【R18】義弟は私を溺愛している

ほのじー

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義弟の帰還

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「フィルが帰ってくるですって!?お父様本当に?」
「ああ、この手紙には戦地から近いセントリア病院を明日退院してこちらに帰ってくると書いてあった」



エリザベスはベルン王国のザリル伯爵家の長女として産まれるが、難産により彼女の母はエリザベスを産んですぐに亡くなってしまった。使用人たちやガヴァネスによって大事に育てられたエリザベスは素直で優しく育っていった。


(ああ、フィルにとうとう会えるのね!)


エリザベスが十一歳のとき、父の後継者として親戚の息子であるフィルが伯爵家の養子となり、彼は新しい家族の一員となった。それからエリザベスはフィルを大事な弟として大切に思ってきたのである。


「フィルの好きだったブラウニーを作ってあげましょう、マニー」
「ええ、そういたしましょうお嬢様」



伯爵家の使用人で、エリザベスが母を亡くしてからずっと世話をしてくれているマニーはエリザベスが一番心を開いている人だ。



(フィルと会うのは七年ぶりかしら)



フィルが伯爵家にやってきて五年後、彼は十五歳になり寄宿学校に行くこととなった。初めの年の夏休みなどは帰ってきていたのだが、徐々に長期休暇になっても帰ってこなくなっていた。卒業後帰ってくる予定だったのだが隣国との戦争が勃発しフィルは戦地に向かわなければならなくなったのだ。


「しかしお嬢様、フィル様が無事で良かったですねぇ。一時は音信不通でヒヤヒヤさせられましたから」
「ええ、あのときは私、心臓が止まるかと思ったわ」


フィルは前線で戦っていたらしく、一緒にいた第三王子を庇ったせいで大ケガをしてしばらく意識がなかったそうだ。意識が回復した次の日に平和条約が結ばれ終戦したのである。



「戦争も終わりフィル様も帰ってくることですし、お嬢様もそろそろ結婚相手を見つけないとですねぇ」
「や、やめてよ!私は結婚する気なんてないのよ!私は仕事がしたいわ!」
「あらまぁ、お父様にお伝えしたら卒倒しそうだからそんなこと言わないようにしてくださいよお嬢様」




艶やかなゴールドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つエリザベスはザリル伯爵家の妖精と呼ばれている。その瞳は美しさだけでなく聡明さも潜んでおり、隣国からも婚約の申込みがきている程だ。しかし最近は戦争だったこともあり、のらりくらりと婚約をかわしていたのだが、そろそろタイムリミットが来てしまうようだ。



「セバスチャン、フィルの部屋も綺麗に片づけておくよう言っといてね」
「はいはい、お嬢様。もう使用人たちに伝えておりますよ」



セバスチャンはこの家の執事で先代であるお祖父様の代から仕えている。ちなみにその息子であるスコットは次代の執事となるべく勉強中だ。



(ん、外が騒がしいわね)



「旦那様~!!フィル様が戻られました!」
「なんだと、早いじゃないか」



エリザベスは窓に駆け寄った。遠くから黒いシルエットが高速で近づいてきている。しばらくすると馬の蹄が聞こえてきた。



(あれが・・・フィルなの?)



馬の上には眼帯をした険しい顔の男が乗っている。眼帯をしていない方の目から充血した茶色の目が覗いており、その目はまるで覇気で人をも殺しそうな程狂暴だ。その男は大きくむっちりとした足を馬から下ろし馬を馬丁に預けた。




『お帰りなさいませ、フィル様』
「ただいま帰りました」



使用人が並びフィルを迎える。彼らも平然を装おっているが、フィルの変わりように驚きを隠せずにいた。



「おかえり、フィル」



フィルはチラリとエリザベスを捕らえる。すこし大きく目が開いたように感じるも、フィルはエリザベスになにも言わずに久々の自分の部屋に入ってしまった。



(フィル、なんで私に挨拶してくれなかったのかしら・・・)




フィルは容姿だけではなく、性格も変わってしまったような気がする。エリザベスはフィルからの拒絶をどことなく感じた。



(あら、もうこんな時間!急いで晩餐会の準備をしないと)



エリザベスは母がいないので、十六歳から慈善活動、パーティーの準備、そして手紙の返信など家のことをいくつか任されている。今回はフィルの為に父と三人で小さなパーティーを開催するのだが、フィルが思ったより早く帰ってきたので急いで準備する必要があるのだ。



「シェフに今日は彼の好きだったリゾットとコーンスープを作るようにお願いしといてね、セバスチャン。私とマニーは今から市場までブラウニーの材料を調達してくるわ」
「はいお嬢様」



ザリル伯爵家は王都から三時間程にあり、この国で最も治安の良い領土だと言われいる。この領土の税金は若干高いのだが学校や医療費はほとんど無料で受けることができるし、慈善活動も盛んだ。その中でも一番大きな慈善団体を運用しているのはエリザベスなのだ。そんな中育ったエリザベスは買い物に警備もつけずに出かけることも多い。




「御者さん、今からファラン市場に向かってください」
「はい、畏まりました」



馬車に乗り伯爵邸から駆けていくエリザベスの様子を窓際からフィルが見下ろしていた。




「姉上・・・」




誰にも見せることのない切なげな表情を馬車が向かっていった方向に向けていた。







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