砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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アスファルト編

北北西に進路をとれ

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 “もっと進路は北北東です”

 『北北東に進路をとれ!』って映画あったな!

 “ヒッチコックの映画でしたら、北北西です”

 あ、そっか。

 “で、どうするんですか?こんなオンボロ戦車1台で”

 戦車とか機獣兵はアスファルトの守備隊で大丈夫らしいから、俺らは遠距離ロケット砲をもつヴァルキリーを叩く。

 “随伴兵とかどうするんですか?”

 地雷と時限爆弾あるだろ、夜になったら敵陣の背後からジャイロキャノピーで近づいて、コイツをヴァルキリーの下に潜り込んで設置していく。

 “は?”

 『パイナップルアーミー1巻 5人の軍隊』を参考にな。

 “それは、漫画ですよ”

 ベトコンだってやってたし、俺にもできんだろ。だいたい俺がタイムスリップしたこと自体が漫画みたいなもんだし。

 “全くやれる説明になって無いですが、無謀にも程があります”

 一緒に死んでくれるか?

 “ゴメン被ります”

 ありゃ。

 “死なせませんよ”
 
 心強い。
 
 “それでは、相手に悟られないギリギリの地点まで後80キロです。進みますよ”

 おっけーーい!






 そして夜、時刻は20:00を指している。
 アスファルトの街オアシス周辺では野営キャンプが貼られ、中ではヘッド、矢破部、山下、3名が話し合っていた。


 「とりあえず初戦は完勝だね」


 と言ってる内容の割には淡々と話すトーキングヘッド


 「ああ、素直には喜べんな」
 「こちらの被害は少ないが、ぶっ倒したほとんどが機獣兵とヒューマノイドの使い捨ての雑兵だったぜ」
 「入手した情報よりも遥かに戦力が大きいしねぇ」
 「武装車両隊も早々に戦線離脱。まだ主力は残存していると見ていいだろう」

 矢破部の言う通り、今回は様子見なのか、武装車両は戦況が傾きかけたの見るや、進軍を止め後退して行った。そして矢破部は続ける。

 「おそらく明日はこの辺り一帯を標的に無差別に遠距離からの対地ロケット乱れ撃ちだ。それからの進軍だろう」
 「欲を出さずに初めからロケット爆撃しておけばアイツらも楽だったろうにね~」
 「馬鹿言うな少将。明日どころか今夜夜襲かも知れねぇぜ」
 「そうだね、地雷は殆ど無くなっちゃったかな?」
 「そうだな、機獣兵をあれだけ犠牲にしていたからな、残ってはいまい」


 そう、まるで地雷原の処理が目的だったかのような初戦であった。


 「ならよ、今度はこっちから打って出ようぜ」
 「そうだねぇ、夜明け前に夜襲と行きますか?どうする矢破部」
 「同意見だ。今夜は月も無いし、このまま籠城しても爆撃の餌食だからな」
 「決まりだな!今度はあの小娘共に遅れはとらねぇぜ!」
 「少佐にはもう少し後方で指揮して欲しいんだけどなぁ…」
 「冗談じゃねぇぜ少将。座って見て口出すだけなんて性に合ってねぇよ。俺は生涯最前線だぜ!」
 「何度も生死を彷徨ってるのに、タフな男だ」
 「その度に俺はパワーアップして戻ってきてるんだぜ大佐ぁ!」


 まるでどこぞの戦闘民族のような勢いに2人は苦笑するも、この豪快さには幾度も助けられているのは事実であり、頼もしく思えた。


 「では、4時間後作戦開始とする。いいな、それでは解散」


 矢破部の言葉に一同は立ち上がった。




 ヴァルキリーと名付けられたこの自走式ロケット砲は一台のトラックに24連装のロケット弾が搭載されている。そのトラックが10台と事前情報ではあったが、実際には20台が扇状に広がり、要塞砲の射程距離外距離50キロ地点でアスファルトを囲むように配置されていた。その外側中心程に『ラスト・ディヴィジョン』の、野営地があった。


 この組織のリーダーである総司令官の宿地では2人の男が本日の戦禍について語り合っていた。1人は総司令官のジャムカ。もう1人は以前スカウトとして、アスファルト近郊のビルで偵察を行っていた者だった。


 「アスファルトか、噂以上に硬いな」

 白髪の剛毛に、その顔には深く刻まれたシワとキズは数多の戦場を駆け抜けたであろう証で合った。迷彩服に身を包んだガッチリとした身体はそこかしこが機械化されている。


 「あそこは防衛に特化しています。要塞砲の破壊力もさるものですが、地上部隊のアンドロイドやラオウ山下率いる部隊が馬鹿になりません。ヒューマノイドや機獣兵では足止めにもなりませんでした」
 「ゴトウ、ここまではお前の言う通りだな」 
 「はい、想定済みです。地雷原を片付けない事には進軍もままなりませんからね。ですが、あの街は対空迎撃が弱い」
 「その情報通り、虎の子のヴァルキリーを全台出動配備させた。明日あの街を破壊する」
 「受電設備を失う事になるのは惜しいですが、我々は元々安住の地を必要としていません」
 「アスファルトか、豊かな街と聞く。食らうのが楽しみだーー」


 と、その時である。2人の密談を遮る様な大爆発音がした。テント内までその衝撃が伝わる。

 「敵襲!」

 と、外から聞こえる伝令。

 「ふふ、夜襲をかけて来たか。
 面白い。
 迎え撃て。
 ゴトウ伝令を飛ばせ、各地に配備してあるヴァルキリーの一斉砲火だ。ーーん?その前に哨兵は何してた?突然爆発音とは、陣にまで気付かずに、踏み込ませてしまったのか?」
 「無能な哨兵は後で銃殺しておきましょう。それでは、ヴァルキリーの一斉放火をーー」

 と、ゴトウが言いかけたところ


「で、伝令!自走式ヴァルキリー、全台大破!ロケット弾もろとも全て爆破されました!」
 

 「「なにーーーーー!!!」」

 
 2人は声を揃えて一瞬気が動転するが、すぐ様持ち直し現状の理解に努める。


 「敵の総数、部隊の種類は!」


 ゴトウが戦況の説明を伝令に促す。


 「わかりません!しかし、現場を走り去る一台のジャイロキャノピーを見た報告があります!爆弾を各ヴァルキリーに設置後、時限発火を作動させ逃亡したものと思われます」

 「じゃ、ジャイロキャノピーだと!!馬鹿にしているのか!!」


 雷の様なジャムカの怒声に、ひぃーとチビる伝令。


 「で、伝令!!」

 「今度はなんだ!」

 と、普段冷静なゴトウも、この事態に些か熱くなっていた。

 
 「アスファルト方面より敵襲!テクニカル武装車両隊およそ100、距離5キロ」
 
 「「ちっか!!」」

 と、驚いている場合ではないとゴトウとジャムカ。
 
 「そ、総員戦闘配備、迎え撃てぃ」

 慌てて指示を出すジャムカ。




 その晩、アスファルトの夜襲に全く応戦出来ずに『ラスト・ディヴィジョン』は崩壊した。
 数々の街や国を滅ぼした恐ろしい武装組織の呆気ない最後であった。



 暴れ足りなかった山下は1人雄叫びを挙げた。

 3人のアンドロイドは手を取り合って喜んだ。

 モヒカンとジジイは、ジジイがギックリになったため、途中で引き返した。

 マスター、ポマード、ブッチャー、ローメンは飯作りしか出番が無く、見せ場が無いと嘆いていた。

 テツローは要塞砲が撃ちたらず、不満が募った。


 矢破部は不可解な出来事に首を傾げていた。ヴァルキリーが全台爆破されていた事にも驚いたが、哨兵が片っ端から狙撃されており、見張りに気づかれる事なく部隊が接近出来た事に。
 

 トーキングヘッドも腑に落ちなかったが、ヴァルキリーが爆破されていた、という報告に引っかかるところがあった。




 そして、夜が明けた。


 “錫乃介様、いいんですか?戦車もお金も置いて行っちゃって。戻れば英雄ですよ”

 戦車は借りもんだし、爆弾代も払わなきゃいけないし、そもそも俺がやった証拠は無いし。アイツらから貰った餞別だけで充分さ。
 それになんつうか、美しくねーだろ、そういうの。

 と言った錫乃介の手には電卓サイズの財布デバイスであった。画面には500cと表示されていた。




 話は少し遡る。
 夜半過ぎに戦車からジャイロキャノピーに乗り換え、超長距離からサプレッサーを付けた新型ブローニングで、哨兵を狙撃。夜間狙撃はぶっつけ本番だったが、高性能暗視スコープとナビの補正によって難なくこなせた。
 さらに、ヴァルキリーを扇状に広く配置したのが仇となったか、常勝を続けたのが油断となったか、哨兵の間隔が広く、気付かれる事なく次から次へと討ち取ることができた。
 その後ジャイロキャノピーを押して近づき、ヴァルキリーの背後に周り1台1台時限爆弾と地雷を仕掛けていく。最後の20台目を仕掛けた所で、交代のため外に出ていた歩哨にとうとう見つかった。
 一目散に逃げて戦車『シャール2c』に乗り込み、参戦しようとしたが、その頃には大勢が決していた。
 皆んなの前に出ようかどうしようか迷ったが、サヨナラの挨拶をした手前恥ずかしくなり、戦車をアスファルトの街付近に停め、ジャイロキャノピーのエンジンを南に向かってかけたのである。



 
 戦後処理のため前線に向かおうとしていたトーキングヘッドは矢破部に呼び止められた。
 「ヘッド、街の外でお前んとこの戦車が置いてあったらしいぞ」
 「シャール2c?」
 「あぁ、アイツにやったはずだよな」
 「あげた訳じゃないけどね~、いつか街に寄ったとき、戦争終わってたら返してねって」
 「やった様なもんだな」
 「まさかと思うけど見てみようか」


 そう言って2人は件の戦車まで行くと、戦車砲の口の所に

“返すぜ”

と書かれた張り紙があった。


 「ヘッド、随分義理堅い男じゃないか」
 「ふふ、爆弾代は貰えなかったけどね」
 
 中を改めていたテツローがハッチから出てきて、デバイスとショットガンをヘッドは渡された。
 
 「ヘッド、“爆弾代”ってヘッド宛に財布デバイスと、ソードオフがラオウ宛に置いてありましたぜ」

 「ヘッド、随分律儀な男じゃないか」
 「8,200cか、1桁足りないよ」
 「サービスしてやれ」
 「やだよ、僕は商売人に戻るんだ。一銭たりともまけないよ。今度請求しなきゃ」

 
 “また会おう錫乃介”と呟いたか、呟かなかったのか、それは矢破部にも、口の動きはわからなかった。




 「ねぇ、聞いた?錫乃介のやつがヴァルキリーやったらしいって」
 「本当ウララちゃん?アイツが?あの尻尾巻いて逃げたヘタレが?」
 「ねーアンちゃん信じられないよね」

 「でももし本当なら」ウララが呟く
 「1人で特攻」エミリンが呟く
 「したって事だよね」アンシャンテが呟く
 「少しだけ」
 「好きに」
 「なっちゃったかも」

 3人の女の子は空を見上げて呟いた。





 “錫乃介様、今回の件、命がけなのに無報酬どころか、マイナスです。格好つけるのも程々にしてください”

 男はな、自分に美学を持って生きなきゃなんねぇんだよ。

 “それはまた随分と自ら貧乏クジばかり引く美学ですね”

 貧乏クジなんてな、俺にとっちゃものの数じゃねえよ。なんてったってさ、

 “潜り抜けて来た修羅場の数が違う、ですか?”

 いや、踏み抜いてきたドブ板の数が違うんだよ。



 錫乃介とナビを乗せたジャイロキャノピーは地平線に消えて行った。



アスファルト編 完
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