妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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6-2:妻がお祈りしまして……

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 教壇では神父が神のお告げをしていた。

父は言いましたとか、神の言葉ですだとか、

まだ俺には難しい言葉ばかりだ。

神が見守っているといっているが、俺たちは神から見放されているのかもしれない。

そうでなければ、こんなことにはなっていないし。

美鈴は目を花音に隠されていることで、なんとか教会に中に入ることができているが、

ずっと、そうするわけにもいかないだろう。

そろそろ、神のお告げも終わる。

「花音、そろそろママに見せたらどうだ?」

俺は小声で花音に耳打ちした。

「うん、そうだね」

花音はそっと、美鈴の目から手をどかした。

「うぅ、あぁ……!!!!! あぁー!!!!!」

美鈴は急に目を伏せ始め、跪いた。

何、何?

怖い怖い!

急にどうした?

その姿はまさに異様ともとれる光景だった。

両膝をつき、両手を前にして、顔を伏せながら拝んでいる。

まるで、神にお祈りしているかのような姿だ。

うめき声を上げながら、拝むように崩れ落ちる美鈴を周りの人達は、

気になって、神の言葉を聞かずこちらを見ている。

そりゃそうか。

急に叫んだら、みんな気になるよな。

でも、このままにするわけにはいかないし、

「花音! 目を隠せ!」

「あ、あぁ、うん!」

花音は急いで、美鈴の目を手で隠す。

一体、何に怯えているんだろうか?

俺は周りを見渡した、

神父の後ろには巨大なイエス・キリストが磔にされている十字架が飾られている。

もしかして……これ?

十字架に反応した?

嘘だろ、十字架に反応って吸血鬼じゃないんだから!

「おぉ~、おぉ……」

まだ、苦しんでる……

なんかダメージでも入ったか?

RPGじゃないぞ!

「そこの方々、大丈夫ですか?」

神父は気になったのか、教壇の上から話しかけてきた。

「あぁ、大丈夫です。ちょっと初めて来たもので混乱したみたいで」

俺と花音は美鈴が目立たないよう、人達の視界に入らないように体をくねくねと動かす。

「安心してください、神はあなた方についています。心配せずに祈りを捧げましょう」

神父はそういって神の言葉を続けた。

安心はできないんです神父様……

放っておけば、いつまた何かが起こるかもしれません。

俺たちには神ではなくゾンビがついているんです。

祈りを捧げれば彼女はなぜか苦しむんです。

神父の神の言葉はその後も続き、およそ10分ほどの時間が経過した。

美鈴はあれからは落ち着き、静かに椅子に座っている。

俺と花音は美鈴に目隠ししている手を交代しながらなんとかしのぐ。

はっきり言ってしっかりと祈る余裕はない。

当初の目的がまったく果たされぬまま刻々と時間だけが過ぎた時、

事件は起きた。

「ねぇ、何してるの?」

突然男の子がおもちゃを持って美鈴に話しかけに来たのだ。

「どうしたの僕? 危ないからママの所に帰りな?」

俺は優しく男の子に母親の所に帰るよう促す。

だが、男の子はどうやら美鈴のことが興味深々なようだ。

じっと、美鈴を見つめる。

「ねぇ、この人って生きてるの?」

!?

なんだ急に!

俺と花音は一瞬ドキッとした。

子供の勘みたいなやつか!?

だとしたら怖すぎる。

「ど、どうしてそう思うの?」

花音は動揺が隠せない。

声は震え、目も泳いでいた。

「だって、動かないんだもん。お人形さん?」

確かに、美鈴は目を隠しているからか動いていない。

そこを見られてるってことか。

「そ、そんなことないよ、ママは動くよ? ほらっ」

「ば、バカ!」

花音は美鈴の目から手をどかした。

ギロッ

美鈴は男の子に視線をやる。

「うわぁぁぁぁん!!!!!」

男の子はあまりの恐怖に大泣きをしてしまう。

美鈴は睨んだのではなく、ただ自然に下に視線がいっただけ。

だが、人形かなにかだと思っていた男の子にとって、

突然、動き出したことは恐怖だったに違いない。

男の子は走って母親の所に向かった。

「ちょ、ちょっとマー君どうしたの?」

あー、めんどくさくなりそうだな。
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