間に異形の魔物たちが迫ってくる。このままでは攻撃が間に合わない。
「ようやく私の出番みたいね」
学生服ではなく、お気に入りの身軽な盗賊服を着たルチアが、二丁の拳銃を腰のホルスターから素早く取り出す。
二丁の拳銃は、どちらも似たような形状で、パーカッションロック式の銃に似ている。似ているのは見た目だけで、当然、仕組みは全く異なる。まず、弾丸を使わない。代わりに込めるのは、魔力だ。魔力を込めてそれを凝縮させ、弾丸として打ち出す。
この拳銃は、ファビウスがルチアにせがまれて作った代物で、重火器や古代帝国後の新技術で作られた魔道具に疎いファビウスが試行錯誤の末、ようやく完成させた。
持ち手は、木製で丁寧に研磨され美しい木目を映し出している。さらには、最後の軍団らしく豪勢な金の装飾が拳銃を彩る。ティナの友人という権力を存分に利用した無駄に豪華な逸品だが、その性能も格別で、この時代のものより精度、威力共に勝っている。
「早撃ち勝負は私の勝ち!」
ルチアの拳銃は神器ではないが、小型軽量のため取り回しがしやすい。魔力を充填するとすぐさま、引き金を引き発砲する。
滑りだした魔力の弾丸は、二体の異形の魔物を正確にとらえて、その足を撃ち抜く。
異形の魔物は足の動きを封じられ、勢いそのままに地面に向かってつんのめる。
「いっちょあがり」
とルチアは銃口から立ち上る煙を吹く。
「……って、まだ動けるの!」
しかし、威力不足のためか異形の魔物の自由を完全奪い去ることはできず、異形の魔物たちはすぐに立ち上がり、ゾンビのように足を引きずりながら迫る。
「詰めが甘いのよ」
リントの神器、砲槍カズィクールが火を噴く。
腹の底に響く重低音を鳴らし、爆炎とともに砲口から吐き出された巨大な魔力砲弾は、ルチアの真横を通り過ぎ、異形の魔物に着弾。爆風とともに異形の魔物を跡形もなく消し去った。
「わああああ!」
その余波に巻き込まれて軽いルチアも後方に吹き飛ばされる。
地面に折れ曲がるように転がったルチアを見てリントはフフンと笑う。
「火力勝負は私の勝ちみたいね」
「私まで殺す気!?」
「死んでないじゃない。むしろ私のおかげで助かったんだから感謝なさい」
「私じゃなかったら死んでたよ。それに助けてやったのは私でしょ! このビックリ大砲バカ!」
「ビ……なんですって! このまな板盗賊娘!」
「おい、まだ来るぞ!」
低次元な罵りあいで周囲が見えてないリントとルチアにバルガスが叫ぶ。
遺跡の方からもう一匹、異形の魔物が全速力でやってくる。
最初の魔物が、骨を使った遠距離射撃タイプ、次にやってきたのが、近距離特化の獣タイプとすれば、今度のは、翼をはやしたスピード特化の飛行型だ。
飛行型は、ルチアとリントを無視して、その真上を飛び去り、一直線に、けが人たちを治療するティナの方に向かって、飛んでいく。
「「ティナ!」」
とほとんど同時にルチアとリントが叫んだ時、ティナはまだ治療の最中だった。
「よし、これでもう大丈夫だよ。ちょっと借りるね」
ティナは胸に手を当て、けが人に言葉をかけると、けが人が腰に帯びた短刀を引き抜く。
しゃがん態勢なら、その方が、自分の長剣を引き抜くよりも早く、敵に対処できる。
そして目にもとまらぬ速さで、魔法陣を高速展開すると電光を纏う。
飛行型の異形は、ティナの首を撥ね飛ばそうとその鋭く長い爪を前に突き出して飛んでくる。
ティナの黄金の瞳は、異形の姿を捕え、光る。
そのまま、体を回転させながら、ティナは宙を舞う。異形の爪をひらりとかわしつつ、魔力をこめた短刀で飛行型の異形を斬る。
体が真っ二つになった異形は、どろどろの血を飛散させながら、推進力を失って、地面に墜落する。
「ふう、これで終わり」
頭からかぶった血をぬぐい、すがすがしい表情をするティナにルチアは感慨深いものを感じる。
「つくづくティナは成長したわね。最初は遺跡に転がった魔物の死体を見るだけで吐き出していたのに」
「ふふ、慣れだよ、慣れ。魔物とはいえ命を奪うのは好きじゃないけどね。でも、この魔物はこうでもしなきゃ助けられなかった」
ティナは異形の魔物の死骸の中から出てきた一本の鍵のようなものを拾い握りしめる。真実を見抜く帝眼は、普通の魔物をおどろおどろしい異形に変容させてしまった異物が、魔物の中にあることを見ていた。
「どうやら、また厄介な連中が絡んでいるみたいね」
ルチアはティナの拾った鍵を見て、これが人為的におこなわれていること、そしてまだ続くことを理解する。
「うう、ひどい臭い、うう」
「あ、そっか、リントはこれが初めて……」
顔面蒼白になったリントを見てルチアは、リントがまだ実戦には不慣れなことに、気がつく。
いくら戦闘的なドラドニア王国の王家で、厳しく訓練され学院最強の名をほしいままにしてきたとはいえ、リントはまだ少女だ。グロテスクな魔物の死体というあまりに衝撃的な光景は気丈なリントでも耐え難い。気分を悪くするには十分すぎる。
「だ、大丈夫? 今、楽にするから」
「うう、もうダメ、うぷ」
ティナが治癒の魔法をかけるも、一歩遅かった。
突然の事態に、ゴールド級の冒険者たちの怒りが、不安と当惑に、変わる。彼らは地震など経験がない。
「この揺れ、なんか既視感がある……」
ルチアは、超巨大魔導艦クラッシス・アウレアにいたころ、同じように大地が大きく揺れた後、ろくでもない事態に遭遇したことを、思い出した。
「なにか、来るよ。それも大勢」
ティナは、黄金の瞳を輝かせて、遺跡の方を凝視する。帝眼と呼ばれるその真実を見抜く目は、ぼんやりと恐ろしい何かが群れを成して地下に広がる遺跡からせりあがってくるのが見えた。
「あれは人?」
リントの目にもようやく遺跡から出てきた人影が見えた。
ボロボロになった何人かの冒険者で武器も持たずに、必死にこちらに走ってきている。
「違うよ。あの人たちじゃない」
どうやらティナが帝眼で見た謎の群体とは違うらしい。
遺跡から逃げてきた冒険者の一人が、ティナたちのいるテントに転がり込んできた。
「た、助けてくれ……」
恐慌状態の冒険者の男は、そのまま地面に倒れうずくまる。
「お、おい。どうした、何があったってんだ」
バルガスが、おびえる冒険者の肩に手を置き、尋ねる。
「あ、あなたはさっきバルガスさんと酒場で揉めていた」
ミリナは冒険者の顔を見て気づく。しかし、バルガスと喧嘩していた時とは違い顔面蒼白で、体は震えている。
「だ、誰でもいいだろう。とにかくここから俺を逃がしてくれ。お前らも早く逃げたほうがいい」
男は必死に訴える。
「大丈夫、落ち着いて、僕たちがいるから。順番に説明して」
ティナは逃げてきた冒険者の男に治癒の魔法をかけて傷を癒す。
「酒場を出た後、俺らも遺跡に行ったんだ。そしたら突然、奴らが出てきて」
「やつら?」
「ああ、見たこともねえ魔物だ。でかくて、この世のものとは思えない姿をしていた。俺たちじゃとてもじゃないが、相手にならなかった。周りの冒険者もみんな、やられちまって、それで必死に逃げて、そこから先はもう……お前らも早く逃げろ……」
逃げてきた冒険者の男は思い出したくもない様子だ。
「どういうこと? アクレアの遺跡には大した魔物なんていなかったはずじゃないの?」
ルチアは疑問に思う。
この逃げてきた冒険者の男は、冒険者としては三流だ。それでもアクレアの遺跡にいる弱小の魔物にやられるほど弱くもないだろう。ましてや死に物狂いで逃げてくるなどありえない。さらには、この男のほかにも多くの冒険者が尻尾を巻いて逃げてきている。
「ああ、確かにアクレアの遺跡にはゴブリン程度しかいないはずだ。しかも、ひどく臆病な」
バルガスが言う。
「ううん、この人の言っていることは嘘じゃないよ。遺跡の地下から何か不気味な魔力を持った魔物の群
れがこっちに向かっている」
ティナの目にはより精細に怪しげな何かが映り始めていた。
「もしかすると強力な変異個体が現れたのかもしれません。念のために遺跡への入場を停止して、捜索隊を派遣しましょう」
ミリナが提案するとゴールド級の冒険者たちは再び怒りをあらわにする。
「ふざけんじゃねえ。たかが雑魚冒険者のせいで、なぜ俺たちまで入れなくなるんだ。大方、オーガかトロールにでもあったんだろうよ。そんなもん俺らが蹴散らしてやるよ」
ゴールド級の冒険者たちはそういうと勝手に遺跡の方に向かってしまう。
「ちょっと、あなたたち勝手に……」
ミリナが呼び止めたその時だった。
「ぐわあああ!」
一本の鋭い骨のようなものが飛来し、ゴールド級の冒険者の肩を砕き貫いた。地面に鮮血が飛び散る。
「グオオオオオオオオ」
奇怪な絶叫を上げながら、全身に血を滴らせた魔物が遺跡から這い出して来る。
「なんなのあれ……」
ルチアの顔をから血の気が引く。
「あれは魔物……なの?」
知識としてしか魔物を知らず、実際に本物を見たことがないリントでもわかった。
「魔物じゃない。魔物でもあんな、ひどく悲しいオーラは纏わないよ。」
ティナも恐怖する。その黄金の瞳には、魔力の流れが見える。今まで様々なものの魔力の流れを見てきたティナだが、どんなものにも分類できない。
見たこともない異形。
その大きさは成人男性の二倍ほどで、一応人型ではある。異常なほど肥大した筋肉が皮を破り、歪曲した骨が、肉を突き破ってところどころから露出している。とても真っ当生命ではない、いうなれば暴力の化身。
突き出た骨の一本が折れていることからゴールド級の冒険者を骨で貫いたのは、あの異形の魔物だとわかる。
「いでえ、いでえよ」
尊大な冒険者が、周りを気にする余裕もなく子供のように泣き叫ぶ。
「くそ、よくも!」
仲間の冒険者たちが、復讐せんと武器を手に、異形の魔物に立ち向かう。
異形の魔物は以外にも反応が鈍く、冒険者たちの刃は異形の魔物の体を切り裂いた。
「よし!」
しかし、喜んだのも、つかの間、遺跡の中からほかの異形の魔物たちが飛び出してきた。
「うわああ」
獣のごとく四つん這いで駆けてきた人型の異形は、冒険者たちの手足を食いちぎり、一撃で戦闘不能に追い込む。
「ルチア! リント!」
負傷した冒険者の治療していたティナが叫ぶ。
「私に任せなさい! 木っ端みじんにしてあげる」
リントはティナに呼応し、背負っていた鉄箱二つを地面に降ろし、魔法陣を展開する。鉄箱はたちまち姿を変え、一つは、巨大な砲身にも似た漆黒の槍に、もう一つは、城壁のごとき漆黒の巨盾へと姿を変える。
しかし、リントの重い神器は展開に時間がかかり、その間に異形の魔物たちが迫ってくる。このままでは攻撃が間に合わない。
「ようやく私の出番みたいね」
学生服ではなく、お気に入りの身軽な盗賊服を着たルチアが、二丁の拳銃を腰のホルスターから素早く取り出す。
二丁の拳銃は、どちらも似たような形状で、パーカッションロック式の銃に似ている。似ているのは見た目だけで、当然、仕組みは全く異なる。まず、弾丸を使わない。代わりに込めるのは、魔力だ。魔力を込めてそれを凝縮させ、弾丸として打ち出す。
この拳銃は、ファビウスがルチアにせがまれて作った代物で、重火器や古代帝国後の新技術で作られた魔道具に疎いファビウスが試行錯誤の末、ようやく完成させた。
持ち手は、木製で丁寧に研磨され美しい木目を映し出している。さらには、最後の軍団らしく豪勢な金の装飾が拳銃を彩る。ティナの友人という権力を存分に利用した無駄に豪華な逸品だが、その性能も格別で、この時代のものより精度、威力共に勝っている。
「早撃ち勝負は私の勝ち!」
ルチアの拳銃は神器ではないが、小型軽量のため取り回しがしやすい。魔力を充填するとすぐさま、引き金を引き発砲する。
滑りだした魔力の弾丸は、二体の異形の魔物を正確にとらえて、その足を撃ち抜く。
異形の魔物は足の動きを封じられ、勢いそのままに地面に向かってつんのめる。
「いっちょあがり」
とルチアは銃口から立ち上る煙を吹く。
「……って、まだ動けるの!」
しかし、威力不足のためか異形の魔物の自由を完全奪い去ることはできず、異形の魔物たちはすぐに立ち上がり、ゾンビのように足を引きずりながら迫る。
「詰めが甘いのよ」
リントの神器、砲槍カズィクールが火を噴く。
腹の底に響く重低音を鳴らし、爆炎とともに砲口から吐き出された巨大な魔力砲弾は、ルチアの真横を通り過ぎ、異形の魔物に着弾。爆風とともに異形の魔物を跡形もなく消し去った。
「わああああ!」
その余波に巻き込まれて軽いルチアも後方に吹き飛ばされる。
地面に折れ曲がるように転がったルチアを見てリントはフフンと笑う。
「火力勝負は私の勝ちみたいね」
「私まで殺す気!?」
「死んでないじゃない。むしろ私のおかげで助かったんだから感謝なさい」
「私じゃなかったら死んでたよ。それに助けてやったのは私でしょ! このビックリ大砲バカ!」
「ビ……なんですって! このまな板盗賊娘!」
「おい、まだ来るぞ!」
低次元な罵りあいで周囲が見えてないリントとルチアにバルガスが叫ぶ。
遺跡の方からもう一匹、異形の魔物が全速力でやってくる。
最初の魔物が、骨を使った遠距離射撃タイプ、次にやってきたのが、近距離特化の獣タイプとすれば、今度のは、翼をはやしたスピード特化の飛行型だ。
飛行型は、ルチアとリントを無視して、その真上を飛び去り、一直線に、けが人たちを治療するティナの方に向かって、飛んでいく。
「「ティナ!」」
とほとんど同時にルチアとリントが叫んだ時、ティナはまだ治療の最中だった。
「よし、これでもう大丈夫だよ。ちょっと借りるね」
ティナは胸に手を当て、けが人に言葉をかけると、けが人が腰に帯びた短刀を引き抜く。
しゃがん態勢なら、その方が、自分の長剣を引き抜くよりも早く、敵に対処できる。
そして目にもとまらぬ速さで、魔法陣を高速展開すると電光を纏う。
飛行型の異形は、ティナの首を撥ね飛ばそうとその鋭く長い爪を前に突き出して飛んでくる。
ティナの黄金の瞳は、異形の姿を捕え、光る。
そのまま、体を回転させながら、ティナは宙を舞う。異形の爪をひらりとかわしつつ、魔力をこめた短刀で飛行型の異形を斬る。
体が真っ二つになった異形は、どろどろの血を飛散させながら、推進力を失って、地面に墜落する。
「ふう、これで終わり」
頭からかぶった血をぬぐい、すがすがしい表情をするティナにルチアは感慨深いものを感じる。
「つくづくティナは成長したわね。最初は遺跡に転がった魔物の死体を見るだけで吐き出していたのに」
「ふふ、慣れだよ、慣れ。魔物とはいえ命を奪うのは好きじゃないけどね。でも、この魔物はこうでもしなきゃ助けられなかった」
ティナは異形の魔物の死骸の中から出てきた一本の鍵のようなものを拾い握りしめる。真実を見抜く帝眼は、普通の魔物をおどろおどろしい異形に変容させてしまった異物が、魔物の中にあることを見ていた。
「どうやら、また厄介な連中が絡んでいるみたいね」
ルチアはティナの拾った鍵を見て、これが人為的におこなわれていること、そしてまだ続くことを理解する。
「うう、ひどい臭い、うう」
「あ、そっか、リントはこれが初めて……」
顔面蒼白になったリントを見てルチアは、リントがまだ実戦には不慣れなことに、気がつく。
いくら戦闘的なドラドニア王国の王家で、厳しく訓練され学院最強の名をほしいままにしてきたとはいえ、リントはまだ少女だ。グロテスクな魔物の死体というあまりに衝撃的な光景は気丈なリントでも耐え難い。気分を悪くするには十分すぎる。
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