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第三章

南楓にプレゼント

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 料理が全て綺麗になくなった。そこそこ量はあったはずだが、四人で食べるとあっという間だった。
 楓は満足げな表情を浮かべており、俺も嬉しくなる。

「楓ちゃん!」
「ん?」

 お手拭きで手を綺麗に拭いた須藤は、カバンからラッピング済みのプレゼントを取り出した。それを楓に渡した。

「プレゼント!」
「嬉しい! ちーちゃんありがとっ! 開けていい?」

 須藤は数回頷いた。

 楓は丁寧に開けていく。ビリビリに破かないところに、彼女の性格がよく現れていると思う。白い四角い箱が出てきて、ふたを開けると、白い花をモチーフにしたバレッタが入っていた。

「可愛い!」
「でしょ! 楓ちゃんに似合うと思って」
「つけてみるね」

 楓は普段、結わずに下ろした状態であることが多い。いつもと違う楓を見れると思うと、ドキドキしてしまう。

「あ、天野くん後ろ向いてて。お楽しみだよ」
「わかった」

 一番最初に見たい気持ちもあったが、焦らされている感覚はそんなに悪いものじゃなかった。徐々に変わっていく様子を見る時以上にワクワク感がある。
 バレッタで髪を留めた姿を想像してみると、よく似合っている楓の姿が目に浮かぶ。可愛いに決まっているので、ちゃんと口に出して褒めよう。

「楓ちゃん推しになりそうだよ、私」
「大げさだから! ちーちゃんのセンスが良かったんだって」
「喜んでくれて嬉しいなぁ。翔太もどう思う?」
「確かに似合ってるな」
「ありがとー」

 なんか盛り上がってる。俺はまだ見てないのに! 

「振り返ってもいい?」
「あ、忘れてた! ごめんごめん。いいよー」

 やっと見ても良いという許可を得たので振り返ると、楓と目が合った。笑顔で、「どう?」と首を傾げた。

「どう? と言われても後ろが見えないんだけど......」
「あ」

 座ったままでは、見せにくいと思ったのか、立ち上がり、ゆっくり一回転した。ゆらゆらとなびく髪は見惚れてしまいそうになるくらい、綺麗だった。想像通り、よく似合っており、新しい楓を見ることができたので、須藤グッジョブ。その姿にやっぱりドキドキしてしまった。

「めちゃくちゃ可愛い」
「そ、そう? ありがと」

 楓も照れているのがわかった。席に座り、楓は「幸せだなぁ」とつぶやいた。

「天野くんは私たちが帰った後に渡す?」

 そうか、次は俺になるのか。

「別に隠すようなことでもないし、今渡すよ」

 俺は立ち上がって、机の引き出しにしまってあるペンダントを取りに行った。

「悪いな。俺だけ用意できてなくて」
「いいよいいよ。来てくれただけで嬉しいし! 前々から計画してたわけじゃないんでしょ?」
「言われたのは二日前ぐらいだったな」
「そんな急だったのに、来てくれて、私は幸せですよぉ」

 そんな会話が聞こえてきた。二日前に誘うという中々に非常識な願いを快く受けてくれた二人には、感謝しきれない。俺一人で祝うよりも、盛り上がっているはずだ。

 須藤は元々渡すつもりでいたんだろうな。もしかしたら、この前の須藤の誕生日に楓も渡していたのかもしれない。

 引き出しから取り出し、真っ赤なラッピングが施されているプレゼントを渡した。

「天野くんは何選んだのかな。気になる」
「確かに気になるな」
「そんなにハードル上げられても困るんだけど」

 俺なりには熟考して答えを出したつもりだ。プレゼントとしては、ありきたりではあると思うのでちょっと不安になってしまう。

「開けるね」
「どうぞ」

 先ほどと同様に、楓は丁寧に開けていく。包装紙が開けられるにつれて、緊張が高まる。なぜか楓も少し緊張した面持ちで、開けている。

「か、可愛い......!」

 ハート形をした紅葉色のペンダントを見た楓は、パッと明るくなった。俺も安心する。

「楓ちゃんのイメージにぴったりだね」
「ふふっ。ちーちゃんつけてー」
「いいよー」

 手際よく須藤は、楓の首につけた。

「似合うかな?」

 想像していた何倍もマッチしていた。自分で言うのも何だけど、ペンダントのチョイスは間違っていなかったようだ。

「とっても。やっぱり、可愛いよ」
「照れるねぇ」

 可愛いを連発したくないとか言ってたくせに、目の前の彼女を見てると、口からどんどん出てきてしまう。

「私たちに構わず、イチャイチャしててね~」
「べ、別にイチャイチャしてたわけでは......」

 終始笑って、楽しかった楓のお誕生日会は一生の思い出になるだろうな。楓の思い出の中にもずっと残ってくれれば嬉しいな、と思った。
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