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020. 看守の馬人
しおりを挟む「ん?」
足元から顔を出したリリナに気付き、声を掛ける。
「おぉ、これまたちっこい旅人さんだ。」
目線を合わせるようにして屈み、ニッと笑う。
「あぁそうだ、お馬さんだぜい。」
ふとリリナの顔を確認し、驚いた様子で
「っと。お嬢ちゃん、人間か!」
「うん、はじめ……まして。」
まだ少し緊張しているのか、ラウルの足にぴったりとくっついている。
「あっはは、怖がらなくてもいいぜ。
ここの町は人間も歓迎だ!ゆっくりしていってくれ。」
そう言うとラウルを見上げ
「狼の旦那、旦那。」
と少し物欲しげに目で訴えている。
そのことを察し、フッと笑顔を漏らしてリリナに問いかける。
「リリナ、こちらの方がお前を撫でてもいいか聞きたいそうだが。」
それを聞くや否や顔がパッと明るくなり、
口を結んでコクッ、コクッと大きく頷く。
「おおそうか。そんじゃ、失礼するぜい。」
ラウルとはまた違う、大きな手がリリナの頭を
頭巾越しにぽんぽんと撫でる。
「お馬さんはあのお馬さんにも乗るの?」
撫でられながら、馬房に繋がれた馬を見て質問を投げ掛ける。
「あぁ、いざという時はな。
いくら馬の獣人だからって本家本元に足じゃ負けるさぁ。」
そういうと撫でていた手の平をリリナに見せるように広げ、
「この通り、前足……手は人間寄りの形をしてるからな。
四足で走るにゃ向いてねえのさ。」
「そうなんだぁ。」
感心した様子で返事をする。
「そういえば宿だったな。
この道を真っ直ぐ行くとちょっとした広場に出る。
その真ん前に建ってるからすぐ分かると思うぜ。」
「ああ、ありがとう。助かるよ。
それから……」
声を潜め、ぼそぼそと話している。
少し考え、難しい顔をしながら
「あ~、そういう施設はないから働き口を探す感じになるだろうな。
この年じゃまだ働くっつってもなかなか難儀だとは思うが。」
「そうか……。」
少し顔を落とすラウル。
「あとは人間の住民もいるからそこに声を掛けてみるといいかもな。
人間好きの獣人も多いから引き取るってぇ人もいるかもしれん。」
「分かった。ありがとう。重ねて礼を言う。」
「良いってことよ。」
手をひらひらと動かし愛想良く笑う栗毛の獣人。
「それとすまない。少し小さめのナイフなどないだろうか。」
「うん?あるにはあるが……。」
「実は……。」
リリナに腰の縄を見せるように促す。
それに気づき、外套の前を開いて見せる。
「こいつぁ……!
……。
そういうことか。お嬢ちゃん、よく無事だったなぁ。
すぐ持ってくるから待っていてくれ。」
何か思うことがあったのか、真剣な表情をするとともに
慰めるように声を掛け、そそくさと番小屋へ戻っていく。
「リリナ、いいな?」
「うん、だいじょうぶ。」
― 心の準備はできている。
いつの間にか、恐怖の原因からラウルとの思い出となっていた。
記憶の一部が欠けている今。
そこに補填された思い出への執着が強かった。
しかし、これでラウルとの思い出が途切れるわけでもない。
それを今朝、踏ん切りをつけるためにも改めて確かめた。
――栗毛の獣人が戻ってくる。
「手入れ用のはさみがあったからな。」
おそらく、毛先を整えるためのハサミだろう。
それがあの馬のためのものなのか、獣人のためのものなのかは分からない。
邪魔にならないよう、外套を開くように手を広げるリリナ。
獣人はリリナに刃が当たらないよう、少しずつ外側から
ちょきん、ちょきんと小忠実に縄を切っていく。
―――
そうして、ようやく腰に巻かれていた縄がはらりと落ちた。
服には縄の跡がくっきりと残っている。
リリナは両手で服の下の裾を持ち、パタパタとお腹へ空気を送り込む。
「ふわあぁ。すっきりぃ。」
ずっと締め付けられていた場所が解放され、ほっと一息つく。
心なしかラウルも安堵の表情をしている。
「これはこっちで処理しておくよ。
お二人は町へ行くといい。」
「ありがとうおじさんっ。」
ラウルの足を握りながら、にっこりと微笑むリリナ。
「おう!……お兄さんだけどなぁ!
お二人さんとも元気でな!」
―――
町の中へと歩を進め、後ろを振り返る。
腕を大きく伸ばし、ぶんぶんと手を振るリリナ。
それに応えるように栗毛の馬の獣人が笑顔で手を振り返している。
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