『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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新章:聖女、神殿に乗り込む

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神殿の奥――高位神官しか立ち入れない“聖域”の間に、
ズカズカと音を立てて歩く足音が響いた。

「おい、そこに座ってる坊さんたち。あんたら、今朝の報告書、読んだか?」

神官たちは顔を見合わせた。
“新たな聖女の正式召喚に成功した”と高らかに記した報告書。
――だが、そこに記された人物像と、今目の前にいる人物は、明らかに一致しない。

「……ア、アヤネリア様。こちらは“神のご意志”による正統なる召喚でありまして……」

「へえ? じゃあ聞くけど、あんたら、その“神”に会ったことあるん?」

沈黙。

「ええこと教えたるわ。
“神の意志”ってのはな、“民が苦しんでても気づかん上層部”には、絶対降りてこんのや」

バシンと、手に持った巻物を机に叩きつける。
“今朝までに消された村落からの陳情書”。
既に文書としては破棄処理されていたものを、アヤネリアはちゃっかり救出していた。

「こんなもんが“なかったこと”にされてる神殿って、いったい何なんやろなぁ」

一人の神官が口を開く。

「……その書状は、本件とは関係のない、過去の不幸な誤解で――」

「誤解? ほな聞こうか。
神殿の“祈祷費”、一件いくら取ってる?
“病気の娘が神の赦しを受けたい”言うて来た親御さんに、
いくら積ませたんや?」

ぞくりと、空気が冷える。

「……それは、必要な経費であり……」

「そこのガキ、黙っとき」

アヤネリアの声は、驚くほど静かだった。
けれど、その静寂に込められた凄味に、
部屋中の空気がピリピリと震える。



◆カイのターン:ひたすら土下座(ギャグ)

遠く廊下の影にいたカイは、もう限界だった。

「……姐さん、言葉選んで……あああああ、
その神官、王族の義弟! ああっ、姐さん、それ以上はダメえええええ!!」

彼は叫びながら、廊下の隅で土下座していた。

「拝んで済むなら拝むけど!神殿崩壊レベルの啖呵やでそれぇえええ!!」

するとアヤネリアは、ちらりとだけ振り返る。

「うるさい。帰ったら風呂沸かしといてな。あと、昨日の酒まだ残ってたか?」

「かしこまりましたああああああ!!!!」



◆神殿の人事改革

アヤネリアはその日のうちに、
• 古い神託台帳の調査
• 不明な献金ルートの棚卸し
• “祈祷費”の大幅見直し
• 不正告発者への保護制度の創設

……を勝手に進め、
**“聖女直轄の神殿監査室”**を設立した。

名ばかり神官や貴族の腰巾着たちは泡を吹き、
王族からは「また面倒な女が出てきた」と悲鳴が上がる。

だが、民衆は確かに――

「聖女様は“言葉”じゃなくて、“仕事”で神を語ってくれる」

と、目を輝かせていた。



◆エンディングワンシーン

その日の夜、神殿近くの居酒屋で。

「ほな、マリー嬢もおいで。若いのに背負いすぎや。うちが奢ったる」

「……姐さんって、ほんとに聖女なんですか?」

「違うで。“聖女として呼ばれてしまった改革屋”や。
けど……来てもうたからには、やらなしゃあないやろ?」

――そう言って、姐さんはビールジョッキを掲げた。

「平和になるわぁ!!」

ガシャァン!

乾杯の音が、宵闇の空に響いた。

神殿裏庭のベンチ。
月明かりに照らされながら、二人は缶ラムネを片手に並んでいた。

マリーは黙っていた。
アヤネリアも、最初の一口を飲むまで黙っていた。

「……あんた、だいぶ冷めた目ぇしてるな」

「今さら信じるも何も、ってだけです。
この国も、神殿も、王族も……」

「──ほんで、自分のことも信じてへん」

マリーの手がピクリと動いた。

「顔見たらわかるわ。“何をしても、結局、選ばれない側”って、そう思ってるやろ」

図星だった。

「……でも、あんたは逃げてへん。
今日も、あの婚約破棄パーティーでも、ちゃんと立ってた。
涙も叫びも使わずに、な。
それって、“誰かになりたかった女”には、できん芸当や」

「……私、“聖女枠”に向いてないですから」

「せやな。
神様があんた選ばへんのも、王子が逃げたんも、正解や思うで。
けど、あんたがこの先“誰かを救う側”になることまで否定する奴は、うちが許さへん」

アヤネリアの視線はまっすぐだった。

「うちが転生前に学んだんはな、
“信じられる世界がないなら、自分がその最初になれ”ってことや」

「……姐さんって、元・政治家なんですよね?」

「そやで。おかげでクソみたいな罵倒にも慣れとる。
“女のくせに”“BBAは黙っとけ”言われて、“黙らんかったから”落選したわ」

そう言って、アヤネリアはラムネを飲み干した。

「うちは今、“神の御使い”やけどな?
実際は“うるさい女がまた口出してる”扱いや。
けどな、それでも、言う。あんたにも言うとく」

マリーはそっと、顔を上げた。

「――この国は、まだ間に合う。
あんたみたいな“選ばれなかった女”が、立ち上がる限りな」

静かな風が、二人の髪を撫でた。

その夜、神殿の封印区域にて。

魔力が乱れ、警戒網が破られた。
異様な気配を感じて、駆けつけたアヤネリアとマリーの前に立っていたのは――

「よう。まさか再会がこっち側とはね、マリー」

その男は、前世の高校時代の“読書仲間”だった。

かつては優しい文学少年。
だが、今の彼の眼差しは冷たく、どこか空虚だ。

「どうして、あんたが……敵に?」

「“敵”? 違うよ。
ただ、効率的に世界を回すために、“神殿上層に協力してる”だけさ。
この世界さ、誰かが“ルート”を導かなきゃ、終わるんだ」

「……そのために、聖女をすり替えたの?」

「ルート改変って言ってくれよ。
現地人が“正しく苦しむ”ための舞台整備だよ。
そのために、感情のノイズは削除する。マリー、君も」

「……あんた、それでも“読んでた側”かよ」

「え?」

「本を読んでた人間が、“物語を壊す側”になるなんて、最悪だわ。
私たち、感情があるから、生きてるって思えたじゃない。
本の中の誰かに泣いて、怒って、救われたじゃない。
それを“計算”で潰すなんて、ただの管理者以下よ」

男の瞳が揺れる。

だが彼は、首を振った。

「……そんな理想、世界は待ってくれないよ。
この世界は、“感情が残るとバグる”んだ」

その言葉を聞いた瞬間――

「──そら、ええ言葉やな」

ズドォン!!!

壁を破って姐さん、爆誕。

「“感情が残るとバグる”やて? 上等や。
その“バグ”で、腐った運営ごと吹き飛ばしたる」

アヤネリアの背には、まばゆい光の後光(と酒の匂い)。

「マリー! 言うたれ!」

マリーは、強く息を吸った。

「──この世界を正すのに、“運営の許可”なんていらない」

静かに、だが強く放たれた言葉に、転生者の少年は後ずさる。

「君たちは……正規ルートから外れてるんだ……!」

「せやからや。あんたの“正規ルート”とやらが、民を見てへん限り、
うちらが“正しいバグ”になったるわ」

アヤネリアとマリー、ついに本格タッグ始動。
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