『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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華麗なる婚約破棄パーティー、開催のお知らせだそうよ。

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「王子が、婚約破棄を宣言するらしいわよ」

そんな噂が宮廷を駆け抜けたとき、私の口から出た言葉は、
「へー、ほー、はー」
それだけだった。

誰に返すでもなく、ただの気の抜けた反応。
でもまあ、いちいち取り乱すほどの話でもない。
むしろ、私はずっと前から心の準備をしていた。

王妃教育という名目で詰め込まれた、あらゆる知識とマナー。
国一番の教師陣に囲まれ、未来の“王妃様”として磨かれる毎日。
侯爵令嬢である私にとって、それは“夢”というより“責務”だった。

――そう、“だった”。

今や王子は、私ではなく“新たに現れた聖女様”に夢中。
奔放でざっくばらん、神託とやらを武器に振る舞うその人は、どこか浮世離れしている。
恐らく、彼女も“転生者”。
前世の知識を持ち込み、常識や礼節などお構いなしに、異世界を我が物顔で駆けるタイプ。

……肌に合わない。そう思うのは、私もまた“こちら側の人間”だから。

でも、私はあの子とは違う。
“転生特典”を振り回して暴れるつもりはないし、
この世界で生きる人たちを“NPC”なんて見下したこともない。

だからこそ思うの。
そろそろ、この人生も私自身の手で舵を切る時だと。

婚約破棄? どうぞ、ご自由に。
王妃の座なんて、くれてやるわ。
私はもう、とっくに別の夢を見始めている。

貴族の肩書きも、王家の庇護もいらない。
代わりに手に入れるのは、“自分で選んだ人生”。

たとえば――そうね、商売。
美味しいものと面白い仲間に囲まれて、
自分の足で立ち、働き、笑えるような日々。
それが、今の私の夢。

とはいえ、この国は形式を重んじる。
婚約破棄ひとつ取っても、きちんと“舞台”を用意するわけ。

そして私のもとにも届いたわ、正式なパーティーの招待状。
金の箔押しに王印付き、豪華すぎるほどの紙片が、皮肉たっぷりに差し出された。

王子のご英断を、華やかに讃える祝宴――
そう銘打たれたその日が、ついにやって来た。

広大な宮殿の舞踏会場には、既に貴族たちが集い始めている。
煌びやかなドレスの波。
光を反射する宝石たち。
揺れる香水の匂いと、仮面のような笑顔。

けれど、ここにいる誰もが知っている。
今日この場所で、何が行われるのかを。

これは“聖女のお披露目”であり、
同時に“侯爵令嬢マリー、王妃の座から退場”の儀式。

笑顔の裏に漂う興奮。
興味本位と悪意が入り混じった視線が、私の背中に刺さる。
視線は口ほどに物を言う。
“どんな顔で来たのかしら”
“泣いて暴れたりしないかしら”
“最後のあがきを見届けよう”
――そういった好奇心が、場の空気に毒のように満ちている。

滑稽だわ。
でも、滑稽だからこそ、私は冷静になれる。

これは見せしめ。
神の声を頂いたという“聖女”と、
王子の選び直しを、正義のように飾り立てた舞台装置。
全てが美しく、全てが薄っぺらい。

でも、私の戦いはそこじゃない。

この空間で私が見るべきは、
“誰が味方で、誰が敵か”。

笑顔の温度。
沈黙の重さ。
視線の揺れ。
一瞬のまばたきの回数まで、私は見逃さない。

たとえ全員が敵でもいい。
本当に信じられる“たった一人”がいれば、運命は変えられる。
そう確信できるほどには、この人生で鍛えられたつもりよ。

会場の中央、王子の隣には、ドレスに身を包んだ聖女ミキの姿。
金髪にリボンを揺らし、少女漫画的な輝きを纏って、堂々と立っている。

神に選ばれた者、世界の中心。
本人はきっとそう思っているでしょうね。

でも、こっちはもう見透かしてる。
その言葉の中身も、その目の奥の計算も。
転生者として、同じ地面に立っているからこそ。

「私には神の祝福なんていらない。
私の人生は、私が決めるから」

これは、再出発のステージ。
婚約破棄なんてただの幕間劇。
本番は、これから。

――さあ、幕が開く。

面! 正面付!

一発、正々堂々と打ち込んでやるわ。

“悪役令嬢”と呼ばれるなら、その名にふさわしく、
この茶番劇を裏から乗っ取ってやる。

泣くのは後でいいわ。
そのかわり――泣くのは、そっちだからね。ミキ様。
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