1 / 30
義弟の帰還
しおりを挟む
「フィルが帰ってくるですって!?お父様本当に?」
「ああ、この手紙には戦地から近いセントリア病院を明日退院してこちらに帰ってくると書いてあった」
エリザベスはベルン王国のザリル伯爵家の長女として産まれるが、難産により彼女の母はエリザベスを産んですぐに亡くなってしまった。使用人たちやガヴァネスによって大事に育てられたエリザベスは素直で優しく育っていった。
(ああ、フィルにとうとう会えるのね!)
エリザベスが十一歳のとき、父の後継者として親戚の息子であるフィルが伯爵家の養子となり、彼は新しい家族の一員となった。それからエリザベスはフィルを大事な弟として大切に思ってきたのである。
「フィルの好きだったブラウニーを作ってあげましょう、マニー」
「ええ、そういたしましょうお嬢様」
伯爵家の使用人で、エリザベスが母を亡くしてからずっと世話をしてくれているマニーはエリザベスが一番心を開いている人だ。
(フィルと会うのは七年ぶりかしら)
フィルが伯爵家にやってきて五年後、彼は十五歳になり寄宿学校に行くこととなった。初めの年の夏休みなどは帰ってきていたのだが、徐々に長期休暇になっても帰ってこなくなっていた。卒業後帰ってくる予定だったのだが隣国との戦争が勃発しフィルは戦地に向かわなければならなくなったのだ。
「しかしお嬢様、フィル様が無事で良かったですねぇ。一時は音信不通でヒヤヒヤさせられましたから」
「ええ、あのときは私、心臓が止まるかと思ったわ」
フィルは前線で戦っていたらしく、一緒にいた第三王子を庇ったせいで大ケガをしてしばらく意識がなかったそうだ。意識が回復した次の日に平和条約が結ばれ終戦したのである。
「戦争も終わりフィル様も帰ってくることですし、お嬢様もそろそろ結婚相手を見つけないとですねぇ」
「や、やめてよ!私は結婚する気なんてないのよ!私は仕事がしたいわ!」
「あらまぁ、お父様にお伝えしたら卒倒しそうだからそんなこと言わないようにしてくださいよお嬢様」
艶やかなゴールドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つエリザベスはザリル伯爵家の妖精と呼ばれている。その瞳は美しさだけでなく聡明さも潜んでおり、隣国からも婚約の申込みがきている程だ。しかし最近は戦争だったこともあり、のらりくらりと婚約をかわしていたのだが、そろそろタイムリミットが来てしまうようだ。
「セバスチャン、フィルの部屋も綺麗に片づけておくよう言っといてね」
「はいはい、お嬢様。もう使用人たちに伝えておりますよ」
セバスチャンはこの家の執事で先代であるお祖父様の代から仕えている。ちなみにその息子であるスコットは次代の執事となるべく勉強中だ。
(ん、外が騒がしいわね)
「旦那様~!!フィル様が戻られました!」
「なんだと、早いじゃないか」
エリザベスは窓に駆け寄った。遠くから黒いシルエットが高速で近づいてきている。しばらくすると馬の蹄が聞こえてきた。
(あれが・・・フィルなの?)
馬の上には眼帯をした険しい顔の男が乗っている。眼帯をしていない方の目から充血した茶色の目が覗いており、その目はまるで覇気で人をも殺しそうな程狂暴だ。その男は大きくむっちりとした足を馬から下ろし馬を馬丁に預けた。
『お帰りなさいませ、フィル様』
「ただいま帰りました」
使用人が並びフィルを迎える。彼らも平然を装おっているが、フィルの変わりように驚きを隠せずにいた。
「おかえり、フィル」
フィルはチラリとエリザベスを捕らえる。すこし大きく目が開いたように感じるも、フィルはエリザベスになにも言わずに久々の自分の部屋に入ってしまった。
(フィル、なんで私に挨拶してくれなかったのかしら・・・)
フィルは容姿だけではなく、性格も変わってしまったような気がする。エリザベスはフィルからの拒絶をどことなく感じた。
(あら、もうこんな時間!急いで晩餐会の準備をしないと)
エリザベスは母がいないので、十六歳から慈善活動、パーティーの準備、そして手紙の返信など家のことをいくつか任されている。今回はフィルの為に父と三人で小さなパーティーを開催するのだが、フィルが思ったより早く帰ってきたので急いで準備する必要があるのだ。
「シェフに今日は彼の好きだったリゾットとコーンスープを作るようにお願いしといてね、セバスチャン。私とマニーは今から市場までブラウニーの材料を調達してくるわ」
「はいお嬢様」
ザリル伯爵家は王都から三時間程にあり、この国で最も治安の良い領土だと言われいる。この領土の税金は若干高いのだが学校や医療費はほとんど無料で受けることができるし、慈善活動も盛んだ。その中でも一番大きな慈善団体を運用しているのはエリザベスなのだ。そんな中育ったエリザベスは買い物に警備もつけずに出かけることも多い。
「御者さん、今からファラン市場に向かってください」
「はい、畏まりました」
馬車に乗り伯爵邸から駆けていくエリザベスの様子を窓際からフィルが見下ろしていた。
「姉上・・・」
誰にも見せることのない切なげな表情を馬車が向かっていった方向に向けていた。
「ああ、この手紙には戦地から近いセントリア病院を明日退院してこちらに帰ってくると書いてあった」
エリザベスはベルン王国のザリル伯爵家の長女として産まれるが、難産により彼女の母はエリザベスを産んですぐに亡くなってしまった。使用人たちやガヴァネスによって大事に育てられたエリザベスは素直で優しく育っていった。
(ああ、フィルにとうとう会えるのね!)
エリザベスが十一歳のとき、父の後継者として親戚の息子であるフィルが伯爵家の養子となり、彼は新しい家族の一員となった。それからエリザベスはフィルを大事な弟として大切に思ってきたのである。
「フィルの好きだったブラウニーを作ってあげましょう、マニー」
「ええ、そういたしましょうお嬢様」
伯爵家の使用人で、エリザベスが母を亡くしてからずっと世話をしてくれているマニーはエリザベスが一番心を開いている人だ。
(フィルと会うのは七年ぶりかしら)
フィルが伯爵家にやってきて五年後、彼は十五歳になり寄宿学校に行くこととなった。初めの年の夏休みなどは帰ってきていたのだが、徐々に長期休暇になっても帰ってこなくなっていた。卒業後帰ってくる予定だったのだが隣国との戦争が勃発しフィルは戦地に向かわなければならなくなったのだ。
「しかしお嬢様、フィル様が無事で良かったですねぇ。一時は音信不通でヒヤヒヤさせられましたから」
「ええ、あのときは私、心臓が止まるかと思ったわ」
フィルは前線で戦っていたらしく、一緒にいた第三王子を庇ったせいで大ケガをしてしばらく意識がなかったそうだ。意識が回復した次の日に平和条約が結ばれ終戦したのである。
「戦争も終わりフィル様も帰ってくることですし、お嬢様もそろそろ結婚相手を見つけないとですねぇ」
「や、やめてよ!私は結婚する気なんてないのよ!私は仕事がしたいわ!」
「あらまぁ、お父様にお伝えしたら卒倒しそうだからそんなこと言わないようにしてくださいよお嬢様」
艶やかなゴールドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つエリザベスはザリル伯爵家の妖精と呼ばれている。その瞳は美しさだけでなく聡明さも潜んでおり、隣国からも婚約の申込みがきている程だ。しかし最近は戦争だったこともあり、のらりくらりと婚約をかわしていたのだが、そろそろタイムリミットが来てしまうようだ。
「セバスチャン、フィルの部屋も綺麗に片づけておくよう言っといてね」
「はいはい、お嬢様。もう使用人たちに伝えておりますよ」
セバスチャンはこの家の執事で先代であるお祖父様の代から仕えている。ちなみにその息子であるスコットは次代の執事となるべく勉強中だ。
(ん、外が騒がしいわね)
「旦那様~!!フィル様が戻られました!」
「なんだと、早いじゃないか」
エリザベスは窓に駆け寄った。遠くから黒いシルエットが高速で近づいてきている。しばらくすると馬の蹄が聞こえてきた。
(あれが・・・フィルなの?)
馬の上には眼帯をした険しい顔の男が乗っている。眼帯をしていない方の目から充血した茶色の目が覗いており、その目はまるで覇気で人をも殺しそうな程狂暴だ。その男は大きくむっちりとした足を馬から下ろし馬を馬丁に預けた。
『お帰りなさいませ、フィル様』
「ただいま帰りました」
使用人が並びフィルを迎える。彼らも平然を装おっているが、フィルの変わりように驚きを隠せずにいた。
「おかえり、フィル」
フィルはチラリとエリザベスを捕らえる。すこし大きく目が開いたように感じるも、フィルはエリザベスになにも言わずに久々の自分の部屋に入ってしまった。
(フィル、なんで私に挨拶してくれなかったのかしら・・・)
フィルは容姿だけではなく、性格も変わってしまったような気がする。エリザベスはフィルからの拒絶をどことなく感じた。
(あら、もうこんな時間!急いで晩餐会の準備をしないと)
エリザベスは母がいないので、十六歳から慈善活動、パーティーの準備、そして手紙の返信など家のことをいくつか任されている。今回はフィルの為に父と三人で小さなパーティーを開催するのだが、フィルが思ったより早く帰ってきたので急いで準備する必要があるのだ。
「シェフに今日は彼の好きだったリゾットとコーンスープを作るようにお願いしといてね、セバスチャン。私とマニーは今から市場までブラウニーの材料を調達してくるわ」
「はいお嬢様」
ザリル伯爵家は王都から三時間程にあり、この国で最も治安の良い領土だと言われいる。この領土の税金は若干高いのだが学校や医療費はほとんど無料で受けることができるし、慈善活動も盛んだ。その中でも一番大きな慈善団体を運用しているのはエリザベスなのだ。そんな中育ったエリザベスは買い物に警備もつけずに出かけることも多い。
「御者さん、今からファラン市場に向かってください」
「はい、畏まりました」
馬車に乗り伯爵邸から駆けていくエリザベスの様子を窓際からフィルが見下ろしていた。
「姉上・・・」
誰にも見せることのない切なげな表情を馬車が向かっていった方向に向けていた。
54
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる