星獣の機迹

なビィ

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055. 鼎立の攻防

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朝から昼に掛けての穏やかな陽気が店先の花壇に彩を与え、

昼時の露店準備をし始めている住民もちらほらと見かけ始めた。



――やる気に満ち溢れた顔で

両開きの扉の取っ手を握るリリナ。


だが、宿屋の扉よりも見るからに大きく、

重量もあるように思える。





――その瞬間。


ラウルの眉間に皺が寄り、表情が真剣そのものとなる。

背後にいるアシュリィからもその威圧感すらある後ろ姿を

確認することができた程だ。



 ― もし扉を動かすことができなかったとしたら

   リリナは悲しむだろう……。


   しかし、今後のことを考え世の厳しさを予め教えるべきか?

   俺のことはどんなに非情な男だと言われようと構わないが……。


   だが、リリナの自主性を重んじ

   せめてもの時間を目一杯楽しませてやりたいという思いもある。



    ……どうすべきだ……!?





――再びこっそりと扉の上部へ手を伸ばすラウル。





   「くっ……。

    (俺は甘い、駄目な男だ――っ!!)」





悔しそうに唇を噛みしめて顔を背け、

もう片方の手が固く握り締められている。



その空気感の違いに

後方ではアシュリィが困惑の表情を浮かべている。


その腕が扉に届く直前。





「あれっ?」


リリナが目一杯力を入れて引くと

その重厚な扉はスーッと滑らかに開き始めた。

思わぬ肩透かしを喰らってしまったリリナが体重移動をしくじり、

体勢を崩すも握っていた取っ手に支えられ、事無きを得る。


違和感を覚え、扉を観察すると

頭上にはラウルの伸ばした手が見えている。

察してしまうリリナ。


「ラウルぅ! だぁめぇっ!」


扉から手を離し、その腕を引っ込ませようと

リリナがぴょんぴょんと腕に飛びつこうとするが届かない。


「私っ! 私にやらせてっ!」


腕を諦め、ラウルの膝元をぐいぐいと揺すり始める。



「あっ……、ああ。すまない……。」



ラウル自身、思わぬ展開に驚きを隠せないようだ。

葛藤の末、自分を卑下しつつも下した決断だったが

それすらも無に帰してしまった。


手をだらんと垂らし、耳や尾からも落ち込みの色を見せる。

その大きな巨体の後ろ姿はとても哀愁が漂うものとなっていた。



一連の流れを見ていたアシュリィが吹き出すのを堪えようと必死になっている。





リリナが改めて扉を引くと、

その見た目に反し、やはり軽く扉が開いてしまう。


矛盾する違和感で再び上部を確認し、ラウルの方を見るリリナ。



「ラウル~?」


じっとりと後ろを振り向く。

腕は確認できなかったが、この状況では他に疑いようがない。



「ちっ、違う! すまない……。

 いや!! 違う! 俺じゃないっ!」


扉には触れていないことを主張するように手を引いて後ずさりをしている。

焦って口をも滑らせ、その弁明のあまりの必死さに巨体が小さくすら見える。





「――ブフッ!!」


後方のアシュリィがついに堪えられなくなり、盛大に吹き出している。





その街の経済の重要な一端を担う【仕事斡旋集会所アプヴェンプス】。

そこへは旅人、町の住民だけでなく、商人や職人、傭兵や研究者、貴族。

様々な者が利用し、多種多様な思いを育んできた。



そんな施設ではあるが、今この時。その扉の前では

まだ若々しい三種族による、喜怒哀楽の激しい攻防戦が繰り広げられていた。


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