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第一章

南楓と初雪

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「雪だねえ」
「雪だなあ」

 初雪だ。白くて、冷たい雪。
 一年ぶりの雪にちょっとテンションが上がっている。俺たちはいつもの公園のベンチに座って、雪が地上に降るところをぼんやりと眺めている。降っている最中は、雪だなあ、という印象を受けるのに、一度地面や手に達すれば、ただの冷たい水だなあ、という感想に変わる。雪の定義はよく知らないが、地上に達するまでの白いものが雪だと、勝手に思っている。
 あ、でも、降り積もったのも雪だ。溶け切っていないのが、雪。そうしよう。

 降り積もる様子はなかった。雪もどんどん溶けていっている。隣に座る楓は「うわー」と何度も言い、テンションは高めであることがわかった。

「雪ってなんかいいよね!」
「わかる。なんかいい」
「一生見てられるう」

 その意見には同意できん。

「雪と言えば、悟、小学生の頃雪道で滑って、骨折してなかった?」
「そんなこともあったね」
「あの頃は雪ではしゃぐかわいい少年だったのに、どうしてこうなってしまったんだい?」
「今の俺を否定するのやめろ」
「落ち着きすぎなんだよー。もっとはしゃごうぜー。うわーって」

 彼女の方は逆に落ち着きがなさすぎる気もする。高校生にもなって、雪ではしゃぐ方が珍しいのではないだろうか。俺が普通である、と思いたい。

「他にも雪の思い出あった。悟が六年生までサンタさん信じてた話」
「待って。その話はいい。寒くなってきたし、帰ろう」

 俺は話を中断させるために、勢いよく立つ。

「えー、もうちょっと居ようよ。今から面白い話するから」
「全く面白くない!」

 六年生までサンタさんを信じていたため、楓に笑われたという話。あの頃はとってもピュアな少年だったから仕方ないね。うん。過去を改変する道具をサンタにお願いしたい。

「サンタさん信じてる悟かわいかったよ?」

 かわいかったよ? と言いながら、こっちを見てニコッとするのやめて欲しい。怒る場面なのに、ちょっと可愛い、と思って怒れないから。

「ほら、もう帰ろ。雪は充分楽しんだでしょ」

 精神的にも成長を遂げているので、落ち着いた口調で彼女に言う。

 彼女は小さな口を尖らせ、ベンチから動こうとしなかった。なので、置いていった。砂場を通り過ぎようとした時、「待ってー」という声とともに彼女が走ってきた。
 不機嫌になっていないか、表情を確認すると、口角が少し上がっており、どちらかと言えば機嫌が良さそうだった。

 これも雪のおかげなのかな。雪すげえ。
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