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057. 三人の岐路
しおりを挟む扉の片側へ寄り、閉まらないように端を押さえながら
二人が入ってくるのをにこにこして待っているリリナ。
何れともなしに歩き出し、二人が【仕事斡旋集会所】の敷居を跨ぐ。
人も既に多数おり、がやがやとした屋内ではあるのだが
不思議と騒音とはならずに、音が透き通っているように感じる。
一面壁に覆われていたはずの建物だったが
その内部は優しい光で明るく照らされていた。
紛い物、それより貴重な遺物によるものか、
光源らしいものも特には見当たらない。
入口付近は二階まで吹き抜けとなっており、
立派な柱によって支えが補強されている。
豪華とまではいかないが、素朴で温かみのある装飾は
二階の手摺りや、柱の装飾一つとっても拘りを感じられる。
真っ直ぐ進む通路の両脇には机と椅子が多数配置されており、
そこで待合所のように利用ができるようだ。
そのまま奥へ進むと受付があり、
少し離れた壁には大きな掲示板が鎮座している。
施設からの報告や予定などからは区切られた状態で
募集中の仕事の張り紙も丁寧に貼り付けられている。
床は外壁の煉瓦とは違い、通常の石材のようだがとても滑らかである。
爪が剥き出しの状態で歩く獣人もいるため、
傷跡が複数付いているが全て新しい物だ。
おそらく定期的に修復が行われ、その都度新品同様になっているのだろう。
「ここもすごいねぇ……。」
扉を閉めていたリリナが二人の間に入り、感嘆の声を上げる。
「でしょでしょ~?」
アシュリィが満足そうに横に立つリリナへ笑顔を向ける。
「ここ、何するのっ?」
両手を胸の前でぐっと握り、興奮気味に質問を投げかける。
「色んなことができるよ~。
募集されてるお仕事を受けたりね。」
「そうなんだー! すごいねっ!」
よくは分かっていないのだろうが感動した表情をして見せ、
ラウルの指を握り、きょろきょろと見回している。
施設の内装をじっくりと堪能しているようだ。
「(ここでリリナの仕事を探すのか?
この町は治安も良い。
務まるような仕事が思い浮かばないのだが……。)」
リリナには聞こえないようぼそりと呟く。
「(さすがに無いと思うよ。
場所によっては小さい子だろうと酷使されるからねぇ……。
大丈夫。そういうのじゃないよ。)」
「?」
ラウルが不思議そうな顔をする。
「(リリナちゃんが仕事をするんじゃなくて、
リリナちゃんを預かってくれる人を探すの。)」
アシュリィがにんまりとした顔で話を続ける。
「(あたしも人のことは言えないんだけど、
人間、しかも子供って相当珍しいのよね。
それにこの町は人間歓迎を謳っているだけあって、
今朝の食堂でも見たでしょ? あの人気っぷり。
きっと大切に育ててくれる人だっているはずよ。)」
「(なるほど。
逐一声を掛けて確認を取るよりはよっぽど効率的か……。)」
ラウルが少し下を向き、自分でも考えを巡らせていたが
その提案に頷き、相槌を打っている。
「(予め条件を設定しておけばそれに沿って募集もしてくれるし、
申請には登録証が必要だけど、それはあたしがもう持ってるからやってあげられる。)」
「(そうか……本当に助かる。
何日あれば見つかるか見当は付くか?)」
「(最初は伝聞になるから早くて三日……
遅くても十日以内には預かり先が見つかるんじゃないかな?)」
アシュリィの口調が徐々に普段より優しいものになっていく。
言葉にしたことでリリナの処遇が決まっていくようで、思うことがあるのだろう。
――すると。
「ふたりだけでずるいぃっ! 何話してるのっ!」
頭上でぼそぼそと会話していたことに気が付いたリリナがぷりぷりと怒り出す。
ぎゅっとアシュリィの手も握り、二人の手をぶんぶんと振っている。
「すまないすまない、この施設のことを聞いていたんだ。
俺も初めてだったからな。」
「そっ、そうそう。
ちょっと難しい話だったからねっ!」
冷静に答えるラウルと焦るアシュリィ。
腕を振るのを止め
そっかぁ、と顔を真上に向け二人を見ているリリナ。
装飾品として飾られている透明な球状の蓄水鉱が
ラウルとアシュリィを水面上、
上下が逆さになったリリナを水面下に映し出している。
― ― ― ― ―
【蓄水鉱】
地下にて見つかるその原石は水晶のようにも見えるが、その鉱石内部には
その現地の水分を濾過した水を内包しており透明度が高い。
装飾用に磨かれる他、坑道に於ける簡易的な振動測定、
非常用の水分として使われることもある。
― ― ― ― ―
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