星獣の機迹

なビィ

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032. 半睡の少女

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三、四人前はあろうかという皿の山が綺麗に平らげられている。


「いや、絶品だった。」


とても満足そうに余韻に浸っているラウル。



ふと机の向こう側を見てみると、

空腹の胃袋へ急に大量の食物を投入したせいか

うつらうつらと船を漕ぎながら、

幸福感で顔がとろけているリリナがいる。



「リリナ。」


椅子から立ち上がりリリナに声を掛ける。



寝てしまう前に行っておきたい場所がある。

まだ腹の中が少し重いかもしれないが我慢してもらうとしよう。



眠い目を擦りながら、よたよたとラウルの後をついていく。


食堂をあとにし、宿屋から外に出ると

再び食堂の方から賑やかな声が聞こえ始めた。


先程の猫の獣人の叫び声が聞こえたような気もするが気にしないことにした。





「さて……聞いた話では……。」


方角の確認をしているラウルに

少し欠伸あくび混じりで声を掛ける。


「どこぉ……いくのぉ?」



「お前の縄も無くなったことだしな。

 湯屋へ行くとしよう。」



「ゆや?」



 ―――



宿屋の左手の道を少し歩いた先に、

石造りの立派な建物が見えてくる。


建物には看板も付いているので、おそらく店か施設なのだろう。

リリナにはまだ読むことができない。



所々苔蒸しており、年代を感じる石材だが

不思議とどっしりと安心感のあるたたずまいとなっている。



ラウルにとっては少し低く感じる入口を通ると

右手奥側に受付があり、年配のかわうその獣人が座っている。


「いらっしゃい。」


低く、穏やかな口調で大きな客を招き入れる主人。



「世話になる。

 狼、それに人間の子供。二名分空いているだろうか。」


それを聞き、大きな客の足元に寄り沿うように歩いている小さな人影を見つけると


「おぉ、おぉ。これはまぁめんこいお客さんだぁ。」


嬉しそうに口元に生えている無数の髭を揺らす。



「空いとるよぁ。

 うちは個室での貸し出しだから一部屋当たり金貨二枚になるが、

 それくらいちんまい子なら一部屋で大丈夫かい?」


「いや、折角だ。二部屋分頼みたい。」



「おや、そうかい。

 じゃあ、準備してもらうからちと待っといておくれ。」


そういうと受付の後ろにある通路へと入っていき、

他の従業員に声を掛ける。

いや、聞こえてくる話の内容から家族経営なのだろう。



「ここ、何をするの?」


「湯浴みができる施設だ。

 旅の疲れを癒すためにも一人でゆっくりしてくるといい。」



「湯浴み……。

 ……。


 ―――!!」



少し頭がぼおっとしていたようだが、

それを聞き、何かに気付いたように焦りながら

首をぶんぶんと振り足元をぎゅっと掴む。


「一緒。一緒がいい!」



どうやら一人でいることにはまだ抵抗があるらしく、

必至に懇願してくる。



 ― さすがにまだ心の傷は癒えないか……。





丁度戻ってきた主人がその言葉だけ聞こえたのか


「おやおや、仲が良いんだねぇ。

 やっぱり一部屋にしておくかい?」


「そう……だな。すまないがそのようにしてもらえるだろうか。

 申し訳ない。」


「いいさ。まだ湯も沸かしてない。

 じゃあ、代金は金貨二枚でよろしくねぇ。」



金貨を懐から取り出し、主人へと支払う。


自分の大きな足に顔を埋め、離れられないようにぎゅっと抱きしめている少女と、

少女の心情とは裏腹にその光景を微笑ましく見てにこにことしている主人。

ラウルにとっては何とも言い難い、複雑な状況である。



「じゃあ、準備ができたら呼ぶから待ってておくれ。」


「承知した。」



受付の向かい側、入口を入って左側には

ゆったりと座れる長椅子が数個置かれている。


「リリナ。椅子で座って待つとしよう。」


顔を足に埋めているリリナから反応が返ってこない。



「……?」


視界が真っ暗になったからかスッと夢の世界へ旅立ってしまったらしい。



仕方なく優しく抱き上げ、椅子の方へと向かうラウル。

服を通して体温が伝わってくる。


 ― 暖かい……な。



何かを思い出すようにそのまま椅子へと座る。


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