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Sideフィル②
しおりを挟む(くそっ、終戦してしばらく経ってるのになぜ婚約もせずに、フラフラしてるんだ!)
久しぶりに会った彼女は相変わらず美しかった。身長は伸びていないが瞳には聡明さが伺え、腰つきもしっかりとしていて子供も産めるような体つきだ。
(こんな怪我をして変わり果てた弟に幻滅するだろうな)
新しく入ったらしい女の使用人が、フィルをうっとりと見ていたので、彼女を部屋に呼んでやった。名前は覚えていないが、体つきはそんな悪くなかったと思う。むしゃくしゃしていたので久々に女を抱くのも悪くないと思ったのだ。
(大の大人になって部屋に入ってくるなんてどういう神経してるんだ)
「姉上、いいところを邪魔してくれましたね」
「あなたっ・・・!!家でこんなことを!!最低だわ!!」
エリザベスはフィルを睨み付けているのだが、そんな彼女の目線が今フィルだけに注がれていると思うだけで気持ちが高ぶった。
「姉上は僕がブラウニーをまだ好きだと思っているんですか?お気楽な考えをしてるんですねぇ」
彼女に酷い言葉を色々ぶつけた。彼女の瞳は潤んでいる。フィルはその瞳に吸い込まれるように近づいていったがエリザベスは後退り、彼女を壁まで追い込んだ。
「こんな夜中に女性が男の部屋に来てはいけませんよ。そんな薄着で・・・なんなら今日は姉上がお相手してくれますか」
「なっ・・・!!」
この時本気で彼女を抱きたかった。抱き潰して絶望させてやろうかと思ったくらいだ。
(まったく、こんな薄着で入ってくるなんて)
「ふん、冗談ですよ。あなたのような恋も知らないお子様を相手にする気にもなりません。もう二度と僕には構わないでください。僕はあなたを姉上だなんて思ったこと一度もありませんから」
「なんですって!」
ーーバシン!!
エリザベスのあんな小さな手で打たれたって全く痛くなかったのに、心はズキズキと傷んだ。
(これ以上僕を惑わせないで下さい姉上・・・)
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感謝祭当日、シュバルツから連絡がありダリル伯爵領に遊びにくるとのことだった。すぐに警備を増やし、彼を迎えた。今日のエリザベスは派手すぎない黄色の動きやすいドレスを着ていて動く度に足首がチラチラと見えている。
「君のことはよくフィルに聞いてるよ。噂通りとっても可愛らしい令嬢だ。食べてしまいたいくらいだよ」
シュバルツはエリザベスに歩みより彼女の手の甲にキスをしようとしたが、フィルはシュバルツの足の脛をおもいっきり蹴りあげた。親友でさえ彼女に触るのを見たくなかったのだ。
「あ~あ、お前の義姉さん、ザックと踊ってるぞ。お前も誘わなくていいのかよ」
「そんなことできるか」
ブルーム伯爵長男のザックは容姿端麗でブルーム伯爵家の資産も伯爵の中では断トツで、令嬢たちに大人気なのである。
「ザックはフィルと一緒でプレイボーイだから、お義姉さんペロリと食べられちゃうかもね」
「ぐっ・・・」
楽しそうに舞う妖精と、誰もが羨む美男はとてもお似合いのカップルに見える。フィルのような片目の視力を無くし、顔は悪くないが悪人顔で傷だらけの男なんてエリザベスには似合わない。
「はぁ・・・そんなに思い詰めるなら彼女にお前の気持ちを伝えればいいじゃないか。お前は養子だから血は繋がってないんだろ?」
「・・・妖精を僕なんかが汚しちゃいけないんだよ」
シュバルツは何度言っても無駄だと分かったのかそれ以上は何も言わなかった。シュバルツは花火やショーなど数時間楽しんで王城へ帰っていった。
(あのザックって野郎、エリザベスを下心丸出しで見ていたな)
彼らがダンスをしているのを瞬きもせずに観察していたのだが、彼の目線はチラチラと胸元にいっていたし、去り際もベタベタとエリザベスを触っていた。耳元で何かを囁いていたが、何かに誘っていたのだろう。フィルは立ち上がって出口に向かっていると、女性に声をかけられた。
「フィル様、お久しぶりです」
「・・・ああ、ミス・ウォード、お久しぶりです」
ミス・ウォードは未亡人で一度夜お相手をしてくれた人だ。年はもう三十五を越えていて少しだけ体に衰えが出てきているようだが、十分に美しい。
「久しぶりに、一杯しませんか?」
「ええ、喜んで」
(あれ・・・朝か・・・)
酒を大量に飲み、彼女の家で寝てしまったようだ。昨夜彼女の家に行ったことは覚えているが、それからのことは覚えていない。
「フィル様、昨日は楽しませていただきました。またいつでも遊びにいらしてね」
「ええ、またお相手してください」
「いつでも歓迎いたしますわ」
(うっ・・・久々に飲み過ぎた)
フィルは水と二日酔いの薬を貰い伯爵邸に戻っていった。
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